↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十五章/大好きな人たちと大切な時間を
418/431

知らなかった場所①

リリアンヌ視点



「はい、今日も大丈夫そうですね」



「ネウロ…ごめんなさい。いつもありがとう」



「謝らないでくださいよ。こちらこそ、良い部屋をくださって感謝しています」

ネウロが、ふふっと笑った。



「それに、リリアンヌ殿下の方が大変でしょう。毎日、登城しなくてはいけないのですから」



「私は、通っているだけだもの」

リリアンヌは、眉を下げたまま答えた。



「殿下は、今日もお出かけされるのですか?」



「ええ。町の方まで行ってきます」


今日も、旅へ行く時と同じ格好で来た。


最近では、この格好でいても、もう城の人たちも驚かない。



「いいですねぇ。僕も、殿下にお付き合いしたいです」



「お仕事、忙しそうだものね」



「ええ。このあとも、他領からいらっしゃる貴族の子を鑑定しに行きます」



「人気者の鑑定士は、大変ね」



「どなたかのおかげで、僕の名前も、少しばかり有名になりましたから」

ネウロが、にこりと言った。



「もともと有名だったでしょう?」

リリアンヌは、頬を膨らませて返した。


ネウロは、国お抱えの鑑定士なのだから。



「まあ、良いお金になるので、いいのですけれど」



「…ねぇ、ネウロ。やっぱり」



「それ以上は、絶対に言わないでくださいよ」

察したネウロが、リリアンヌに手のひらを向けた。



「あなたと金のお付き合いなんて、嫌です」



「…でも、ネウロの時間を取ってしまっているし」


無償で毎日診てもらっていることが、申し訳ない。



「ですが、キリさんにだって金を払ったりしていないでしょう?」



「…確かに」


キリは、たまにひとりで町まで行って買い物をしてくる。


それに、自分が眠っていた三年間はずっと出かけていたはずだ。


気にしたことはなかったけれど…どうしてお金を持っているのだろう。


今度、聞いてみよう。



「同じです。金が欲しくて、あなたの傍にいるわけではないのですから」

ネウロが優しく微笑んだ。



「…うん、ありがとう」

リリアンヌも微笑み返した。



「じゃあネウロ、また明日も来るね」



「ええ。僕の分も楽しんできてくださいね」


お互い挨拶を交わし、王城の客間をあとにした。



ラジャタ村から帰ってきて、半年が経った。


週に三度は、屋敷で授業。


授業が休みの日には、城下町へ出る。


それが、最近の習慣になった。



そんな日々もまた…


王城に住むようになれば変わるのだろう。



ようやく父から許可が出て、半年後に移ることが決まった。


エラドリオール邸を出るなら、いつまでもあの抜け道を使わない方がいい。


そう思って、初めは大正門から町へ出ていた。



でも、王道や市場で何度も呼び止められ、サムの店や薬療院へ辿り着けない。


話しかけられ、お土産まで貰っているうちに、一日が終わってしまう。


だから、大正門から出るのは諦めた。



馬車が止まり、窓の外へ目を向けた。


第二城壁の北門に着いたようだ。



「また、あとでよろしくお願いします」


御者に短く挨拶して、アランフォースとふたりで北門をくぐっていく。



この門からなら、人通りの少ない道を通ってサムの店まで行くことができる。


そこまで辿り着けば、薬療院へも行きやすかった。



見慣れた扉を開けると、カランコロンと可愛らしい鐘の音が鳴った。



「サム、お疲れ様」



「おお、リリィ」

カウンターの向こうから、サムが手を上げて応えた。



「リリィ~!」



「カヤ!」


すぐに、カヤが抱きついてきた。



「あ、メリーママのところの包み!」



「また、貰ってきちゃった」

リリアンヌは、小さく苦笑した。



「カヤ。お前、説明の途中だったろ」



「はいはーい」

カヤは体を離すと、再びサムの前まで戻っていった。


リリアンヌはカウンターにパンの入った包みを置き、カヤの隣に並んだ。



「今日も、ロンじぃのところへ行くの?」



「ううん。今日は、売り子の手伝い」



「売り子?」



「うん。ホン婆が聖院までお祈りに行っている間、代わりに店先に出るの」



「へぇ…」


ホン婆が誰かは、分からないけれど。


いろいろなことをやっているカヤに、感心の声しか出ない。



「じゃあ、カヤ。これ、ホン婆にちゃんと渡せよ」

サムがカウンターの向こうから、丸めた紙をカヤに手渡した。



「ホン婆、字を読めるくせに読もうとしてくれないの」



「まあ、ホン婆だからな。根気強く頑張れ」

サムはそのまま手を伸ばし、カヤの頭を撫でた。



「はぁい」

カヤは嬉しそうに笑い、扉から出ていった。



「…今日は、みんな忙しそうだね」


他に誰もいないということは、みんな出払っているのだろう。



「オレも、少し抜けてくる」

サムが、リリアンヌの置いた包みをがさりと開けた。



「フーロんとこの窓の建て付けが悪いって言うからさ、様子見てくる」

パンをひとつ手に取ると、はむっと食べた。



「あっ、じゃあ、私も今日はもう行くよ」


フーロも、誰かは分からないけれど。


店を閉めるなら、自分もいない方がいいだろう。



「ああ…いや、すぐ戻ってくるから、いてくんねぇ?」



「いいの?」



「いいのっていうか…」



「続き、やっていいの?」



「…頼んでいいか?」

サムが気まずそうに尋ねた。



「もちろん!」

リリアンヌは、にっこりと頷いた。


すぐにカウンターの扉を開け、中へ入った。



「表に、準備中の看板出しとくから。店の奴の誰かは来るかもしれないけど、気にすんな」

入れ違いに、サムがカウンターの外へ出た。



「うん、分かった」



「…本当、悪いな。オレがまだ、ちゃんと計算できないから…」



「気にしないで。それくらいしか、お手伝いできないから」


店に自分の名前が入っているのに、できることは少ない。



「じゃあ、行ってくるわ」

サムが帽子をかぶり、店から出ていった。



「…よし」

リリアンヌは小さく意気込むと、カウンター裏の小部屋へ入った。


アランフォースが続き、扉の脇にそっと立った。



小部屋は、たった半年で事務室と化した。


中央のテーブルを囲うように、契約書が大量に積み上げられていた。



テーブルの上には、乱雑に羊皮紙が積み重なっている。


開業してから半年分の、毎日の収支だ。



一枚だけ別に置かれた羊皮紙には、仕事の内容と報酬、依頼で使った材料費が走り書きされている。


たまに、誰々に小遣い!と書かれているのが、サムらしい。



「……」

リリアンヌはその羊皮紙を持ち上げると、素早く目を通した。


新しい羊皮紙を引っ張り出し、サムの書いた内容を丁寧に書き直した。



入ってきた金と出ていった金に分けて、一日分の収支をまとめていく。


それから過去の収支と照らし合わせ、一か月の金の動きを確認した。



店を続けていくなら、こういうことも大切だ。


町で商売をする以上、売り上げの一部を国と組合に納めなくてはいけない。


その分をあらかじめ残しておかないと、いざ納める時に困ってしまう。



「…すごいなぁ」

リリアンヌは羽ペンを動かしながら、ぽつりと呟いた。



しっかり黒字だ。


もともとの顧客もいると言っていた。


書かれた内容を見る限り、新たな仕事もちゃんと取っている。


便利屋は、信用がないと成り立たない。


サムはすでに、ここで地盤を築いている。



本当に…尊敬する。


私と、四歳しか変わらないのに。


まだ私は、いろいろな人に怒られてばかりだ。


サムと同じ十八歳になれば、少しはしっかりするのだろうか。



…十八歳。


“物語”のリリアンヌと、同じ歳。


あと、四年――



ふいに、カランコロンと店の鐘が鳴った。



店の子の誰かだろうか。


気にせず、羽ペンを動かし続けた。



ふと顔を上げると、アランフォースが扉の向こうを見ていた。



「…どうしたの?」



「店の者ではないようですが…」



「えっ?」

リリアンヌは、慌てて扉から飛び出した。



店内には、誰もいなかった。


と思ったら、カウンターの下から、ひょっこりと小さな手が現れた。



「…こんにちは?」

カウンターから身を乗り出し、下を覗き込んだ。



「こんにちは」


小さな手の持ち主は、小さな男の子だった。


ぶかぶかの服を着て…裸足だ。


おそらく、貧民区の子だ。



「いつもの兄ちゃんじゃない」



「サムのことかな?ごめんね、今、出かけているの」

リリアンヌはカウンターの扉をくぐると、男の子の前に屈んだ。



「どうしたの?」



「仕事の、いらい」



「えっ、依頼?」



「ずっとたのんでるけど、来てくれない」

男の子は、困ったような顔を浮かべた。



「依頼って、何かな?」



「母ちゃんを、たすけて」



「!」



「いらいりょう、持ってきた」

男の子は、綺麗な小花をリリアンヌに差し出した。



「母ちゃん、ずっと寝て、起きないんだ」



「え…?」



「お前、また来たのか…」

鐘を鳴らして、サムが戻ってきた。



「何度来ても、受けられないって」



「どういうこと…?」

リリアンヌは、眉をひそめてサムを見上げた。



「……」

サムは、無言でリリアンヌを手招きした。



「貧民区の子供。親を助けろって来ても、俺らにできることはないから」

耳元でこそりと告げた。



「じゃあ、私が行ってくる」



「やめとけ。きりがねぇよ」



「でも、なんとかしてあげないと」


この子の母親の状況が分からない。


もし白のちからで治せるようなら、今すぐにでも送ってあげたい。



「…お前でも、どうすることもできない」

サムは顔をしかめ、言葉を選ぶように言った。



「何もできなくても、様子を見に行くことはできるでしょう?」

リリアンヌは言い切ると、再び子供の前に戻った。



「ね…あなたのお名前は?」



「マル」



「マル。私と、お母さんのところへ行こう?」



「本当?」



「おい、リリィ」

サムが、すぐにぐいっと腕を引っ張った。



「そいつは、六塔の子供だ」



「六塔…」


ここから西にある、治安の悪い区域――


父や家令から、近寄るなと言われてきたところだ。



「……」

リリアンヌは、ちらりとアランフォースへ視線を向けた。



「……」

アランフォースは、何も言わずに見つめ返した。



「…お願い」



「…せめて、顔を隠してほしいのですが」


渋っているけれど、止めないみたいだ。


でも。



「どうしよう…」


今日は、マントを羽織ってきていない。


顔を隠すものがない。



「!」


後ろからぽすっと頭に何かがかぶせられ、視界が塞がった。



「…これなら、ましだろ」



「ありがとう…!」


サムがかぶっていた帽子だ。



「ね、マル。お腹すいてない?」

リリアンヌは、帽子の位置を直しながら尋ねた。



「食べてから、行こうか」

包みからパンをひとつ取り、マルに差し出した。



「やったぁ!」

マルは、嬉しそうにパンを頬張った。



「…この時間でも、六塔付近は本当に危険だからな」

サムが溜息混じりに囁いた。



「まあ…護衛がいるから、大丈夫だと思うけど」



「あ…計算、途中なの。またあとで戻ってくるね」



「それはいいけどさ…せめてその黒髪、帽子の中に隠せねぇ?」



「そんなに、目立つかな」

帽子をカウンターに置いて、素早く髪を結び直した。



「これで、どう?」


後ろでお団子をして帽子をかぶったら、前につばが落ちてくることもなくなった。



「うーん…」

サムは、まだ納得していないようだった。


肩に、スノウもいる。


完全に隠しきることは無理だ。



「姉ちゃん、ありがと」

マルは、ぺろりとパンを食べた。



「姉ちゃんの名前は?」



「リリィって、呼んで」



「リリィ。はい、いらいりょう」

マルが再び小花を差し出した。



「ありがとう」

リリアンヌはその花を受け取ると、肩掛け鞄の中にそっとしまった。



「じゃあ、マル。お母さんのところへ行こうか」


マルとアランフォースと一緒に、店をあとにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。