↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十四章/リリアンヌを知るとき
414/421

宿敵との再会②

リリアンヌ視点



「ブルック…!言葉を控えなさい!」

すぐに鋭い声が飛んだ。



「ルイージ宰相、いいのです。私にとって、大事な話です」



「…何も関係ないように思えますが」



「関係あります。ルイージ宰相、お願いします」



「……」

ルイージは、険しい表情のままリリアンヌを見つめた。



「…承知しました」



「ありがとうございます」

リリアンヌは礼を言うと、ブルックへ向き直った。



「悪魔とは、ずっと昔にいた精霊の天敵のことですね?」



「そうです。女の悪魔は、精霊を騙し…そして、喰らった」

ブルックの額には、まだ汗が滲んでいた。



「…精霊を騙してはいません」


もちろん、食べるつもりもない。



「いいえ。ヌシカ様自身が、あなたは精霊を欺いたとおっしゃった」



「あれの様子は、明らかにおかしかった。それに、精霊を攻撃した」

キリが反論した。



「ヌシカ様が…精霊を攻撃した…?」

ブルックが訝しげに繰り返した。



「…ブルックだって、攻撃されたでしょう?」

リリアンヌは、きゅっと眉をひそめた。


私の目の前でブルックは、ヌシカに吹き飛ばされた。



「……」

ブルックが黙り込んだ。



「…それで私は、死にかけた」

しばらくして、ぽつりと呟いた。



「…だが、あなたにより…助けられた」

そのままゆっくりと、視線をリリアンヌへ向けた。



「…ブルックが無事で、良かった」

リリアンヌは、小さく笑みを浮かべた。



「その考えが…私には、信じられない」

ブルックは、露骨に顔をしかめた。



「どうして?」



「私は、あなたを殺そうとした人間です」



「でも、殺さなかった」



「殺せなかっただけです」


また部屋に、ぴりっと何かが走った。



「…まだ、私のことを殺したいと思っているの?」

リリアンヌは、そっと尋ねた。



「…いいえ。あなたのちからがこの国に必要なことは、もう分かっています」

ブルックは、静かに首を振った。



「まだ、誰かのことを傷つけようと思っている?」



「…そんなことをしても、もう無意味でしょう」



「そう」



「……」



「こういうところが…悪魔っぽいのかな?」


いまいち分からないけど、ブルックの目が、「悪魔め」と言っている気がした。



「…ええ。あなたは、人を誑かすのがうまい」



「いい加減にしろ…!」


「…んん?誑かす?」


ルイージとリリアンヌの声が重なった。



「悪魔の容姿は、黒髪に紅い目の絶世の美女。その特徴は、あなたそのものだ」

ブルックは、苦々しげに言い切った。



「…!」



「相手を誑かして、自分の味方にして、最後に喰らう。まさに――」



「じゃあ…違うかな」

ぽつりとした声が、言葉を遮った。



「絶世の美女でもないし、誑かしてもいないし。私は、悪魔じゃない」



「……」

ブルックは、さらに顔をしかめた。



「…うん。ブルック、教えてくれてありがとう」


きっと、“ま族”と悪魔は何も関係ない。


それが分かっただけでも、大進歩だ。



「ブルック。別に、私を好きになる必要はないです」

まだ睨みつけているブルックに、リリアンヌは構わず続けた。



「だけど…もう、私の邪魔をしないと誓ってくれるかな?」



「…邪魔も何も、私は、一生ここにいるだけです」

ブルックは、眉をひそめたまま返した。



「でも、ここから出たいでしょう?」



「…それは、そうですね」



「うん、分かった」



「…一体、何なのです?」



「秘密」

リリアンヌは、ふふっと答えた。



私流の、仕返しだ。


ブルックの処罰が私に任されていることを、教えてあげるつもりはない。



「ブルック。今日は、ありがとうございました」

小さくお辞儀して、静かに席を立った。



「それから…私はブルックのこと、嫌いじゃないよ」


三年前は、睨まれるたびに悲しかったのに。


悪魔と言われたことに、あれほど心を乱されたのに。


本当に、何を言われても、なんとも思わない。



「……」

ブルックは、最後までこちらを睨みつけていた。


きっと、ずっと理解し合えないだろう。


それで、いい。



入り口に近づくと、アランフォースがゆっくりと扉を開けた。



「またね」

リリアンヌはブルックに手を振り、扉をくぐった。



「少し、お待ちください」

ルイージが、部屋の内側から扉を半分閉めた。



「…先ほどの内容は、すべて――」


「――言葉に、嘘はない」


部屋の中から何か言葉を交わす声が聞こえたけど、はっきりとは分からなかった。



「お待たせいたしました」

扉からルイージが出てきて、階段を進んでいった。



塔を出ると、すぐにキリが姿を消した。


ルイージとアランフォースと三人で、待機していた馬車へと乗り込んだ。



「…ああ、肝が冷えた」

馬車が動き出した途端、ルイージが溜息を漏らした。



「ルイージ宰相…今日はお付き合いくださり、ありがとうございました」

リリアンヌは、深々と頭を下げた。


絶対に、忙しいはずなのに。



「…あなたは、いつの間にそんな逞しくなったのでしょう」

呆れ混じりの声が返ってきた。



「知りたいことは、聞けたのですか?」



「はい。想像以上に聞けました」


瘴気を送られて、ブルックが無事だった理由も。


体内に入った瘴気には、白のちからが効くかもしれないことも。


ブルックが、私を悪魔と呼んでいた理由も。



どれも今の私には、貴重な情報だ。



「…どうやら、心配しすぎていたようですね」

ルイージは、再び溜息をついた。



「獣人族の件も、左肩の件も。かなり心配したのですよ」



「…獣人族の件?」



「落ち込んで帰ってくるどころか…仲良くなったうえ、ひとり連れ帰ってきてしまった」



「…なぜ、落ち込んで帰ってくるのでしょう?」

リリアンヌは、きょとんと首を傾げた。



「…ですから、こちらの杞憂でした」

ルイージは、小さく苦笑を漏らした。



「私にとって…あなたは、いつまでも可愛い生徒です」



「…!」



「ですので――」



「ルイージ宰相は、私にとって恩師です…!」

リリアンヌは、嬉しそうに返した。



二年近くも、ほぼ毎日授業をつけてくれた。


加護のちからが何なのか、一緒に探してくれた。


ずっと、助けてくれた。


ルイージがいたからこそ、乗り越えることができた。



「…倍になって、返ってくる」

なぜか、額を押さえてしまった。



「…あの」



「…たまに、私に会いに来てください」

ルイージは顔を上げ、ふっと微笑んだ。



「用事がなくても、顔を見せに来てください」



「でも…ルイージ宰相は、いつでもお忙しいです」



「毎日、私の午前の時間を使っておいて、いまさらそれはないでしょう」



「あれは、不可抗力というか…」

思わず、むっと口を尖らせた。



「ふっ…そこは、自分のせいではないと怒っていいのですよ」



「…では、また授業をつけてくれますか?」


まだまだ、聞いてみたいことは多くある。



「ええ、もちろんです」

ルイージは、優しく頷いた。



「…王城へ向かっているようですが、よろしかったでしょうか」

ずっと黙っていたアランフォースが、口を開いた。



「ああ…失礼しました。リリアンヌ殿下、エラドリオール邸に戻られますか?」



「はい。ですが、王城へ寄ってからで大丈夫です」



「そういうわけにはいきません。私は、ここまでで結構です」

ルイージが小さく振り向き、コンコンと壁をノックした。


馬車が、ゆっくりと止まった。


まだ、知らない景色だった。



「では、リリアンヌ殿下。またお会いしましょう」



「はい。ルイージ宰相、ありがとうございました」


扉が閉じてしばらくすると、再び馬車が進み出した。


窓の外では、ルイージが見送ってくれていた。



久しぶりに、ルイージとゆっくり話せた気がする。


目覚めてからは確か、一度もなかった。


攫われた事件の時以来だったかもしれない。



本当に…自分にとって、良き先生だ。


家族とも仲間とも、また違う存在――



「…気は済みましたか」



「…!」


ひやりとする声に、リリアンヌは、はっと窓から視線を外した。


アランフォースが、目を細めてこちらを見つめていた。



これは…


怒られる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。