表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/62

第一章Ⅶ(仲直りのぎゅ)③

リリアンヌ視点



「リリィ…ありがと…」


メルは腕に顔を半分埋め、うとうとしていた。



「…ううん」

リリアンヌは絵本を閉じると、両膝で立ち、ベッドを覗き込んだ。



ユウとモモは、うつ伏せのままぐっすり眠っている。


足元で丸まっていた布団を引き寄せ、二人の胸元まで引き上げた。


その端を横へ広げ、メルにもそっと掛けた。



「…リリィ」

メルが、小さく呼んだ。



「ん?なあに?」



「なにか、うたって…」



「え」



「オレ、うたのほうが好き…」



「う、歌…」



「リリィなら…しってるでしょ?」



「……」


知っては、いる。


それに、歌うことは好きだ。



「おねがい…」



「…うん」

リリアンヌはそっと手を伸ばし、とん、とん、とメルの背中を優しく叩いた。


その音に合わせるように、すぅっと息を吸って歌い出した。




――ねんね ねんね

おやすみ いい子


今日はたくさん えらかった


転んだ君も 泣きべそあの子も

ちゃんと おひさま 見たでしょう



ねんね ねんね

おやすみ いい子


町はもう ねむったよ


あしたに向けて 目をとじて

夢はすぐそこ 待ってるよ




「……すー…」

メルは、すぐに寝息を立て始めた。



「……」

リリアンヌはぎゅっと口を結び、涙を堪えた。



ユウとモモは、まだ三歳だ。

だけど、メルだってまだ四歳だ。



本来なら、親に甘えたい年頃なのに――


この子たちは、それを許されない。



それを切なく思うのは、同情なのだろうか。


こうやって読み聞かせや子守歌を歌うことも、

偽善になってしまうのだろうか。




「……」

小さく頭を振り、メルから手を離して立ち上がった。



「ええと…」


絵本は、どこに置けばいいだろう。


水差しの横に置いておけば、気付いてくれるだろうか。



「…!」


トン…カン…と、

微かに何かを打ちつける音が聞こえてきた。



音は、窓の方からだ。

子供部屋の窓は、大きく開かれている。



リリアンヌは絵本を棚に置き、そっと窓辺へ近づいた。



屋根の上から、音が響いている。

ギタンが、何かを直しているのだろうか。



窓の縁に両足を掛けると、トンッ、と一気に屋根の上へ跳び上がった。



「…あ」


そこにいたのは、ギタンではなかった。


サムが、こちらに背を向けて屈み込んでいた。




「…何しているの?サム」



「おわっ…!びっくりした!」

サムは肩を強張らせ、ぱっと顔を上げた。



「あっ…ごめんなさい」


驚かせてしまった。



「リリィっ…どうやって、ここまで来たんだ?」



「どうやってって…いつも通り、歩いて」



「ちげぇよ、屋根の上にってことだよ」



「窓から登ってきたよ」



「ええ…?お前も登れんのか?」



「屋根を修理していたの?」


サムの手には、金槌が握られていた。




「え、ああ…そう。この間登った時に、めくれてんのが気になったから」



「そんなことまでできるの?」



「別に…ただ、金槌で打ちつけてるだけだよ」

サムは再び手元に視線を落とすと、トン、カンと浮いている釘を打ちつけた。



「すごいね。サムは、なんでもできちゃう」


野菜を手際よく切れるし、子守も上手だ。

剣だって、とてもうまく扱える。


頼れるお兄ちゃんだ。



「全然…ギタンの方が、もっといろいろできるよ」


背中を向けたままのサムが、ぽつりと答えた。



「だってギタンは、ずっと年上だもの」


年齢も経験も、何もかも違う。




「…リリィ」

サムは手を止め、ゆっくりと振り返った。



「昨日は…ごめんな」



「え…?何が?」



「きついこと、言っただろ?」



「あっ…ううん!」

リリアンヌは、慌てて首を振った。



「あれは、私が悪かったの…!」



「でも…オレが怒ったから、元気なかったんだろ?」



「ううん、違う、違う…!」



「…結局、孤児院に戻らず帰ってった」



「それは…思ったより、炊き出しが長引いたから」



「ずっと、目ぇ合わせなかっただろ」



「そ、そんなこと…」



「オレらと、気まずい?」



「…ううん」

リリアンヌは目を伏せ、小さく首を振った。



「ごめんなさい、サム…」



「別に、お前が謝ることないだろ。謝んのは、こっちだ」



「ううん…私の方だよ…」



何が同情か分からなくなって、


どう接すればいいのか、分からなくなって。



勝手に、気まずさを感じていただけだ。


サムは、何も悪くない。




「じゃあ…仲直り、しようぜ」

サムは金槌を屋根の上に置くと、手のひらをリリアンヌへ向けた。



「…へ?」

リリアンヌは、きょとんとサムの手のひらを見つめた。




「仲直りの、ぎゅ、だよ」



「な、仲直りの、ぎゅ?」



「あれ、お前んとこでやんない?」



「…やんない」


聞いたこともない。



「手ぇ、出して」



「…こう?」



「そう」


リリアンヌの出した手を――サムは、ぎゅっと強く握った。



「これが、仲直りのぎゅ。

これをしたら、お互い許さなきゃいけない決まり」




「あはっ…!なんか、可愛い」

リリアンヌは、思わず吹き出した。



「そうか?」



「ふふっ…サムの口から、ぎゅ、って…!」



「おい、笑うなよ」



「ごめん。…ふふふっ」



「でこぴんするぞ」



「あははっ…」


懐かしい言葉に、余計に笑いが止まらなくなった。




「…お前は、笑うところがよく分かんねぇな」

サムは、ふっと笑みをこぼした。



「リリィ、まだ時間あんのか?」



「ん?うん、あるよ」



「じゃあ、ちょっと話そうぜ。座れよ」



「うん」

リリアンヌは頷くと、サムの隣に膝を抱えて座った。



屋根の上からは、菜園が見渡せた。


ギタンが、竈の奥で何か作業している。


竈の前では、ヌイとワンスが、平石の上に広げた麦束を木の棒で叩いていた。




「あれは、何しているの?」



「え?…ああ、ヌイとワンス?小麦の脱穀だよ。この間収穫したやつが、乾燥し終わったからな」



「へぇぇ…脱穀って、ああいうふうにするんだ」



「もっと量があるところは、多分、違う方法だけど」



「サムは、手伝わなくていいの?」



「まだ、オレが屋根の上で作業してると思ってるだろうから。いいよ」



「ええ…?ふふっ…」


サムも手を抜くことがあると分かって、少しだけ安心した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ