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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十四章/リリアンヌを知るとき
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さらに増えていく課題

リリアンヌ視点



「こいつは、王城の部屋に住まわせろ」

ロデオは、娘に目を向けたまま言った。



「ええと…ネウロ」

リリアンヌは、ロデオの隣でおずおずと正面に視線を向けた。



「なんでしょう?」



「…本当に、家を出るの?」



「ええ。もともと、王都にあるパルミアの屋敷は出るつもりでした」

ネウロは、けろりと答えた。



「それは…許されるの?」



「許すも何も、僕は跡を継ぐ気はありませんから」



「……」


婚約者のティナは、ネウロが侯爵家を継ぐことを望んでいるのではないだろうか。



「ティナは、別に僕が平民だろうと気にしませんよ」

ネウロが心を読んだかのように答えた。



「彼女は、働いていますからね」



「えっ、そうなの?」



「…話を、戻していいか?」

ロデオが低い声で口を挟んだ。



「はい。ごめんなさい」

リリアンヌは、すぐに姿勢を正した。



「リリィ。大変だが…毎日登城して、こいつに様子を診てもらえ」



「はい。お手数をおかけします」

ネウロに向かい、ぺこりと頭を下げた。



「ただし、会うのは必ず客間でだ」



「ネウロの部屋まで、行ってはいけないということでしょうか?」



「そうだ」



「あの…お父様。王城の上階に、私は近づかない方がいいのでしょうか?」

リリアンヌは、困ったように父を見上げた。



「なぜだ?」



「できれば、そこに住みたいのですが」



「…なぜ、その選択が出た?」

ロデオが、こめかみを押さえた。



「…その」


なんて言えばいいだろう。



「…ネウロの傍にいた方が、私も安心だから」



「リリアンヌ殿下。嘘は駄目ですねぇ」



「……」



「言ったでしょう。このちからは、リリアンヌ殿下のために使うと」

ネウロは、睨むリリアンヌに肩をすくめてみせた。



「千里眼のちからは、遠くを見るちからじゃないの?」


まさか、相手の考えていることまで分かるのだろうか。



「僕もまだ完璧には理解していませんが、この目は、リリアンヌ殿下の嘘や隠しごとには、よく反応しますよ」



「……」



「リリィ。正直に言いなさい」

ロデオが優しく言った。



「…いざという時に、対応できる方が多くいらっしゃるからです」



「…いざという時?」



「その、分かっています。アランフォースが…私は、異形の存在(ゼノプーパ)にならないと言ってくれました」

リリアンヌは、そっと目を伏せて続けた。



「……」

ロデオの目が、すっと細くなった。



「それでも…もし何かあったら、王城にいれば私も安心します」


…そうすれば。


異形の存在になる前に、最強の騎士たちが、きっと――



「お前は…目覚めてから今まで、何ともなかったはずだ」


気遣わしげな声に、顔を上げた。



「何も、無理する必要はないんだぞ」



「無理は、していません」

リリアンヌはすぐに首を振った。



「それともやっぱり、成人するまではここを出ない方がいいのでしょうか?」



「…普通は、結婚するまでは出ないんだがな」



「…お父様、ごめんなさい」

リリアンヌは、しゅんと眉を下げた。



「私がもっと、普通の令嬢と同じように――」



「リリィ。私が悪かったから、やめてくれ」

ロデオは、即座に言葉を遮った。



「お願いだ、そんな顔はするな」



「ロデオ総長の溺愛ぶりは、噂通りですねぇ」



「黙れ」

ロデオはぎろりとネウロを睨みつけると、再び視線をリリアンヌに向けた。



「…ただ、お前が王城で住むとなったら、理由を作る必要がある」



「え…?ええと…例えば、精霊について調べるため、では駄目なのでしょうか?」


加護を授かったあと、二年近く毎日登城していた。


それと同じような理由では、駄目なのだろうか。



「それでは、城に住む必要はないな」



「療養のため…とか」


まるきりの嘘ではない。



「それだと、お前は城から出られなくなるぞ」



「それは…困ります」



「…ひとつ、手はなくはないが」



「えっ、なんでしょうか?」



「…だが、これは…」

ロデオは目を伏せ、小さく呟いた。



「まあ、それらしい理由を作ったところで、結局はロデオ総長が懸念している噂が流れるでしょうね」

ネウロはカップを持ち上げ、静かに紅茶をすすった。



「噂…?どんな噂なのでしょうか?」

リリアンヌは、きょとんと首を傾げた。



「…大きくは、二つだな」

間を置いて、ロデオが口を開いた。



「ひとつは…お前が王位を狙っているという噂だ」



「…えっ!?な、なんで…?」

思わず、声が裏返った。



「だって、ブライアンは王太子ですよ…?」


確かに、自分にも王位継承権はあるけれど、


狙ってもいないし、狙っていると思われる理由も分からない。



「そっちの噂が流れるくらいなら、もうひとつの方がいいと僕は思いますけれど」



「お前の意見は、聞いていない」

ロデオが、再びネウロを睨みつけた。



「もうひとつは、どんな噂でしょうか?」



「…まあ、それを隠れ蓑にしてもいいか…」

父は答えず、ぶつぶつ呟き続けている。



「ここにいても…どうせ、勝手な噂は流れる」



「…お父様?」

リリアンヌは、そっと父の顔を覗き込んだ。


ふいにロデオは、まっすぐな目を娘に向けた。



「お前には、絶対に幸せになってほしい」



「…は、はい」



「これからずっと愛する者に囲まれ、最期は、天寿をまっとうしてほしい」



「……」



「何ものにも心を乱されることなく、幸せに生きてほしいと思っている」



「…私も、できればそうしたいです」

つい、小さな声になってしまった。



「お前は…その夢を、この屋敷にいるだけでは叶えられないのだろう?」

ロデオは、そっと娘の肩を掴んだ。



「…はい」


家族のことは、大好きだ。


自分のことをこれだけ心配してくれる家族を、心から愛している。



だからこそ。


この場所で、異形の存在になるわけにはいかない。


死んでしまう運命だった三人を、二度と危険な目に遭わせたくない。



「…すぐに出て行くつもりではないのだろう?」



「はい、もちろんです。お母様も、きっと…私の授業のことを考えてくださっているから」

母のにっこり顔を思い出して、思わず苦笑いがこぼれた。



「…分かった」

ロデオは、ふっと息を吐いた。



「そのことも含めて、考えておこう」



「…駄目でしょうか?」



「駄目とは言っていない。だが、少し時間をくれ。兄上とも話を――」

ロデオは、はっと言葉を止めた。



「そうだ、リリィ。兄上とまた会うつもりなのか?」



「!もう、アランフォースが伝えてくれたのでしょうか?」



「明日の十時に、いつもの部屋で待っていろとのことだ」



「えっ…」



「兄上が、その部屋に訪れるそうだ」

ロデオは、溜息混じりに続けた。



「もう、明日?」


時間が欲しいと言ったのは、今朝の話だ。



「じゃあ、僕もさっそく明日、城に移りましょうかね」



「…ああ、お前がいることを忘れていた」

ロデオは、ちらりと正面のソファに目を向けた。



「そうでしょうねぇ。家族愛、羨ましいです」

ネウロは、ふふっと小さく笑った。



「ロデオ総長。僕も、リリアンヌ殿下とお話があります」



「なんだ」



「ですから、リリアンヌ殿下にお話があります」

ネウロはもう一度繰り返した。



「二人きりで話す許可を、ください」



「…今か?」

ロデオの顔が、みるみる険しくなった。



「ええ、今です。リリアンヌ殿下と二人きりになれる機会は、少ないですから」



「私がいてはいけない理由はなんだ」



「そうですねぇ…かなり個人的な話になりますので」



「はぁ?」



「お父様…私からも、お願いします」

リリアンヌは、懇願するように父を見上げた。


ネウロが話そうとしていることは、なんとなく分かっていた。



「…多くの衛兵を、客間の前に置いていくことになるぞ」

ロデオは、ネウロから目を離さなかった。



「ええ、構いません。キリさんやビッケ君でなければ、誰でも」



「話が終わったら、さっさと帰れよ」



「お父様、ありがとうございます」



「…礼はやめろ。お前も、無闇に誰かと二人きりになろうとするな」

ロデオは、困り顔を娘へ向けた。



「ごめんなさい。話が終わったら、すぐ自室に戻ります」



「何かあれば、大声を出せ」



「僕は、信用ないですねぇ」



「当たり前だろう」

ロデオは、ネウロを睨みながら立ち上がった。



「リリィ、また明日な」


「はい、おやすみなさい」


最後に額へのキスをして、父が部屋から出ていった。



外で、何か指示している声が聞こえる。


本当に、衛兵を部屋の前に置いているのだろう。



「…リリアンヌ殿下は、愛されていますねぇ」



「ネウロ…ごめんなさい」



「なぜ謝るのです?」



「お父様は、私を心配してくださっているだけで、その…」



「ああ…僕を警戒するのは、当然でしょう」

ネウロはさらりと言った。



「それより、話を進めましょうか」



「ええ、そうね」

リリアンヌは、ぴしっと姿勢を正した。


話したいことはきっと、私の傷跡についてだ。


何か気になることがあるのだろう。


傷跡を見せてと言われた時のために、羽織ものを――



「単刀直入に言います。リリアンヌ殿下は、人族ではありませんね?」



「…へ?」


予想とまったく違った言葉に、きょとんと目を見開いた。



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