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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十四章/リリアンヌを知るとき
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動き出した男たち①

ビッケ視点



『何があっても、あなたを護り、助けます』



アランフォースは…格好良いな。


本当に、リリアンヌを護ってしまうから。



二度目に見た精霊王は、一度目の時より、圧倒的な存在だった。


圧倒的というか…


あんなの、誰も勝てない。



まったく体が動かなかった。


ただ精霊王が話しているのを、聞いていることしかできなかった。


真っ青になっているリリアンヌを…見ていることしかできなかった。



途中で、耳が壊れるかと思うような甲高い音がして…


突然、目の前に白い壁が現れて、リリアンヌと精霊王の姿が消えた。


姿は見えないのに、二人の会話だけは、はっきりと聞こえていた。



『我が、今からこの場にいる皆を――消し去る』


あの瞬間、さらに体が押さえつけられた。



本当に、殺されるかと思った。


訳も分からず、ただ混乱していた。



アランフォースだけが、動いた。



背中の大剣を振りかぶって、目の前の白い壁を斬り裂いた。


そのあと、みんなの体が動くようになると、キリも白い壁の中に入っていった。



ロデオも続こうとしたけど、入れないようだった。


ブライアンが大量の光を放って壁に当てていたけど、びくともしなかった。


エドガーと呼ばれた騎士が、国王に向かって、「転移できません」と首を振っていた。



オレは、一番後ろで突っ立っていることしかできなかった。


何のためについてきたのか、もう分からなくなってきた。



「お前の方法を考えろ」



「…え?」

ビッケは、隣に立つキリをそっと見上げた。



「お前だけの方法で、リリアンヌを支えればいい」



「……」


キリも、すごい。


どうして考えていることが分かるんだろう。


いつでも、自分に欲しい言葉を掛けてくれる。



「…分かっています」


リリアンヌの声が聞こえ、再び顔を前に向けた。


こちらに向かって、駆けてくるところだった。


いつもの、門の前でのふたりの時間が終わったようだ。



アランフォースはその場から動かず、リリアンヌをじっと目で追っていた。



「ごめんね、お待たせ」


自分たちと合流すると、やっとアランフォースが門に向かっていった。


リリアンヌは、何も気付いていないみたいだ。



「やっと、帰ってきたって感じがするね」

リリアンヌは嬉しそうに言うと、前庭を進んでいった。



「……」


いつも通りの表情に見える。


馬車の中では、ずっと何か考え込んでいたのに。



あんな話を聞いたら、当たり前に決まっている。


左肩の傷跡にそんな意味があったなんて…知らなかった。


まだオレは、リリアンヌのことを本当の意味で知らない。



…だけど。


オレがやるべきなのは、一緒になって考え込むことじゃない。



屋敷の入り口に近づくと、ゆっくりと扉が開かれた。



「お嬢様、キリ様。お帰りなさい」

扉の奥から、家令のステファンが現れた。



「ただいま、ステファン」

リリアンヌは明るく返すと、扉をくぐっていった。



「守衛隊の方たちが、荷物を届けてくれましたよ」



「本当?」



「…おや、ビッケ様も一緒でしたか」

ステファンはわずかに目を見開き、キリの後ろにいるビッケへ視線を向けた。



「ステファン…様」

ビッケはぱさりとマントを外し、まっすぐ家令を見上げた。



「オレに、従者としての仕事を教えてください」



「…はい?」



「ビッケ…まずは、部屋に戻って着替えよう?」

リリアンヌが、腕を優しく引っ張った。



「いや、もう、今からだ」

ビッケは、その手をそっと解いた。



「オレは、リリアンヌ…様の、従者となるために戻ってきました。オレに、仕事を教えてください」



「…ふむ、なるほど」

ステファンは、興味深そうに頷いた。



「ええと…ステファン。お父様には、もう許可を貰っているの」

リリアンヌは、おずおずと口を挟んだ。



「その…ビッケを、私の従者として雇いたいの」



「ええっ!本当ですか!?」


「やったぁ!」



「うわっ」


突然大きな声が聞こえ、びくりと肩が上がった。



「スーザン、モアナ。今すぐ仕事に戻りなさい」

ステファンが振り向き、壁の奥に向かって窘めた。



「はいっ!」


「ビッケ、みんなにも伝えておきますね!」


顔を覗かせた侍女たちが、嬉しそうに言って去っていった。



「…まったく」

ステファンは小さく溜息をつくと、再びリリアンヌの方へ顔を向けた。



「事情は分かりました。彼は、責任を持って私が育てましょう」



「本当…?ステファン、ありがとう!」



「そうですね…一年」

ステファンは、人差し指を立てた。



「一年、彼をお借りします」



「えっ」

リリアンヌが、固まった。



「ええと…その間は、私と一緒に出かけては駄目?」



「ええ、駄目です」

ステファンが、にこりと答えた。



「…マントをしていても?」



「駄目です」



「……」


リリアンヌの視線が、こちらに向いた。


ビッケは、力強く頷いた。



「…分かりました。ステファン、よろしくお願いします」



「ええ。お嬢様とキリ様は、どうぞ部屋へお戻りください」



「ビッケ…またね」

悲しそうに手を振り、去っていった。



同じ屋敷内にいるのに、寂しがる意味が分からない。


相変わらず、リリアンヌは変なところで落ち込む。



二人の姿が見えなくなると、ステファンは静かにビッケに向き直った。



「さて…ビッケ」



「はい」

ビッケは旅の装いのまま、ぴしりと姿勢を正した。



「王族の従者になるということは、本来、並大抵の努力では務まりません」

いつもの柔らかい目つきが、今は厳しい。



「相当な覚悟が必要です」



「大丈夫です」

ビッケは、こくんと頷いた。



「…まずは、そこからですね。返事は、はいか、いいえで答えなさい。首を動かすことを禁止します」



「…はい」

反射で頷きそうになる首を、なんとか止めた。



「それから…その見た目」

ステファンの目が、すっと細められた。



「……」


獣人族ということを、隠せと言われるのだろうか。


まさか…耳と尻尾を切れと言われるなんてことが――



「汚れていることを、恥と思いなさい」



「…え」

ビッケは、ぽかんと口を開けた。



「返事は、はい、でしょう」



「はい」



「頷かない」



「はいっ」



「…まずは、そこに隠れている侍女たちに、使用人用の部屋と風呂場を案内してもらいなさい」

ステファンが振り向き、壁の方を指さした。


さっき、スーザンとモアナが顔を覗かせていた場所だ。



「身だしなみを完璧にして、また私のもとに戻ってきなさい」



「はい」



「頷かない」



「ごめんなさい」



「申し訳ございません、です」



「申し訳ございません」



「…嫌になりましたか?」

ステファンが、ふっと口角を上げた。



「いいえ。絶対に、リリアンヌ…様の、従者になりますから」

ビッケは、真剣な表情で返した。



――リリアンヌ殿下のお傍にいたいなら、胸を張って後ろに立てる男になれ



父ちゃんから言われた言葉だ。


たかが従者の指導くらい耐えられなくて、傍にいられるものか。



自分だけの方法で、リリアンヌの傍にいる。


まだ…それが何かは、分からないけれど。



戦えなくても、護れなくても、精霊を見つけられなくても。


絶対に、自分だけの方法を見つけてやる。



「…可愛い」


「はぁ…一生懸命な姿もいい…」



「……」


奥から聞こえる二人の声で、台無しだ。



「さ、行きなさい」

ステファンが、優しくビッケの背を押した。



「今日から、厳しくいきますよ」



「はいっ」


ビッケは元気よく返事をして、侍女たちのもとへ足を踏み出した。



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