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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十四章/リリアンヌを知るとき
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床の上の話し合い①

リリアンヌ視点



「…アランフォース?」


どうして、そんなに汗をかいているのだろう。


どうして…すぐそこにいたはずなのに、返せなんて言うのだろう。



「…ああ、君は加護を持っていたね」

オーリアの表情は変わらず、穏やかなものだった。



「オーリア様。冗談が過ぎます」



「!キリ…」


オーリアの後ろに、キリが立っていた。


苦しそうに、肩で息をしている。


その肩には、スノウがとまっていた。



「…君もまた、加護を持っている」



「…え?」



「リリアンヌ。どうする?」

オーリアは、何事もなかったかのように尋ねた。



「…私は」



「何度だって、あなたを助けます」


言い切る前に、鋭い声が遮った。



「……」

リリアンヌは、ゆっくりと視線を上げた。



「瘴気を送られても。また、私があなたを助けます」

アランフォースは、まっすぐに見下ろしていた。


じっと、見つめ合い――



「…オーリア様」

やがて、視線を落とした。



「私は…望みを、叶えたい」



「…そう」

オーリアは手を離すと、静かに立ち上がった。



「リリアンヌ…!」


「リリィ!!」


その瞬間、周囲の音が一気に戻った。



「リリィ…おいで」



「え…わっ…」


父にひょいと持ち上げられ、そのまま玉座から遠く離された。



「おい、大丈夫か」

ビッケがすぐに駆け寄って、顔を覗き込んだ。



「え?うん…」

リリアンヌは答えながら、辺りを見渡した。



ロデオの前へ、レックスとブライアンが出た。


ブライアンは、今にでもちからを使うかのように左手を構えている。



レックスを護るように、エドガーとルイージが並んだ。


離れたところで、ネウロがじっと左目を光らせている。



玉座の横に立つアランフォースとキリが、歩き出したオーリアを目で追った。


アランフォースは…大剣を抜いている。



まるで――全員で、精霊王を倒そうとしているみたいだ。


それでもオーリアは、ずっと微笑んでいた。



「何があっても、俺たちはリリアンヌを護る」

レックスのよく通る声が、辺りに響いた。



「リリアンヌが抱えたものを、俺たちも背負う」



「その言葉が聞けて、安心したよ」

オーリアは静かに頷き、やがてネウロへ視線を移した。



「精霊の目を持つ者の子よ」



「はい」



「君なら、リリアンヌの様子が分かるだろう?」



「白い光にまとわりついている、黒い塊のことでしょうか」



「そう。その塊が白い光を覆い始めた時…それが、リリアンヌの感情が一線を越える合図だ。そうなる前に、手を打つこと」



「分かりました」

ネウロは力強く頷いた。



「リリアンヌ」

オーリアは、今度は一番奥にいるリリアンヌへ顔を向けた。



「精霊探しは、焦らなくていいんだ」



「…焦ってはいません」



「もう我のちからも、だいぶ戻った」

オーリアは、優しく続けた。



「デューゼの森で我と話したことを、覚えているかい?」



「はい」


もちろん、覚えている。



「君の望みとは…その時に話したことだね?」



「…はい」



「精霊のことだけではなく…すべての愛する者たちのために」


オーリアは、周囲の男たちをゆっくり見渡し――



「…その望みを、叶えなさい」


最後に、リリアンヌに向けて優しく微笑んだ。



「…はい」

リリアンヌは、男たちの後ろから小さく答えた。



「何かあったら…また、いつでも我を呼んでくれ」

オーリアの体の光が、ふわりと広がった。


帰る合図だ。



「…あの、オーリア様。ありがとうございました」



「…我は、いつでも君を歓迎するよ」


辺り一面が緑に光り――


オーリアが、消えた。



玉座の間に、静寂が落ちた。



「…くそっ、疲れた」

ふいに、レックスはその場にどさりと座り込んだ。



「陛下」



「おい、リリアンヌ」

レックスは諫めるエドガーを無視して、リリアンヌを睨みつけた。



「お前、ふざけるなよ」



「…ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


まさか…ここまで大ごとになると思ってもいなかった。



「違う」

なぜか否定されてしまった。



「どうして躊躇った」



「…?何をでしょうか?」



「デューゼの森に行かせるわけねぇだろ」



「…!」


オーリア様との会話を、聞いていたのだろうか。



「全員、座れ」

レックスが、ぐるりと床を指した。



「…陛下、せめて場所を――」



「エドガー、お前もだ」



「……」

エドガーが、レックスの後ろで跪いた。



リリアンヌは、その場で膝をついた。


ロデオもすぐ隣に屈み、そっと体を寄せた。


全員が思い思いに腰を下ろし、輪になった。



「…想像以上だったな」

ルイージがモノクルを押し上げ、静かに呟いた。



「聞いていた話より、ずっとまずい」



「何が、まずいのですか?」

リリアンヌはすかさず尋ねた。



「…簡単に我々を消し去り、あなたを連れ去ってしまえることです」

ルイージは、言葉を選ぶようにゆっくりと答えた。



「あれは、例え話です。オーリア様は、そんなことしません」



「…ええ、分かっています。それでも」



「いつでもそれができるということを、俺たちに知らせた」

レックスが不機嫌な声で、ルイージの言葉を継いだ。



「俺たちへの、明確な脅しだ」



「…?」



「…お前に話しても無駄だ」

レックスは、ふいとリリアンヌから視線を逸らした。



「ネウロ」



「はい、なんでしょう」



「お前のその左目のちからは何だ。鑑定のちからじゃねぇだろ」



「いいえ、今のは鑑定のちからです。千里眼のちからが目覚めてから、以前よりいろいろと見えるようになりました」



「は…?千里眼のちから?」

ルイージが訝しげに眉を寄せた。



「世界も人をも見通すと言われているちからだぞ…?」



「…それは伝説のちからだ」

レックスはネウロを見据えながら言った。



「いいえ、伝説ではありません」

ネウロはきっぱりと言い切った。



「これは、リリアンヌ殿下のために精霊王が引き出してくださったちからです」



「そのちからがあれば、お前は国を傾けることもできる」



「えっ?」

リリアンヌは、ぎょっとレックスに顔を向けた。



「…やっぱり、分かっていなかったか」

ブライアンが溜息混じりに呟いた。



「国を傾ける…?」


千里眼のちからは…


世界中のどこでも見ることができるちからで、“物語”では、精霊探しのために使われてきた。


でも、ルイージやレックスの言い方だと、それ以外の意味もありそうだ。



「ですからこれは、リリアンヌ殿下のために得たちからです。

リリアンヌ殿下以外のために、このちからを使うつもりはありません」



「…ネウロ!」

リリアンヌは、はっと顔を上げた。



「それは――」



「リリアンヌ殿下のご希望とあれば、国を傾けてみせますが」

ネウロは表情も変えず、さらりと言った。



「…!」

慌てて首を振った。


不敬どころの話じゃない。



「お前がそのつもりなら、いい」

レックスは事もなげに返した。



「それより今、こいつは大丈夫なんだな」



「ええ。いつもの通り…白い光に、黒い塊がまとわりついているだけです。今のところ、覆うような動きはありません」

ネウロの左目が一瞬、青く光った。



「…今後、こいつをどうするか」



「…あの」



「お前は黙ってろ」

レックスは目も向けずに言い放った。



「……」


どうして自分の話のはずなのに、黙らされたのだろう。



「何も変わらない。リリアンヌの好きに生きればいい」

キリが平然と言った。



「分かってる。だが、こいつは今回みたいに勝手に巻き込まれる」



「何も問題なかった」



「問題だらけだっただろ」

レックスは顔をしかめてキリを睨みつけた。



「私も、キリ殿に同意見です」

ブライアンが素早く口を挟んだ。



「結局、今まで通りにするしかない」



「我慢したら、それこそ感情がどうなるかも分かりませんからね」

ネウロが頷いた。



「兄上、護衛の数を増やすべきではないか?」

ロデオが、リリアンヌの肩を寄せながら言った。



「護衛の数は問題ありません」

アランフォースが間髪入れずに返した。



「私がいれば、何も問題ありません」



「…あのな、そういうことでは――」



「そこを変える気はない。アランフォースが専属護衛。王都から出る時は、ブライアンもつける」

レックスは、ロデオの声を遮って淡々と言った。



「キリもいるだろ。下手に人数を増やすくらいなら、今のままでいい」



「あのっ…!」

リリアンヌは、隙をついて声を上げた。


黙らされたけれど、自分のことだ。



「私は、異形の存在(ゼノプーパ)になる可能性があります」



「また護衛はいらないとでも言い出す気か」

レックスは、じろりとリリアンヌを見た。



「違います…!そうではなくて…いつ、どこで、異形の存在になるか分かりません」



「感情が一線を越えた時の話だろ」



「経験したことがないから…どうすれば越えるのかも分かりません」

リリアンヌは、むっと眉を寄せた。



「私が王都にいるのは…危険ではないですか?」



「……」



「…私が、生きているのが――」



「誰か、その馬鹿を黙らせろ」



「…!」


怒気の滲んだ声に、びくりと肩をすくませた。



「……」

ロデオは、優しく娘の肩をさすった。



「…よく聞け」

レックスは鋭い目のまま、リリアンヌへ向き直った。



「お前を絶対に殺さないし、死なせない」



「……」

リリアンヌは、困惑の表情を浮かべて見つめ返した。



「お前がそう考えることが分かっていたから、精霊王は俺に言ったんだろ」



「でも…自分のことです」



「違う。その傷は、お前が俺たちを護るために負ったものだ」

レックスは、まっすぐにリリアンヌの左肩を指した。



「言っただろ。俺たちも、“それ”を背負うと」



「……」



「…リリアンヌ、お願いだ。これからの君の話をさせてくれ」



「…これからの話?」

ゆっくりと、ブライアンに顔を向けた。



「そうだ。君の望みとは、精霊を探すことなのだろう?」



「……」



「…違うのか?」

ブライアンの声が低くなった。



「…いいえ。違わないです」



「それは、嘘ですね」

ネウロが即座に口を挟んだ。



「う、嘘じゃない…!」



「でも、それがすべてではないでしょう?」



「……」


どうして分かったのだろう。



「リリアンヌ。言え」



「…い、言いたくありません」

思わず、言い返した。



「お前の望みを、言え」

レックスは、もう一度命じた。



「…あの、これは、まったく関係のないことで」



「関係ないわけねぇだろ」



「でも…」



「リリィ。大事なことだ」

肩を寄せながら、ロデオが優しく言った。



「お前を咎めたりはしないから、言いなさい」



「…うう」

リリアンヌは小さく呻き、両手で顔を隠した。


そのまま、ぼそぼそと小声で答えた。



「ビッケ君。リリアンヌ殿下は、何とおっしゃいました?」

ネウロが素早く尋ねた。



「大好きな人たちと、大切な時間を過ごしたい、だって」

ビッケは淡々と答えた。



「……」


場が、しんと静まり返った。



「……」


どうして、こんな恥ずかしい思いをしなくてはいけないのだろう。


もう、絶対に顔を上げられない。



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