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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
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引き寄せられていく者

ネウロ視点



何も考えないように生きてきたことは、自分が一番よく分かっている。



一族からの期待を、一身に背負っていた。


だが、すべてから逃げるように、王都へ行ってしまった想い人を追いかけた。


成人と同時に、王都の守衛隊へ入隊した。


決して楽な仕事ではなかったが、何の重圧もない環境は居心地が良かった。



それなのに。


どこまでも、一族からは逃げられなかった。


結局、パルミア家に戻った。



王都で鑑定士になったら、ティナとの関係を認める。


父にそう言われたが、結婚となったら話は違う。



――ティナでは、世間体が悪い


――お前なら、もっと身分の高い女を狙える



――まだ若いが、王弟の娘はどうだ


――精霊の加護を持っている。我々一族にふさわしいではないか



――近づけ。取り入れ



別に…父に言われたからリリアンヌに近づいたわけではない。


単純に、彼女に興味があった。


精霊の加護を貰えやしないかと、頭の片隅では思っていた。



彼女との旅は、想像以上に楽しかった。


驚きの連続だったが、それ以上に、一緒にいて心地良かった。


向こうがどう思っているかは知らないが、他の皆ともそうだ。


そんなことを思う資格など、ないというのに。



一緒に、いればいるほど。


リリアンヌの人となりを、知れば知るほど――



罪悪感で、胸が痛んだ。



親に言われたからではない。


精霊の目を持つ一族ということも、どうでもいい。


そう思っていたはずなのに、


ずっと、一族の思惑が頭から離れなかった。



『ネウロだって、物語の中にいる』


『一緒に、物語をつくっている』



自分は、何をするべきなのか。


誰のために、生きていくべきなのか。


何のための、人生なのか。



何ひとつ定まっていない人間が、


光り輝く彼女の物語に、登場していいのか――



ふいに扉が開き、月明かりが差し込んだ。


薄暗かった聖院の中が、わずかに明るくなった。



「ネウロ!」


「!」


入ってきたのは、リリアンヌだった。



「やっぱり、ここにいたんだね」


迷いなく、こちらへ近づいてくる。


その後ろから、アランフォース、ブライアン、キリ、ビッケも入ってきた。


四人は、扉の付近で立ち止まった。



「お腹空いているでしょう?何か、あとで持ってきてもらう?」

リリアンヌは傍までやってくると、躊躇いなく隣に腰掛けた。



「……」

ネウロは何も言わず、じっと見つめた。



「…大丈夫?みんなに、外で待ってもらおうか?」



「…いえ」


二人きりには、させてくれないだろう。



「ネウロ…良かったね」

リリアンヌは囁くように言うと、にっこり微笑んだ。



「……」


やはり、彼女は知っている。


自分が、精霊王から何を貰ったのか。



「…僕には、このちからを貰う資格なんてありません」

久しぶりに口を開いたからか、声がかすれた。



「どうして?」

リリアンヌは、きょとんと目を丸くした。



「僕があなたについてきたのは…邪な気持ちがあったから」


とうとう、言ってしまった。



「殿下のお傍にいたら、加護を貰えやしないか。僕は、そんなことも思っていたのですよ」



「それでも。ネウロは精霊を奪おうとしたわけでもないし、傷つけようともしていない」

きっぱりとした声が返ってきた。



「ちゃんと正当な方法で、オーリア様にちからの開花を後押ししてもらった」

リリアンヌは、とんっと自分の目を指した。



「それに、ネウロは正真正銘の、精霊の目を持つ一族」

嬉しそうに、目を細めた。



――千里眼のちからさえ、あれば


――それさえあれば、我々が精霊の目を持つ一族であることを証明できる


――鑑定のちからを持つお前なら、開花する可能性もある



――千里眼のちからを


――一族の誇りを



――お前が、証明しろ



「…嫌だなぁ」

思わず、苦笑が漏れた。



「…何が?」



「千里眼のちからを…一族のために欲しがっていたと思われるのが、すごく嫌です」



「誰に?」



「あなたに」

ネウロは、まっすぐリリアンヌに視線を向けた。



「そんなこと、思ってない」

リリアンヌは、ゆっくり首を振った。



「それは…ネウロが、ネウロのために貰ったちからだから」



「違います」

ネウロは、きっぱりと否定した。



「このちからは、殿下のために貰ったものです」



「…違う。ネウロが手伝ってくれれば、それは嬉しいけれど」



「殿下が、ずっと尽力してくださったから…」


彼女はずっと、自分のために何かしようとしていた。


聖樹に触れさせたり、白のちからを送ってみたり、共に祈ってみたり――


自分がどんな人間かも知らないのに、ずっと必死になってくれた。



「僕は…あなたのように、まっすぐに生きられない」



「私だって、まっすぐじゃないよ」

リリアンヌは、くすっと苦笑を浮かべた。



「自信がなくて、すぐに自分を駄目だと思っちゃう。ネウロと一緒だね」



「一緒なわけないでしょう」

ぽとりと、涙が落ちた。



「僕は、自分のことで精一杯なだけです」



「ネウロは、周りのことをよく見ているよね」



「……」


こうやって彼女は、たまに会話が噛み合わなくなる。



「私は、周りが見えない。自分のことばっかりだから…怒られちゃう」


小声で言っているが、扉付近に立つ者たちには丸聞こえだろう。



「…あなたは、他人のことばかりだから怒られたのですよ」



「ほら…!ネウロは、よく周りを見ている」


また、自分の話に戻った。



「なんですか、この時間は」


勝手に、ふふっと笑みがこぼれた。


なぜお互い自分を貶し、相手を慰めているのか。



「う~ん…だから、私が言いたいのは…」

リリアンヌは小さく首を傾げると、ぱっと目を上げた。



「もっと、自信を持ってほしいなって」



「…そのまま、あなたにお返しします」

思わず、返してしまった。



「だから、一緒に」


「!」


力強く、手を握られた。



「一緒に、成長しよう。お互い、変わろう」

リリアンヌは、まっすぐな眼差しを向けていた。



「良かったね、ネウロ。本当に良かった」

その目を優しく細め、微笑んだ。



眩しい――


あまりにも、純粋だ。



…敵わないな。



『僕も、連れて行ってはくれませんか?』



あの時、直感で分かっていた。


彼女についていけば、必ず何か変わると。



「このちからは…必ず殿下のため、お役に立ててみせます」


それだけは、絶対に。



「…手伝ってくれると、嬉しいな」



「もちろんです」

ネウロは、しっかりと頷いた。



「…もう村のみんなも戻ってくる頃だと思うから、何かご飯を貰おうよ」

リリアンヌは立ち上がると、そっとネウロの手を引っ張った。


今度は、振り払わなかった。



手を繋いだまま、扉へと向かっていく。



「あとね、湖の主…!帰りの舟で見たの」

リリアンヌは、はっと振り返った。



「大きな亀が、顔を出したの。ネウロったら、大事なところを見逃しちゃったね」



「…また、そんな出鱈目なことがあったのですか?」


もう、苦笑するしかない。


精霊王と出会い、ちからを貰っただけでも腹がいっぱいだ。



扉まで辿り着くと、アランフォースがゆっくりと開けた。


その手を離せと、言われなかった。



リリアンヌは、気にせずどんどん進んでいく。


迷いなく、聖院の裏手まで自分を連れていった。



「あ、ほら、見て…!」


リリアンヌの指さす湖が――


色とりどりの灯りで埋まっていた。


舟の先頭に付けられたランタンの灯りだ。



「精霊みたいで、綺麗だよね…」


嬉しそうな、どこか寂しそうな表情を浮かべている。



「…あのね、ネウロ」

顔を上げたリリアンヌと、ばちりと目が合った。



「明後日の朝、帰ることにしたの」



「…精霊を、見つけましたからね」

ネウロは目を合わせたまま、こくりと頷いた。



「そうだね。だから、残りの時間を楽しもう」



「楽しむ…ですか?」



「そう!明日何しようか、一緒に考えよう」

リリアンヌは、またにっこり微笑んだ。



精霊王の手で、千里眼のちからが目覚めて――


自然と、使い方が分かった。



遠いところを見るだけではない。


相手の色が見える。


もしかしてこれが、院長の言う波動(アウラ)というものなのか。



彼女は、


白と、


白に絡みつくような、黒。


鑑定の結果と同じだ。



この、黒のせいなのか。


彼女が――



人族とは別の存在だと示しているのは。



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