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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
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奉納祭へ②

リリアンヌ視点



思った通り、家から少し離れたところで、ブライアンが待っていた。


こちらに気付くと、驚いた表情を浮かべた。



「ブライアン…!」

リリアンヌは、手を振りながら駆け寄った。



「その格好はどうしたんだ?」



「ミホバが、着付けてくれました。どうでしょうか」



「いいね。とても可愛い」



「!」



「君は、何を着ても似合うな」

ブライアンは優しい笑みを浮かべ、さらりと言った。



「あ…ええと」


顔が赤くなり、言葉が出なかった。


そういえば、ブライアンはこういう人だった。



「え?舟で向かうのか?」



「奉納祭の時は、みんなで舟に乗って聖樹まで向かうから」


照れている間に、ビッケがブライアンに説明してくれていた。



「そうか…それならまずは、治療院に向かうか」


アランフォースもネウロも、まだ治療院にいるのだろう。



「舟に乗る場所は、治療院の裏側にあるんだ」


ビッケが先導して進んでいった。


今日は、多くの人が道を歩いている。



「あら、リリアンヌ様!よく似合ってるよ」


「その色にしたのねぇ」



「ありがとう…!また、あとでね」

すれ違った女性たちに、にっこりと返した。



「えっ…」


「おお、びっくりした…」


その後ろにいた男性たちが、思わずリリアンヌを二度見した。



この一週間で、村の女性たちとは、だいぶ仲良くなった。


男性たちは昨日まで門の修繕をしていたから、村の中にもあまりいなかった。


個人的に話したのは、院長や村長、ラガーグぐらいだ。



ラガーグは…結局一度も、家に戻ってこなかった。


申し訳ないなと思いながら、ずっとビッケの家で過ごしている。



治療院の前では、アルジャの騎士たちが荷物を運び出していた。


その中に、なぜかネウロが混ざっている。



「おや、リリアンヌ殿下」

ネウロが気付き、顔を上げた。


その声で、近くにいた騎士たちまで振り向いた。



「ネウロ、お疲れ様。それは奉納祭の荷物?」



「いいえ、違いますよ。彼らは明日帰るので、それのお手伝いです」



「あ…そっか」


結局、アルジャの騎士たちとは、隊長以外ほとんど話せずじまいだ。


今話しかけても、邪魔にならないだろうか。


お別れの挨拶くらい――



「殿下、民族衣装ですか!なんて可愛らしいんでしょう」



「あ、ありがとう…」


ネウロの顔が近すぎて、何も見えなくなってしまった。



「ええと…アランフォースは?」



「治療院の中にいますよ。もうすぐ参ります」



「そっか」


アランフォースは、護衛の時以外もずっと忙しそうだ。



「そういえば、リリアンヌ殿下。院長から聞いたんですけど、聖樹まで舟で向かうのですか?」



「そうみたいだね。大人数が向かうから、その方が早いのかな」



「歩いて向かうには、少し距離がありますからねぇ」



「舟に乗ること…アランフォース、許してくれるかな」


それもまた、危険なのだろうか。



「ええ、もちろんです」



「わ!」


ネウロの後ろから、アランフォースが現れた。



「本当にいいの?」



「何も問題ありません」



「ありがとうございます…!」


やった。


初めて舟に乗れる。



「……」

アランフォースは、まだじっと見ている。



「あの…?」


この目の時は、何かを言おうとしている時だ。



「よく似合っています。お綺麗ですよ」



「…!」

顔が、一瞬で赤くなった。



「あ、ありがとうございます…」

つい、ごにょごにょと小さい声になった。



「ふふっ…」



「…なに、ネウロ」



「いいえ。さ、行きましょうか。リリアンヌ殿下」



「荷物運びのお手伝いは、いいの?」



「ええ。僕は、リリアンヌ殿下のお付きですから」

ネウロは、楽しそうだ。



「こっちだ」


ビッケが先頭になり、治療院の裏側へ進んでいった。



「あっ、リリアンヌ様来た!」


「こっち、こっち~!」


舟着き場で、一緒に釣りをした子たちが手を振っていた。



「わ、村の服着てるー!」


「本当だ、すげー!」


他の子供たちも一緒だ。


リリアンヌは子供たちのもとまで歩み寄ると、舟の方へ目を向けた。



「これに乗るのかな?」


想像よりずっと大きい。


縦長で、横一列に三人ずつは座れそうだ。



「前の櫓をね、トウガが操るんだよ!」



「ろ?」

子供から上がった声に、リリアンヌは首を傾げた。


ろ、とは何だろう。



「あれ」

ビッケが、舟の先頭を指さした。


長い柄の先に板が付いたものが、先頭に取り付けられていた。


よく見ると、後ろにもある。



「すごい…これを、トウガが操るの?」



「舟はひっくり返ったりしないからさ、安心しろよ」

トウガが、照れたように鼻の下をこすった。



「そんな心配していないよ。トウガは、何でもできちゃうね」


彼は、釣りも上手だ。



「これくらい、村の奴はみんなできるよ」

トウガはそう言うと、ひょいっと舟に乗り込んで先頭に立った。



「リリアンヌ様、すまないね」



「え?」

きょとんと振り返った。



「子供たちが、リリアンヌ様と同じ舟に乗りたいって騒いでてね」

人族の女性が、こそりと囁いた。



「相手してやってくれないかい?」



「ええ、もちろん!」


大歓迎だ。



「それより、何か手伝えることはあるかな?」


周りの舟では、大人たちがどんどん荷物を積んでいる。



「気にしなくていいのよ!あれくらいの荷物、獣人族が一気に運ぶからさ」


獣人族たちは、重そうな荷物も頭に載せて軽々と運んでしまう。



「私らも向かうから、リリアンヌ様ももう舟に乗りな」

またあとでね、と女性は他の舟へ向かっていった。


リリアンヌも、目の前の舟へ視線を戻した。


先にブライアンが乗り込み、手を差し出した。



「気を付けて」



「ありがと…うわ」


舟がぐらぐらと揺れ、手を支えてもらってもバランスを崩した。



「ゆっくりでいいから。そこの中央に座って」


一緒に座るまで、ブライアンが腕を掴んで支えてくれた。


反対側の隣にキリが座り、前にビッケとネウロが、さらに前に子供たちが座った。



前を向く子供たちの中で、ひとり、後ろを向いて座る小さな男の子がいた。


ぱっちりした目が、こちらに向けられている。



「ナーラ!」


襲撃の時、ビッケと一緒に倒れていた獣人族の子だ。



「りりな…りるあん…りる…」


名前を呼んでくれようとしている。



「リリィでも、なんでもいいよ」


孤児院の子は、みんなそう呼んでくれる。



「ううん。ひめさま。助けてくれて、ありあとう」

ナーラが座ったまま、頭をぺこりと下げた。


猫の耳が、ぴくぴく動いている。


とっても可愛い。



「そいから、しろのちからを送ってくだしゃり、かんしゃしてます」



「どういたしまして」


でれっとした顔にならないよう、気を付けなければ。



「ナーラ、どうしたの?」


「ひめさまと、お話ししたの?」


ナーラと同じ年頃の子供たちが、わっと振り返った。



「お前ら、もう出すぞ!座れよ」

先頭に立つトウガが、小さな子供たちに向かって言った。


すごく癒される。


結局、顔は緩んでしまっているだろう。



「……」



「…あ」


隣に座るキリと、目が合った。



「…ごめん、可愛くてつい」



「どういたしまして」



「ええっ?」

リリアンヌは、きょとんと目を丸くした。


どうして今、言われたのだろう。



「初めて、君から聞いた」



「あ…どういたしまして、を?」



「そうだ」

キリがこくりと頷いた。



「そう…だっけ」


思い返そうとしたけど、確かに思い出せない。



「一番、良い返しだ」



「…えへ。ありがとう」


感謝は送り、受け取り、育つもの。


さっそく、実践してみた。



ふいに、舟がぐらりと揺れた。



「わわわ…」


何の揺れか分からず、後ろへ振り向いた。



アランフォースが座る後ろで、男の子が裸足で立っていた。


自分と同じ年くらいの、獣人族の子だ。



「わ、すごい」


揺れる舟の上で器用に立ち、後方の大きな櫓を動かしている。



「…酔いますよ」

アランフォースが、すぐに前を向かせた。



前方では、トウガがこちらに背を向けて櫓を操っていた。


周りの舟も同じように前と後ろに人が立ち、ゆっくり進み始めている。



「綺麗な湖だね」

キリの横から、湖を覗いた。



「魚が、いっぱいいる」


青く澄んだ湖に、先日釣ったアユの群れが見えた。



「たまにね、湖のぬしが見えるんだよ~!」

ビッケの奥に座るロミが、くるっと振り向いた。



「えっ…湖の主って、本当にいるの?」



「君は、釣る気だったじゃないか」

ブライアンが、ふっと笑った。



「あれは、話の流れで…」


冗談のつもりで言ったのに、まさか本当にいるとは。



「こーんな、大きな亀なんだよ!」

ロミが、大きく両手を広げた。



「もっとでかいよ」

ビッケが、ロミの手を避けながら言った。



「亀かぁ…」


少し、安心した。


人を食べるような、大きな肉食魚だったらどうしようかと思った。



「多分、お前が想像しているよりもでかい」

ビッケが、前を見たまま言った。



「…でも、人を襲ったりはしないでしょう?」



「悪さをしなきゃ、襲わない」



「悪さって?」



「捕まえようとか、突っついたりとか」



「亀に、そんなことするの?」

リリアンヌは、きゅっと眉を寄せた。



「だから、しないって」



「でも、襲われたことがあるのでしょう?」



「昔、湖側から渡って村を襲撃しようとした山賊がいたんだ」

ロミの隣から、セベルが答えた。



「そいつらが主にちょっかい出して、舟を全部ひっくり返されたんだぜ」



「…そうなのね」


今、もしこの舟がひっくり返されたら…


ふるりと頭を振り、悪い想像を追い出した。



唐突に、後方からわっと歓声が上がった。



「えっ…なんだろう?」

リリアンヌは、ぱっと振り返った。



もう遠く離れた岸からは、まだ多くの舟が出ている。


小さく見える舟着き場で、人だかりができているのが見えた。



「何かあったのかな?」



「少なくとも、悲鳴ではありません」

アランフォースが、再び前を向かせた。



「誰か来たのかも」

トウガたちと仲良しのニボが言った。



「村人たちが喜ぶ方なんて、一体どなたです?」

ネウロが、誰に聞くでもなく尋ねた。



「多分、歌い人」

今度は、ビッケが答えた。



「歌い人って?」



「吟遊詩人のことだろう」

ブライアンがそっと教えてくれた。



「たまに来て、村で歌うんだ」

またビッケが返した。



「へぇ…」


城下町で出会った、綺麗な顔立ちの吟遊詩人を思い出した。



「お前の話も、そいつが広めた」



「うっ…そうなの」


町で聞いたような歌が、各地で歌われている。


そう思ったら、顔から火が出るほど恥ずかしかった。



ふいに、キリが後ろを振り返った。


そのまま立ち上がり、舟が大きく揺れた。



「えっ…わっ!」


ブライアンの方へ体が流れ、肩にごつんと当たった。



「あははっ!」


「わぁ~」


子供たちは、揺れを楽しんでいる。



「おい、あぶねぇよ!」

後ろで櫓を操っている獣人族の子が、キリに向かって言った。



「……」

キリは、立ったままじっと後ろを見続けていた。



「どうした」



「もし王都にいた男なら、気を付けた方がいい」



「王都にいた男…?」

アランフォースが眉を寄せた。



「ラファエルのこと?」



「ラファエルって?」

すかさずブライアンが尋ねた。



「城下町にいた吟遊詩人です。その…私が目覚めたお祭りの時に、噴水広場で歌っていました」

リリアンヌは、ゆっくりと答えた。



「何か、ちからを持っているんだっけ」



「操る類のものだ」

キリは、アランフォースを見下ろして答えた。



「……」



「でも、まだ、ラファエルか分からないし」

リリアンヌは、懇願するようにアランフォースへ言った。


ここまで来て、奉納祭に参加するなと言われてしまっては困る。



「…分かりましたから」

アランフォースは、小さく溜息をついた。



「参加を止めるようなことは、ありません」



「…ありがとうございます」


どうして、自分の考えていることが分かるのだろう。



「あっ!聖樹が光ってる!」


「本当だ!」


子供たちの声に、顔を前に向けた。



舟の先に、反対岸の森が見えてきた。


生い茂る森の中で、優しい白い光が見えた。



「院長が、聖樹はなくなっちゃったって言ってたのに!」


「すげぇー!戻ってる!」



「あれっ…!」


「まああ、本当に」


「前回と、何も変わらんじゃないか」


周りの舟からも、ざわざわと声が聞こえた。



聖樹は、他の樹よりも大きい。


特徴的な青い葉が、輝いている。



さわり、と葉が揺れた。



あれは、喜んでいる時の揺れ方だ。


これから村人たちが集まることに、気付いているのかもしれない。



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