表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
381/404

触れていく一日③

リリアンヌ視点



「聖樹の前で飯を食うと、奉納祭を思い出すの」

ふいに、ルゴットが呟いた。



「むっ…!」

リリアンヌは、小さく声を上げた。


返事をしたいけれど、パンを頬張ったばかりだ。



「アバマさんたちが昨日、奉納祭を早めたいって話をリリアンヌとしてた」

代わりに、ビッケが言ってくれた。



「門の修復が終わったら、やろうって」


ビッケは焚火台の方にいたのに、聞こえていたらしい。



「…ほう、村の者たちと話したのか?」

ルゴットは、眉をぴくりと動かした。



「…皆さんにも聖樹が生きているってことを知ってほしくて、見に行こうって話をしたんです」

リリアンヌは、パンを飲み込んで答えた。


アバマさんが誰かは、分からないけれど。



「ここでの奉納祭は、どのような祭りなのでしょう?」

ネウロが尋ねた。



「精霊に楽しんでもらうための祭りだな」

ルゴットが、すぐに答えた。



「えっ、そうなのですか?」

リリアンヌは、きょとんと尋ねた。



「由来はな。今は、聖樹を囲んで皆で宴会をすることが目的になっている」



「聖樹に、お供え物をするって話していました」



「それも、聖樹にではなく精霊にだの。村で一番良くできた酒を供える」



「お酒を造っているのですか?」



「葡萄酒だな。村のあちこちで葡萄を育てとる。くせがあって、美味いぞ」



「へぇ…!」


それは、楽しみだ。



「…まさか、飲む気か?」



「駄目でしょうか…?」

リリアンヌは、懇願するように振り向いた。



「君は、まだ酒を飲んだことがないだろう?」

ブライアンが片眉を上げていた。



「はい。でも、飲むことはできますよね?」


この国では、成人前でも酒を飲める。



「葡萄の果汁も美味いぞ」

ルゴットが笑って付け足した。



「まずは、奉納祭を実施するか決めることが先でしょう」

ラガーグが、鋭く口を挟んだ。



「それは、ラガーグ。お前さんらの仕事だの」



「ラガーグ。ご検討のほど、よろしくお願いします」

リリアンヌは、その場でぺこりと頭を下げた。


なんだか、仕事のような頼み方になってしまった。



「…参加されるおつもりでしょうか」



「はいっ!村の皆さんと一緒に、ここで宴会したいです」

ぱっと顔を上げて、ラガーグに答えた。



村人は、四百人くらいいると聞いた。


きっと、賑やかな宴会になるのだろう。



「…戻ったら、村長と相談いたします」

ラガーグが、諦めたように言った。



「ありがとうございます…!」


そうとなれば、自分がやるべきことは決まった。



聖樹を、早く元の状態に戻してあげたい。


元がどれくらい大きかったかは分からないけれど、王都の聖樹くらいだとすると、まだまだだ。


まだ、体力は残っている。


もう少ししたら、もう一度送れるかもしれない。



「一日一度までです」



「…え?」

リリアンヌは、きょとんと後ろに振り向いた。



「聖樹に白のちからを送るのは、一日一度までにしてください」

アランフォースが目を細めて言った。



「……」


どうして、考えていることが分かったのだろう。



「…駄目?」



「駄目です」



「私もそう思う」

ブライアンまで同意した。



「君はまだ、自分の限界を分かっていないだろう」



「…うぐ」


言われてみれば、そうだ。


何人まで治せるとか、一日何度まで使えるとか、いまいち分からない。



「止めなくてはいけない時もある」

ルゴットが穏やかに口を開いた。



「そういう時は、言うことを聞くべきだ」



「…分かりました」


ここまで言われたら、言うことを聞くしかない。



それからみんなで、ゆっくり昼食を楽しんだ。


やがて、ルゴットがおもむろに立ち上がった。



「さて、今度こそ行くかの」

ちらりと、リリアンヌに視線を向けた。



「姫さん、祈ってくだろう?」



「はい。そうします」

お茶を飲み込み、こくんと頷いた。



みんなで立ち上がり、ルゴットとラガーグを見送った。


リリアンヌはそのまま、聖樹の根元まで近づいていった。



「…触れないように」

アランフォースが、後ろから静かに言った。



「分かりました」


相当、心配させてしまったようだ。



「…でも、お祈りには時間をかけてもいい?」



「お好きなようになさってください」



「……」

リリアンヌは、ちらりとアランフォースの後ろへ目を向けた。


みんな、思い思いに待っている。



「…よし」


聖樹から一歩離れたところで、腰を下ろした。


右手で額に円を描き、胸の前で両手を組む――



目を瞑ると、一気に自分の世界へすとんと落ちた。



静かで、何も聞こえない。


聖樹の温もりだけ、感じる。



…何を、考えたかったのだっけ。


ちからの限界は、どうやって知ることができるのだろう。


オーリア様がまだ小さいと言っていたのは、ちからの器のことだったのだろうか。



ちからを、初めて使った時。


心臓の辺りが温かくなって、使いたいと願ったら使えた。


一度覚えたら、それを意識しなくても大丈夫になった。



あれは…ちからの元ではなくて、ちからの器?


そういえばルイージも、胸の辺りに何かを感じないかと聞いていた。



――白のちからを、使いたい。


そう考えると、心臓の辺りにはっきりとした温もりを感じた。


この温もりが、白のちからになる…?



明日、聖樹に白のちからを送る時、


この温もりを意識しながら使ってみよう。



すごく…集中できる。


このまま、いつまでも考え続けられそうだ。



精霊は、どこにいるのだろう。


キリに任せてばかりで、全然役に立てていない。


けれど、私には何も感じられない。



聖樹は、溶け合い、混じる…


聖樹と精霊が、混じっている?


本当に、分からないことだらけだ。


精霊が、どうやって生まれるのかも知らない。



聖樹は、精霊を生む…


もしかして、聖樹が精霊を生んでいるのだろうか…



…考えが、まとまらなくなってきた。


今日は、ここまでにしよう。



静かに息を吐き、目を開けた。



「…あれ」


陽が、祈る前より傾いている。



「…今、何時でしょうか?」

後ろを振り返り、尋ねた。



「…三時前後でしょうか」

アランフォースが、陽を見ながら答えた。



「そんなに、ここにいたの?」


昼を食べ終わった時は、十二時くらいだったはずだ。



「ごめんなさい…」

慌てて立ち上がった。


みんなを、待たせすぎてしまった。



「お好きなようになさってくださいと、言いました」



「そうだけど…まさか、こんなに時間が経っているなんて」



「すごい集中力でしたねぇ」

近くに座っていたネウロが、ゆっくり立ち上がった。



「ん…うん」


ネウロのちからのことも、考えたかったのに。



「今戻っても、お手伝いに間に合うかな」



「余裕だろ」

歩き出したリリアンヌに、ビッケが並んで答えた。



「今日のご飯は、何だろうね」



「また肉料理だと思う」



「魚は、あまり食べない?」


こんなに大きな湖があるのに。



「夕飯では、あんまり食わない」



「お昼に食べるってこと?」



「おやつに食う」



「ええ?魚を?」



「釣って、その場で焼いて食う」



「えっ…釣りができるの?」



「…湖があれば、釣れるだろ」


当然だろうという顔をされてしまった。



「懐かしいですねぇ、魚釣り」



「ネウロも、やったことあるの?」



「もちろんですよ。守衛隊にいた頃は、よくレイセント湖で釣っていましたから」



「何が釣れるの?」



「レイセント湖では、大物だとマスが釣れますねぇ」



「ここの湖は、アユとかフナとか小さいやつ」

ビッケはネウロに続いて答えた。



「釣りなら、トウガたちが得意だ」



「さっきの男の子たちのこと?」



「そう」



「あっ…!」


とっても名案を思いついた。



「じゃあ、今度、みんなで釣りをしようよ!」

リリアンヌは嬉しそうに、ぱんっと両手を合わせた。



「ええ?トウガたちとってこと?」



「そう!湖で魚釣りして、おやつにみんなで食べよう」


考えただけで、わくわくしてきた。



「お前…何しに村に来たか、覚えてる?」


また、ビッケに呆れた顔をされてしまった。



「あ…まだ門を修繕しているのに、駄目だよね」



「そこじゃないって」



「まぁまぁ、ビッケ君。いいじゃないですか、釣り」

ネウロが、くすっと賛同した。



「僕が、リリアンヌ殿下の分も釣ってみせますよ」



「私も、釣るわ」



「おや、ご経験がおありで?」



「ううん。ないけれど」


前世でも、経験したことがない。



「何ごとも、経験してみたいから」

リリアンヌは、にっこりと笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ