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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
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触れていく一日②

リリアンヌ視点



昨日馬から降りた場所に、すでに二頭の馬が繋がれていた。



この馬は、ルゴット院長とラガーグが乗っていたものだ。


その近くに馬を繋ぎ、聖樹のもとまで歩いて向かった。



「おお、姫さん」


一行に気付いたルゴットが、振り向いて手を上げた。



「……」

その横に立つラガーグが、一礼した。



「ルゴット院長、ラガーグ。こんにち…ええっ…!」


ルゴットの向こうに見えた聖樹に、思わず叫んだ。



聖樹が、私と同じくらいの背丈まで成長している。


いくつもの幹が絡まり合い、ひとつの太い樹となっていた。



「…すごい」


周りの枯れていた草木も、息を吹き返している。


昨日の沈んだ空気が、なくなっていた。



「すごいの。本当に、成長してもうた」



「どうして、いない間に成長したんだろう…」


昨日最後に見た時は、まだ刈られたままの姿だったのに。



「きっと、姫さんに怒られたからだろうな」

ルゴットが、かかかっと笑った。



「ええ?怒ってないです」



「誰にも攻撃するなと言われたから、いない間に、こっそり大きくなったんだろ」



「そんな…」


なんだか、可哀想だ。



「聖樹は、言葉を理解しているんだろうなぁ」



「そうですね」


昨日も、私の声に反応したように見えた。



「あの…ルゴット院長。これから、白のちからを送りたいのですが」



「院長、下がりましょう」

ラガーグがすぐに口を挟んだ。



「もう、聖樹は攻撃したりせん」

ルゴットは、その場で腰を下ろした。



「儂は、特等席で見物しておる。姫さん、頼んだぞ」



「はい」

リリアンヌは一歩前に進み、聖樹のもとへ近づいた。



「近すぎます」

後ろにいるアランフォースから、すぐに声が飛んできた。



「大丈夫…触れた方が、よく送れる気がするから」

聖樹の幹に、そっと触れた。


ほんのり、温かい。



「…これから白のちからを、送ります」

聖樹に向かい、念を押すように囁いた。



「遠慮せず、成長してね」


昨日より、自分のちからが漲っている。


でも、無理をしない程度に抑えて――



リリアンヌはそっと目を閉じ、白のちからを送った。


辺り一面に、光が広がった。



…すごい。


まったく疲れていない。


聖樹に触れているからだろうか。



「……」

ちからを止めて、そっと目を開けた。



「…あれ」


今はもう送っていないのに、なぜか自分の体が光っている。



聖樹も、同じように白い光で包まれている。


聖樹が、私にちからを送ってくれているのだろうか。



とても…温かくて、気持ちいい。



「…あまり、触れ続けん方がいい」


ルゴットの声が、遠く聞こえた。



「……」

リリアンヌは、ゆっくり目を閉じた。



聖樹の鼓動を、感じる。


どぉん、どぉんと、銅鑼のような響き…



まるで、喜んでいるような響きだ。


こっちまで嬉しくなってしまう。



ずっと、こうしていたい。


とても、幸せな気持ち…



「――溶け合っちまうぞ」



「…リリアンヌ殿下!」



「わっ!」


後ろに体を引っ張られ、聖樹から両手が離れた。



「…えっ、何…?」



「…大丈夫ですか」

アランフォースが肩を掴み、じっと顔を覗き込んだ。



「大丈夫です…」


どうして、そんなこと聞くのだろう。



「…リリアンヌ殿下。鑑定してもいいですか?」

ネウロが近づき、そっと尋ねた。



「え?…うん」


ネウロの触れる指先が、青く光った。


鑑定できるのは、ちからの光だけではないのだろうか。



「…変わらないですね」



「ええと…元気ですけど…」


何なのだろう。


二人は、何を気にしているのだろう。



「姫さん、おいで」


先ほどと同じ場所に座るルゴットが、手招きした。



ルゴットの正面に腰を下ろすと、ネウロとキリが両隣に座った。


ビッケはルゴットの隣に座り、ラガーグはその後ろに立ったままだ。


アランフォースとブライアンが、自分の後ろに立つ気配がした。



自然と、輪になった。



「姫さん。見てみぃ」



「え?」


ルゴットが指す先を、目で追った。



「…わ!すごい…!」


聖樹が、さらに成長している。


もう、周りの樹よりも大きい。


特徴的な丸みを帯びた青い葉が、きらきらと輝いていた。



「気付かなかったんか?」



「はい…まったく」


私が触れていた間に、ここまで成長していたなんて。



「姫さん。聖典は読んだことあるか?」



「え…?はい、あります」

リリアンヌは、きょとんとしながら頷いた。


加護を貰ったばかりの頃に、何度か読んだ。



「聖樹について、何と書いてあった?」



「ええと…」


確か――



「…聖樹は、生命を与える。精霊を助ける。同調する」



「それは、新しい聖典の方だな」



「前は、違ったのですか?」


そういえば、聖典は何度か編纂されていると聞いていた。



「聖樹は、溶け合い、混じる。精霊を生む。記憶を与える」



「全然…違いますね」


それに、意味もよく分からない。



「儂も、意味が分からんかった」

ルゴットは笑いながら続けた。



「だが今、分かった気がするの。溶け合い、混じる。…聖樹が、姫さんごと成長しようとした」



「えっ、私ごと?」

思わず、声が裏返った。



「光に取り込まれておった」



「でも…体は、なんともありません」



「聖樹が光を広げた時は、もうリリアンヌ殿下は、白のちからを送っていなかったのですね?」

ネウロがすかさず尋ねた。



「うん、そうだね」


光を広げていたことに、気付けなかったけれど。



「聖樹が、白のちからを私に送ってくれたのかな?」



「違うだろうなぁ」

ルゴットがすぐに否定した。



「色が違う」



「白のちからを使う時の光の色とは、違うということですね?」


それは、鑑定してくれたシリル先生も言っていたことだ。


同じ白でも、ちからの種類が違うと。



「そうだ。どちらかと言えば、姫さんの肩にいる精霊の色に近い」



「スノウの色…」


そうしたら、この聖樹はもしかして、吸収のちからを持っているのだろうか。



「姫さんは、いろんなもんと混ざりやすいの」



「ま、混ざりやすい…?」


まるで、液体になってしまった気分だ。



「そうさなぁ。まさに…溶け合い、混じる」

ルゴットは顎をさすり、面白そうに言った。



「悪いことではない。姫さん、ちからが強くなってないか?」



「ええと…強くなったかは分かりませんが、まったく疲れていません」



「成長したんだな」



「聖樹も私も、成長した?」



「儂は、そう捉えたぞ」



『君の器は、まだまだ成長するよ』


一瞬、言葉が頭をよぎった。



「…ん?」


オーリア様とあの話をしたのは、何についてだったか。



成長したのは…器。


器が、大きくなった。



『今の君では、絶対に耐えられない』


念を押されたのは、何の話の時だったか。



今の君は…ということは、成長すれば耐えられる可能性がある。


…これは、瘴気の――



「焦りなさんな」



「…あっ」

はっと、顔を上げた。


いつの間にか、下を向いて考え込んでしまっていた。



「慌てることはない。ゆっくり、この謎を解き明かせばいい」

ルゴットは聖樹へ目を向け、にまりと笑った。



「まだ、こんな不思議と出会えるなんてな。長生きしてみるもんだな」



「…あなたは、まだまだ元気です」

ラガーグが、後ろからそっと窘めた。



「分かっとる。やっと面白くなってきたのに、死んでる場合じゃないの」


ルゴットは、楽しそうだった。



「あの…ルゴット院長。白のちからは、送り続けても大丈夫でしょうか?」



「姫さんは、どうしたい?」



「送り続けたいです」



「危ないかもしれないだろ」

ビッケが、さっと眉をひそめた。



「大丈夫。触れすぎなければ、問題ないはずだから」



「姫さん以外が触れても、あんな現象は起きん」

ルゴットが穏やかに言った。



「そもそも樹に白のちからを使おうとするのは、姫さんくらいだろうからな」



「…あ」


そういえば昨日、ネウロも聖樹に鑑定のちからを使った。


何も起きなかったけど、ネウロも成長しているのではないだろうか。


そうすれば、もしかしたら、もうひとつのちからが開花するかもしれない。


ちからを送ることが条件なら…



「考えることが、多くあるようだな」



「…ごめんなさい」


さっきから、話の途中で考え込んでしまう。



「祈るといい」



「昨日も、祈っていましたね」



「その間に、思考を整理すればいい。儂は、いつもそうしとる」

ルゴットは、とんと自分の頭を指した。



「やってみます」



「儂らは、邪魔だろう。ラガーグ、戻ろうかの」



「あっ、ルゴット院長、ラガーグ」

去ろうとする二人を、リリアンヌはすぐに呼び止めた。



「あの、少し早いですけど…良かったら、お昼を一緒に食べていきませんか?」



「昼…?」



「ミホバが、たくさん作ってくださったんです」

ビッケの抱えている籠を指さした。



「ミホバが?」

ラガーグがわずかに目を見開いた。



「そう。母ちゃんが、みんなで食べろって」

ビッケが、こくりと頷いた。



「それは、さすがだの」

ルゴットが顎をさすり、ふっと笑った。



「…ミホバが」



「どれ、邪魔させてもらおうか」


呆然とするラガーグに構わず、ルゴットは再び腰を下ろした。



「オレ、これ好き」


「儂は、ミホバの作る甘い味付けの肉が好きでの」


ビッケとルゴットが、籠を覗いてパンを手に取った。



「…まあ、腹が減っては何とやら、ですねぇ」

ネウロは小さく呟くと、パン選びに加わった。



「はい、父ちゃん」

ビッケは、大ぶりの肉が入ったパンを後ろに差し出した。



「これ、好きだろ」



「……」

ラガーグはパンを受け取ると、ルゴットとビッケの後ろに座った。



「キリ、はいお茶」


その間に、水筒からお茶を注いで配っていった。


独特な茶葉の良い香りが漂った。



「二人も、座ってください」

リリアンヌは両手にコップを持ち、後ろに立つ二人へ顔を向けた。



「……」

アランフォースとブライアンはコップを受け取り、その場に腰を下ろした。



「すごいでしょう?たくさん作ってもらったの」

座った二人の前に、籠を置いた。



「どれにしますか?」



「…君が選んでくれるか?」

ブライアンが優しく言った。



「どれでもいいのですか?」


こんなに種類があるのに。



少しだけ悩んで、違う種類の肉のパンをそれぞれ二個ずつ渡した。


今度は前を向き、キリと一緒にパンを選んだ。



「いただきます」

たっぷりと野菜が入ったパンを、ぱくりと食べた。



「んん、美味しい」


本当に、ピクニックだ。


昨日までの暗さが嘘のように陽が差し、とても気持ちがよい。



「…毒見は、されないのですか?」

ラガーグが、じっとこちらを見ていた。



「ええ?どうしてですか?」

リリアンヌは首を傾げながら、はむっとパンにかぶりついた。



「どうしてって…」



「こいつは、いつもこうだ」

ビッケが食べながら父に答えた。



「姫さんは、美味そうに食うの」



「だって、美味しいから」


前も、どこかで同じようなことを言われた気がする。



「そうだな。皆で食う飯は美味い。それでいい」

ルゴットが優しく頷いた。



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