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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
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彼女の反撃②

リリアンヌ視点



「…何を、なさっているのでしょう」



「わぁっ!」


突然頭の上から聞こえた声に、びくりと肩が上がった。



「なぜ、あなたがここにいるのでしょうか」

アランフォースが、真上から目を細めて見下ろしていた。



「…お手伝いです」

リリアンヌは両手に串を握りながら、小さく答えた。



「キリも、いるし」



「そういう問題では――」


「騎士さん、兵士さんたち、お疲れさま!」


大きな声が、アランフォースの声にかぶった。



アルジャの騎士やオルトたちが次々とやってきて、女性たちから食事を受け取っている。


そのまま、それぞれ近くに腰を下ろしていった。


兵たちの何人かがこちらに気付き、一礼した。


リリアンヌは、手を振って返した。



「今日は、特製だよ!」

恰幅のいい女性が、笑いながらアルジャの騎士たちへ皿を手渡した。



「特製?」

皿を受け取った騎士が、首を傾げた。



「リリアンヌ様が、手伝ってくれたからね!」



「!」


アルジャの騎士たちが、一斉にリリアンヌへ視線を向けた。



「…ど、どうも」


曖昧な笑みで応えてしまった。



「…初めて見た」


「本当に村にいたのか…」


「どうして、ここに?」


こちらに視線を向けたまま、何か囁き合っている。



「くくっ…アルジャの人たち、みんなびっくりしてる」

近くに座った兵士が、こそりと笑った。



「馬鹿っ、トウマ…!」


両隣のテッドとカイルが、同時にトウマを叩いた。



「…私、いない方がいいかな?」


このままだと、誰も食べられなさそうだ。



「い、いいえ…っ!気にしなくていいと思います!」

カイルが思いきり首を振った。



「リリアンヌ殿下がいらっしゃると癒されるので、いてくださいよ」

トウマが、のんびりと言った。



「い、癒される…?」



「おまっ…!本当、お願いだから黙ってくれよ」

カイルは慌ててトウマの肩を揺らした。



「どうして?その通りでしょ?」


「あのっ…リリアンヌ殿下は、食べられないのでしょうか?」

テッドが、トウマの声にかぶせるように尋ねた。



「ええと…」

リリアンヌは、ちらりと女性たちの方へ目を向けた。


まだ忙しそうにしているけれど、みんなはどこで食べるのだろう。


見ていると、ミホバが静かに近づいてきた。



「…こちらで召し上がっていきますか?」



「いいのでしょうか?」



「どちらでも結構ですよ。リリアンヌ様のお好きなように、どうぞ」



「じゃあ、食べて行こうかな」


せっかくなら、大勢で食べた方が美味しい。



「ビッケとキリの分も、お願いできますか?」



「もちろんです。ビッケ」



「うん。…ほら、リリアンヌ」



「ありがとう」


ビッケが、すぐに三人分の皿を用意してくれた。



「あの…アランフォース。ここで大人しく食べるから、座って食べてください」


いつものように、後ろで立って食べようとしている。


そんなことをすれば、みんなも落ち着かない。



「……」


まだ見下ろしている。



「ええと…」


私がいない時は、アランフォースはどうやって食事をしているのだろう。


まさか、ひとりでも立ったまま食べているのだろうか。



「私が、隣にいます」



「!」


ブライアンが、さっと隣に座った。


その体で、アルジャの騎士たちが見えなくなった。



「アランフォース。どうぞ、いつも通りに」



「…分かった」

アランフォースはブライアンに小さく頷くと、少し離れたところで腰を下ろした。


良かった。


ちゃんと、座って食べている。



「いただきます」

リリアンヌは顔を前に向け、小さく口の中で呟いた。


正面にキリとビッケが並んで座り、静かに食べ始めた。



「あれっ…そういえば、ネウロがいないね」



「ネウロは、いつもいない」

きょろきょろするリリアンヌに、ブライアンが答えた。



「そうなのですか?」



「聖院の方で食べているんだろうな」



「なんか…静かに感じます」


旅の間、ずっと隣で一緒に話していたから。



「君と二人で、よく話しているからな」

ブライアンは答えると、串焼きを頬張った。


美青年が勢いよく食べている姿は、とても様になる。



「…ブライアン様は普段、アランフォースと食べているのですか?」

気になって、小声で尋ねた。


二人で、黙々と食べているのだろうか。



「そう…だけど」

なぜか、笑いを堪えるような顔をしている。



「食事中は皆、特に話さない。今もだろう?」



「……」


確かに、聞こえてくる声は女性たちのものだけだ。


もう、トウマたちの声も聞こえない。



「…私が、うるさいだけですね?」


急に、恥ずかしくなった。



「いや、全然構わない」

ブライアンは、ふっと笑みをこぼした。



「いろいろなことに疑問を感じる君が、羨ましいよ」



「だって…気になるから…」

どんどん、声が小さくなった。



「……」


大人しく、パンにかじりついた。


平焼きと同じように、甘みがあって美味しい。


黙々と食べ進めていく。



「君は…周りをよく見ているんだろうな」



「え?」



「私は、余裕がない」

ブライアンは、険しい表情で皿に視線を落としていた。



「…?ブライアン様は、よく周りを見ています」

リリアンヌは、こくんとパンを飲み込んで答えた。


余裕がないのは、私の方だ。



「…君がひどいことを言われたことに、気付いてやれなかった」


小さな声が、ぽつりと落ちた。



「それなのに…私は、君に追い討ちをかけた」



「…いいえ。ひどいことなんて、言われていません」


関わるなと、言われただけだ。


それに、ブライアンたちは心配してくれただけだ。



「……」


黙り込んでしまった。



「……」


どうしよう。


どうして、ブライアンは落ち込んで見えるのだろう。



「…あ」



「…どうした?」



「あの…もしかして、何か言われたのですか?」

リリアンヌは、不安げな表情でブライアンを見上げた。



「…何かって?」



「ええと…」


なんと言えばいいだろう。



「その…私たちは、王族です」



「…そうだな。知っているつもりだが」



「ブライアン様も…その」


もしかして、ラガーグたちに何か言われていたのではないか。


だけどそれを、この場でうまく説明できそうにもない。



「…ああ。言いたいことは、分かった」



「!本当ですか?」


察しが良すぎる。



「私が、そんなことで落ち込むと思ったか?」



「…え」


なぜか、呆れたように言われてしまった。



「君は、察しが悪いな」



「ご、ごめんなさい」


今度は、怒らせてしまった。



「はぁ、食った」


「洗い物は、俺たちがやりますんで」


「ありがとう、兵士さんたち。助かるよ」


周りが、がちゃがちゃと動き始めた。


ブライアンも、とっくに食べ終わっている。



慌てて、食べる手を進めた。


その間に、アルジャの騎士たちも治療院の方へ入っていった。



「…ごちそうさまでした」

空になった皿を膝に置き、手を揃えた。


早く、洗い物を手伝わなければ。



「共に戦って、仲間になる…」



「ブライアン様、どうしました?」


何を言ったか聞こえず、耳を近づけた。


まだ、怒っているのだろうか。



「…ブライアン、と」

至近距離の目が、じっとこちらへ向けられた。



「私のことは、ブライアンと呼んでくれ」



「む、無理です…」

リリアンヌは、ふるりと首を振った。


こんな近くで見つめられるのも、無理だ。



「どうしてだ?」



「ブライアン様は、王太子です」



「違う。従兄妹だ。それに今は、君の護衛だろう」



「でも…」



「いや…違うな。私も、仲間だ」



「…!」



「…すまない。話を聞く気はなかったんだが」

ブライアンは一瞬、気まずそうな表情を浮かべた。


王都から出立した日の、アランフォースとの会話のことを言っているのだろう。



「私も、王都から出たことはほとんどなかった…自分の考えが甘かったことが、よく分かった」



「それは…」


それは、私も同じだ。



「何かを…掴んで帰ろう」



「何かを…ですか?」

リリアンヌは、ちらりと顔を上げた。



「それが、苦い思い出だったとしても。それもまた、私たちの成長の糧になるだろう」

ブライアンは、力強い笑みを浮かべて言った。



「共に、挑もう。仲間として」



「……」


ブライアンも――戦おうとしている。



「…はい。ブライアン」

リリアンヌも、力強く笑い返した。



「ブライアン…たくさん経験して、帰りましょうね」



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