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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
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彼女の反撃①

リリアンヌ視点



治療院の横に、開けた場所がある。


その広場で、村の女性たちがテーブルや焚火台を囲み、忙しそうに炊き出しの準備を進めていた。


ミホバがテーブルの方で手元を動かしながら、女性たちに何か指示を出している。


近づくと、はっと顔を上げた。



「リリアンヌ様…!」



「えっ?」


「あれ、なんで?」


女性たちが、一斉にリリアンヌへ顔を向けた。



「申し訳ありません…もうすぐ戻りますので、お食事はお待ちいただけますでしょうか」

ミホバが手を止め、小さく頭を下げた。



「あ、違うんです。何か手伝わせてください」


大量の玉ねぎと芋を切っている。


トマトも、籠いっぱいに置かれている。



「て、手伝い?」

ミホバの近くにいた獣人族の女性が、驚いた声を上げた。



「はい。野菜を切ることくらいは、できるので」

リリアンヌは袖をまくりながら、きょろりと辺りを見渡した。



「この水は、手洗い用?」



「お待ちください、リリアンヌ様」

ミホバは、さっと止めた。



「あなたは、そんなことなさらなくていいのです」



「でも、皆さんが作ってくれたものを食べるのは、私と一緒に来た者たちです」



「アルジャの騎士たちが来る時は、いつもやっていることです。結構です」

ミホバはぴしゃりと言った。



「邪魔は、しません。お手伝いをさせてください」

リリアンヌは、譲らなかった。



「それに…働かざる者食うべからず、でしょう?」



「へ…?」


女性たちは、きょとんとした顔を浮かべた。



「…あれ?」


違うのだろうか。


ビッケには、そう聞いている。



「…なんですか、その言葉!」


「まさか、王族からそんな言葉が出るなんて!」


あははっと、女性たちが大笑いした。



「…もしかして、こんな言い方しないのかな」



「初めて聞いた」

ビッケが呆れたように答えた。



「いいじゃない、ミホバ。人手は、多いに越したことはないんだから」

恰幅のいい人族の女性が、間に入った。



「…それでは、リリアンヌ様。食器の準備をお願いできますか」



「それもします。でも、下準備も手伝います」

リリアンヌは手を拭うと、余っていたナイフを手に取った。



「キリとビッケは、待ってて」



「お前がやるのに、手伝わないわけにいかないだろ」

ビッケはそう言うと、鍋が置かれる焚火台の方へ向かっていった。



「オレ、水運ぶよ」


「あら、ビッケ。ありがと」



「……」

キリはリリアンヌの隣に並ぶと、同じくナイフを手に取った。


山のように積まれた芋を手に取り、二人で、くるくると皮を剥いていった。



「…わあ、本当にナイフを扱ってる」

目の前で作業をしていた若い女性が、ぽかんと口を開けて凝視した。



「エルフさんまで手伝うなんて、贅沢な料理ねぇ?」

先ほど大笑いした女性が、また笑った。



「……」

ミホバはしばらく二人の様子を見つめた後、諦めるように自分の作業へ戻った。


血抜きが済んだ鳥肉を、どんどん捌いている。



「今日の献立は、煮込み料理?」



「ええ、鳥肉のトマト煮込み。それと、鳥の串焼きです」

ミホバは、淡々とリリアンヌに答えた。



「お肉が二品も?」

思わず、驚いた声が出た。



「それから、別のところで焼いているパンもあります」

目の前の若い女性が、付け足すように言った。



「アルジャの騎士は、何人来ているのかな?」



「二十人ですよ」



「三十人ちょっとで、この量?」


どう見ても、百人近い量はあった。



「もちろん、私らの分もありますよ。ですけど、騎士さんも兵士さんたちもよく食べますからねぇ」

恰幅のいい女性が、笑いながら答えた。



「たくさん食べて、たくさん頑張ってもらわんと」



「へぇ…」


もしかして移動中の食事は、全然足りていなかったのだろうか。



「…あの、リリアンヌ様」

ミホバの隣で作業している獣人族の女性が、おずおずと口を開いた。



「はい」



「先日は…息子を助けていただき、ありがとうございました」



「…ああ!」


ナーラと呼ばれていた子の母親だ。



「ナーラは、あの後大丈夫でしたか?」



「もう、元気に走り回ってます」



「それなら、良かった」



「あの…私あの時、リリアンヌ様からナーラを奪い取ってしまって…」



「そう…だったかな?」


本当に、覚えていない。



「私ったら、王族の方に、失礼を」



「非常事態に、身分なんて関係ない」

リリアンヌは、すぐに首を振った。



「間に合って、本当に良かった」


もしビッケとナーラを、あのまま助けられなかったら。


…想像もしたくない。



「キリとアランフォースがいたから、助けられたの」



「アランフォースって…あの大きな騎士様?」

若い女性が、こそりと尋ねた。



「そう。アランフォースが、ビッケとナーラを燃えた家から救ったの」


大きな騎士様なら、きっと多分、合っている。



「キリって?」

今度は、その隣の女性が尋ねた。



「彼です」

一度ナイフを置いて、キリを手で示した。



「煙をね、避けてくれたの」



「エルフさんは、そんなこともできるの?」

恰幅のいい女性が、目を丸くして言った。



「すごいでしょう」

リリアンヌは、ふふっと自慢げに笑った。



「どうして、エルフさんとリリアンヌ様は一緒にいらっしゃるの?」

人族の女性が尋ねた。



「一緒に、精霊を探しているから」

すぐに答えた。



「本当に、精霊はいるんですか?」



「私の肩にいるのも、精霊」



「…馴染みすぎてて、全然気付かなかった」

女性が手を止め、まじまじとスノウを見つめた。



「はあ…本当に、光ってる」



「ホ~」



「!」


女性たちが、びくりと反応した。



「あんた、精霊に返事してもらって良かったね!」


「ああ、びっくりした」


「本当に光ってるなんて言うから、きっと怒ったんだよ」



「ううん。よろしくね、だって」

リリアンヌは芋を剥きながら返した。



「精霊の言っていることが、分かるのですか?」

ナーラの母親が尋ねた。



「何を考えているかは、分かるかな」



「はぁぁ…そりゃ、加護を持ってるからねぇ」

また別の女性が、感心するように頷いた。



「あ、そういえば聖樹!切られちゃったんでしょう?」


急に、話が変わった。



「本当に、なんてことをしてくれたんだろうね」

年嵩の人族の女性が、怒ったように呟いた。



「これじゃあ、奉納祭ができやしない」



「ほうのうさい?」



「ああ…年に一度、聖樹に供え物をするんですよ。今年も豊作でしたって」

首を傾げたリリアンヌに、年嵩の女性が答えた。



「村人全員で聖樹を囲んで、宴会をするんです」

さらにその隣の女性が答えた。



「へぇ…!それは、楽しそう」


みんなで集まって何かをするのは、大好きだ。



「でもねぇ、聖樹が切られちゃったから」



「あ…ごめんなさい。不謹慎でした」

リリアンヌは、すぐに謝った。



「いやいや、リリアンヌ様が謝ることではないです」


「そうですよ。悪いのは、山賊どもです。本当に腹が立つ…」


「まったく…聖樹を切るなんて、馬鹿なことを考えるもんがいたもんだよ」


「男どもの話じゃ、一帯が枯れちゃってんでしょう?縁起も悪いわ」


「もう死んじゃってるから、どうしようもないってねぇ」



「聖樹は、生きています」



「え?」


話し込んでいた女性たちが、リリアンヌへ顔を向けた。



「あの聖樹は、まだ生きています。それに、生きたいと願っている」

リリアンヌは、きっぱりと言った。



「きっと…また、育つ」


言葉にすれば、きっと。



「…リリアンヌ様は、聖樹をご覧になったことがあるのでしょうか」

ずっと黙っていたミホバが、口を開いた。



「はい。聖樹は、王都にもあるから」



「聖樹は光り、脈を打つことから生きていると言われています」



「ええ、そうですね」



「もう、あの樹は…黒く枯れ、光っていません」

ミホバは、そっと眉を寄せた。



「あれを生きているというのは、酷ではないでしょうか」



「ミホバ。聖樹を見に行きませんか?」



「…はい?」



「一緒に、聖樹まで行きましょう」

リリアンヌは微笑み、そっと続けた。



「そうしたらきっと、生きていると分かるから」



「そりゃ、いいね!」

ミホバより前に、恰幅のいい女性が賛同した。



「生きてると言うなら、奉納を続けていく意味もあるでしょう?ねえ、リリアンヌ様!」



「もちろん」

リリアンヌは、力強く頷いた。


女性たちの表情が、わずかに明るくなった。



「…そうしたら、今年も予定通り奉納祭をするのかな」


「今年はもう、終わってるからね。やるなら、来年だ」


「じゃあ、祭りの時期を早めてさ。みんなで、見に行こう」



「本当っ?」

すぐにリリアンヌの目が輝いた。



「次の奉納祭は、いつの予定だったの?」



「四か月後ですよ。だけど山賊に襲われて聖樹も切られて、嫌なことが続いているからねぇ。早めに祈りに行きたいとは思っていたのよ」

年嵩の女性が答えた。



「祈れば…また、育つのかな」

目の前の若い女性が、ぽつりと呟いた。



「ええ、必ず」


また、必ず育つ。



「…そうは言っても、復興作業が先よ」

ミホバが、勝手に話を進める女性たちを見渡した。



「じゃあ、門が直ったらだねぇ」

恰幅のいい女性が、溜息混じりに言った。



「どれくらいで直るのかな?」


半年後と言われてしまったら、少し困る。



「さぁ、なんとも。もうすぐ騎士さんたちも戻ってくるし、聞いてみてくださいな」


「あら…話しすぎたね。もう煮込み始めないと、間に合わないわ」


その言葉をきっかけに、会話はお開きになった。


しばらく、黙々と作業に集中した。


途中で、獣人族の女性たちが大量のパンを大きな籠に入れて運んできた。



「す、すごい…」


パンの量もすごいけれど、大きな籠を軽々と片手で持ち、頭の上に載せる女性たちに感動した。



「あの運び方が、一番楽なんです」


ナーラの母が、教えてくれた。



大鍋を二つも使ってトマトを煮込んでいき、


さらに別の焚火で、串焼きをどんどん焼いていった。



本当に、すさまじい量だ。



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