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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十三章/ラジャタ村
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私にできること

リリアンヌ視点



村へ戻った頃には、すっかり夕暮れだった。



「儂らは、このまま聖院に戻る」


ルゴットは馬を繋ぎ終わると、リリアンヌへ振り返った。



「姫さん、明日からは好きな時に聖樹へ行ってくれ」



「いいのですか?」



「許可は要らん。儂も好きな時に行っとる」



「分かりました」


まだ、聖樹への道は覚えていないけれど。


キリが分かるだろう。



「いつでも聖院に来なさい」


院長はひらひらと手を振ると、ラガーグと厩舎から出ていった。


入れ違いに、ひとりの男が入口に現れた。



深緑の軍服に、遠征用のマントを羽織っている。


アルジャの騎士と呼ばれていた人だろう。



「リリアンヌ殿下」

その騎士が、口を開いた。



「お初にお目にかかります。私は、ツァガ領で隊長を務めておりますイーデンと申します」



「イーデン隊長。お会いできて光栄です」

リリアンヌは、その場で丁寧にお辞儀した。


厳つく、貫禄のある人だ。



「救助の際にご無理をされたと伺いましたが、体調はいかがでしょうか」



「おかげさまで、すっかり元気になりました」


二日も、ぐっすり寝かせてもらった。



「この村には、どれくらい滞在のご予定でしょうか」

イーデンは、淡々と質問を重ねた。



「未定です。精霊が見つかるまで、滞在させていただく予定ですので」



「…精霊が、見つかるまで」


本当に見つかるのか、という表情だ。



「…イーデン隊長たちは、どれくらい滞在されるのでしょうか?」

間を置いて、リリアンヌはそっと尋ねた。



「少なくとも門が機能するまでは、警固も兼ねて滞在する予定です」



「そうですか。何か、お手伝い…」


言いかけて、言葉を止めた。



「何でしょうか?」

イーデンがすぐに聞き返した。



「…いいえ。私たちと一緒に来た兵たちが、村の復興を手伝っていると聞きました」



「ええ。よく働いてくれています」



「お力になれていたら、幸いです」

リリアンヌは、ほっと笑みを浮かべた。



オルトたちを、何か労ってあげたい。


食事とか…



「…そういえば、お食事はどうされているのですか?」



「…はい?」

イーデンは、わずかに眉を寄せた。



「我々の…食事ですか?」



「はい」



「…ここに訪れた時は、いつも村の者に食事を提供していただいていますが」



「アランフォースたちも?」

今度は、後ろに振り返った。



「……」

アランフォースが、小さく頷いた。



「それが、何か?」

再び前から質問が飛んだ。



「あ、いいえ…。確認をしただけです」

リリアンヌは顔を前に向け、照れ笑いを浮かべた。



良かった。


食事は提供してもらえているようだ。



「…ご挨拶ができて良かったです。滞在中、何かありましたら、どうぞお申しつけください」

イーデンが姿勢を正し、一礼した。



「こちらこそ。騎士の皆様には、滞在中お世話になります」

リリアンヌは、再びお辞儀をして返した。



イーデンは踵を返すと、門の方へ向かっていった。


まだ働くようだ。



「…治療院は、まるで兵舎状態ですよ」


隣に並んだネウロが、こそりと囁いた。



「それは、駄目なことなの?」

リリアンヌは尋ねながら、歩き出した。


とりあえず、ビッケの家に戻ろう。



「守衛隊時代を思い出して…複雑ですねぇ」

ネウロが、ふっと苦笑いをこぼした。



「皆さん真面目だから、こちらまで規律を守らなくてはいけない気持ちになります」



「だから、聖院の方にいるの?」



「おや、ばれましたか」

悪戯っ子のように、肩をすくめた。



「まあ、それだけではないんですけどね」



「そうなの?」



「あの院長の話は、聞いていて面白い」



「それは…分かる」


あれこそ、聖院の院長という印象だ。


言葉が、沁みる。


ずっと、話を聞いていたくなる。



「…僕は、リリアンヌ殿下の護衛ではありません」


ぽつりと聞こえた声に、顔を上げた。



「そう…だね?」

リリアンヌは、首を傾げた。


そんなことは、初めから分かっている。



「ビッケ君のように、従者のようなこともできない」



「ん?うん」


確かに、村に着くまでビッケは従者のようなことをしてくれていた。



「僕は、何ができるのでしょう」

ネウロは、困ったような表情を浮かべた。



「…何か、したいの?」

つられるように、困った顔になってしまった。



「殿下のお力になるために来ましたからね」



「そうだけれど…」



「僕にも、お役目をください」



「……」


ネウロは結構、無茶ぶりをする。



「…ネウロは、聖樹が生きていることを教えてくれた」

はっと、思い出した。



「ネウロがいなかったら、聖樹に白のちからを送ろうと思わなかった」



「結果、殿下が襲われました」



「襲われたわけじゃないよ」

思わず、くすっと笑みが漏れた。



「ただ、嬉しくて興奮しただけだから」



「聖樹が、嬉しいねぇ…」

ネウロは、ふふっと苦笑した。



「まるで、物語を見せられている気分ですよ」



「…そうだね」


動く樹なんて、誰もが初めての経験だろう。



「精霊の目を持つ一族のくせに、僕は、意外と現実的だったんですねぇ」


一瞬、ネウロは遠い目をした。



会話がふと途切れた。


村の先に見える湖が、夕陽に染まっている。


後ろから金槌の音が、静かに響いていた。



「ま…僕は、さしずめ語り部ってところでしょうか」

再び顔をこちらに向けた時には、ネウロの表情は元に戻っていた。



「ネウロも、登場人物だよ」

リリアンヌは、すぐに首を振った。



「ええ?」



「ネウロだって、物語の中にいる」


“物語”は関係なく、一緒に旅をしている。



「一緒に、物語をつくっている」


新しいことを、一緒に経験している。


誰も知らない未来を、つくっている。



「…本当に、殿下は面白い」

ネウロは目を細め、ふっと笑みをこぼした。



「僕なんかにも、一生懸命言葉をくださる」



「なんか、なんて言わないで」

リリアンヌは、悲しげに眉を下げた。



「ネウロのおかげで、ここまでの旅は楽しめたもの」


ずっと、一緒に話していた記憶しかない。



「じゃあ僕は、盛り上げ役ですね」

ネウロは、ぱんっと両手を小さく叩いた。



「せめて、リリアンヌ殿下の旅が明るくなるように盛り上げさせていただきます」



「……」


なんか、とか。


せめて、とか。


ネウロもまた…自分に、自信がないのだろうか。



“物語”のネウロは、戦闘員ではなかった。


槍で戦うことができるけれど、それよりも、もっと大事な役目を担っていた。


鑑定のちからだけでなく、もうひとつ、貴重なちからを持つことになる。



ただ、そのちからは、マドカに潰した目を治してもらうことで開花する。


現実のネウロの目は、潰れていない。



もちろん喜ばしいことだけれど、


そうなると、どうやってその貴重なちからを得られるかが分からない。


白のちからを送られることが条件かなと思ったけど、違ったようだ。



どうしてあげたら、いいのだろう。


どうしたら、ネウロはその貴重なちからを得ることができるのだろう。



そのちからを開花することができれば、


きっと、ネウロの自信に繋がるはずだから――



考えているうちに、ビッケの家まで戻ってきた。


アランフォースたちは足を止め、家の前で別れた。


ビッケとキリと、家の中へと入っていく。



「ただいま戻りました…」


言ってみたものの、家の中からは誰の気配もない。



「ビッケ、ミホバはお出かけしているのかな」


ラガーグは、きっとまだルゴットと一緒に聖院にいるのだろう。



「治療院の方だと思う」

ビッケがすぐに答えた。



「え?治療院?どうして?」



「炊き出し。騎士たちが来る時は、村の女が治療院の前に集まって、飯の準備をしてるから」



「そうなの!」

リリアンヌは目を輝かせると、くるりと踵を返した。



「どこ行くんだよ」



「治療院」



「はぁ?」



「炊き出しの手伝いに行く」



「…勝手に動いて、いいの?」



「キリがいるから、大丈夫」


多分。



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