表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
36/233

善意と同情④

リリアンヌ視点



初めて町へ出た日に訪れた通りを、


ギタンたちは、足早に通り過ぎていった。



あの時は、道行く人たちに探るような視線を向けられた。


けれど今は、皆と一緒だからか、そういうことはない。


その代わり、誰もが荷車に載った大鍋へ、じっと目を向けていた。



人が集まれる広めの場所へ出ると、ギタンが荷車を止めた。


その瞬間、椀や鉢を抱えた人たちが、慣れたように次々と列を作っていった。



「シルヴィア、来たよぉ」


にこにこと笑う老婆が、両手で空の椀を差し出した。



「アバロ、こんにちは。今日は、調子が良さそうね」


シルヴィアは椀を老婆から受け取ると、柄杓を持つサムへ手渡した。


サムは椀にスープを盛り、シルヴィアに再び渡した。



「儂ゃ、雨が降らなきゃ元気なんだよ」



「痛みがひどい時は、無理しては駄目よ。薬療院まで薬を取りに来なさいね」



「はあ、本当に贅沢な世になったなぁ」

アバロは、ありがたそうにシルヴィアの手から椀を受け取った。



「食べるもんも、一日二日待ちゃ貰える、体が痛めば薬も貰える。まるで、町民になっちまったみてぇだ」



「今日のパンは、アバロばぁの好きなえんどう豆のパンだよ」


ワンスはシルヴィアの横で籠からパンを取り出し、アバロに手渡した。



「おおっ!本当、ありがたいねぇ」



「気を付けて持っていってね」



「はいよ、どうもな」


アバロは椀とパンを大事そうに抱えると、ゆっくりと列から離れていった。



「こんにちは、シルヴィア」


「こんにちは」


今度は、母親と少女が二人で椀を持って並んでいた。



「こんにちは。イジー、だいぶ顔色がよくなったみたいね」



「うん。ここのスープを飲むと、げんきになるの」

少女が、シルヴィアにたどたどしく答えた。



「シルヴィア、ごめんなさい。なぜかこの子、いつもこう言うの」



「ふふっ…そう思うことは、大切なことよ」

シルヴィアは優しく微笑むと、スープをよそった椀をそれぞれに返した。



「ワンスから、パンを貰っていきなさいね」



「いつも、ありがとうございます」


「ありがとうございます」


親子はシルヴィアに礼を言うと、パンを受け取って列から外れた。



「まだまだあるから、ちゃんと並んでね~」


列の後ろの方で、ヌイの声が聞こえた。



「…ええと」



「いいからお前は、ギタンの隣にいろって」


リリアンヌが何か言う前に、サムがさっと言い切った。



「…はい」


所在なさげに、荷車の持ち手を両手で握った。



「よ、サム!」



「お、モク。あれ、お前ひとりか?」



「ん、爺ちゃんの分もオレが貰いに来た」



「そっか。気を付けて持っていけよ?」



「モク、ほら、スープにそれぞれパン入れとくな?」



「ありがとよ、ワンス」


サムたちと同じような年頃の少年が、椀を二つ持って列から抜けていった。



シルヴィアが椀を受け取り、サムがスープをよそう。


ワンスがパンを配り、ヌイは列を整えている。


それぞれに流れができていて、何をしても邪魔になってしまいそうだ。




「貧民区について、学んできたか」


ふいに、低い声が落ちた。



「えっ?」

リリアンヌは、ぱっと隣を見上げた。



「ここがどういうところか、学んできたか」


ギタンは列へ視線を向けたまま、もう一度尋ねた。



「…ううん。誰も教えてくれなかった」


それとなく聞いても、誰も教えてくれなかった。



「…ギタンが教えてくれる?」



「…お前は今まで、城下町のどこに行ったことがある?」


逆に質問をされてしまった。



「ここは、町じゃないの?」



「王都内だが、町としては扱われていない」



「じゃあ、ないよ。ギタンと会った日に、初めて第二城壁の外に出たの」

リリアンヌは素直に答えた。



「あ?一度も町に出たことがなかったのか?」



「うん」


ギタンは、私が第二城壁内に住んでいることに気付いている。


それに関しては、隠す気はなかった。



「ああ…そうか。そうだな」

ギタンは納得するように頷くと、静かに口を開いた。



「城下町には、何本も通りが存在する。大通りから小路まで、蜘蛛の巣のように複雑だ。そうすると、自然と陽の当たらない通りも出てくる」



「そこが、貧民区?」



「まず先に、陽の当たらない場所に、町の奴らはゴミを捨てるようになった」



「…え?ゴミ?」

リリアンヌはきょとんと目を瞬かせた。



「それを隠すように、ゴミ捨て場の周囲に、娼…いや、酒場や賭場を建てた」

ギタンは言葉を選びながら続けた。



「…うん」


賭場と聞くだけで、治安のいい印象は持てない。



「町の方から見りゃ、ゴミは見えねぇ。外観は保っているわけだ」



「でも、隠しているだけでしょう?」



「その通りだな。だが、そうやって王都に三か所、ゴミのたまり場ができた」



「…あ、それのひとつが、四塔付近なの?」



「そうだ。ここも、そのひとつだ」

ギタンは前を見たまま頷いた。



「そのゴミのたまり場に人が住み着いて、そこを町の奴らは、貧民区と呼ぶようになった」



「どうして、こんなところに人が住み着いたの?」



「町の奴らが捨てたゴミを漁れば、明日も生きられるからな」



「……」

リリアンヌは、静かに眉をひそめた。



「治安が悪いのは、貧民区だけじゃねぇ。それを隠している盛り場もだ」



「…うん」


貧民区を隠すように建っている、酒場や賭場。


そこから、治安の悪さが広がっている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ