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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第一章/踏み出した一歩
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善意と同情②

リリアンヌ視点



薬療院は、前回と変わらず、温かい雰囲気だった。


家庭的な部屋の中で、薬草瓶の並ぶ棚だけが少し異質だ。



目当ての薬の入った袋は、テーブルの端にあった。


その隣には、前回私が忘れていった帽子が置かれている。



リリアンヌは椅子によじ登り、薬の入った袋を手に取った。



「……」

そのまま、はたと手を止めた。



もし…


今、この袋の上から、私が白のちからを送ったら。



それでも、効果はあるのだろうか。


ボノの引きずる足も、治るのだろうか。



「…駄目」

リリアンヌは、静かに首を振った。



シルヴィアと、白のちからは使わないと約束した。


それに、私を信用してこの薬を取りに行かせた。


それを裏切るようなことは、したくない。



「――正解だ」



「うわぁっ!」


突然聞こえた声に、思わず飛び上がった。



「お前がちからを送っていたら、俺はその薬を捨てなきゃならなかった」

背を向けている長椅子から、むくりとギタンが起き上がった。



「前は、間に合ったようだな。もう、ここに来られなくなったと思ったが」



「…だ、大丈夫だった。ギタンの、おかげで」


胸に手を置き、バクバクと鳴る心臓を落ち着かせた。



「…ギタン。この間は、ありがとう」



「お前も炊き出しに行くのか」



「え?うん…行って、お手伝いしたい」



「手伝いだけだな?」



「…あの、ギタン」



「なんだ」



「私がここに来るの、迷惑かな…?みんなの邪魔をしている気がするの」



「邪魔っていうのは違う。子供は、誰かに面倒を見てもらって育つもんだ」

ギタンは淡々と答えた。



「…そうじゃなくて」



「シルヴィアは、なんとも思っちゃいねぇ。面倒を見るのは大好物だ」



「ううん…孤児院のみんなのこと」

リリアンヌは、不安げに目を伏せた。



「親のいる子が…家のある子がここに来て、その…嫌じゃないかなって」


どうして家があるのに、ここに来るのか。


毎日ちゃんと食べられるのに、なぜ来るのか。


そう思われていたら、もう来ない方がいいのかもしれない。



「お前が逆の立場だったら、どうだ」



「え…?」



「親のいない子が、お前の家に遊びに来たら。親もいないのに、なぜここに来たと思うか?」



「ええ…?そんなの、絶対に思わない」


親がいないというだけで、そんなふうに線を引くなんてあり得ない。



「それなら、気にするな」

ギタンがあっさりと言った。



「仲良くしてやれ。同情だけはしてやるな」



「…うん」


同情するのだけは、違う。


それは、よく分かる気がした。



「問題点は、そこじゃねぇ」



「…ふぇ」

リリアンヌは、びくりと顔を上げた。



「炊き出しに行くなら、その顔を隠せ。身なりも隠せ。話は、そこからだ」

ギタンの声が、一段低くなった。



「…う、うん」

咄嗟に、テーブルに置かれている帽子を手に取った。



服を隠すのは、どうすればいいのだろう。


シルヴィアに頼めば、何か貸してくれるだろうか。



帽子と袋を手に握ったまま、再び孤児院の方へ戻った。



「お、いたいた、リリィ」


孤児院の扉を開けると、ちょうどサムが階段を下りてきた。



「これ、やるよ」



「!」


サムが手にしていたのは、頭巾のついたマントだった。



「オレが、家から逃げ出してきた時に着てたもんなんだよ」


サムはリリアンヌの前に屈むと、マントをふわりと広げてかぶせた。


マントは少し大きく、足首まですっぽりと隠れた。



「…ごめん。洗ってはいるんだけど、ぼろぼろだな」



「…借りていいの?」



「だから、やるよ。これからここに来る時も、それを着てた方がいいだろうし」

サムは顔を近づけ、にっと笑った。



「…何から何まで、ありがとう」


思わず、泣きそうになった。


どうして、知り合ったばかりの自分をここまで思いやれるのだろう。



「いや…礼を言うのは、こっちの方なんだけど」



「…どうして?」



「じゃあ…カヤに髪紐をくれた礼」

サムはそう言うと、すくっと立ち上がった。



「もう、時間だ。行くなら行こうぜ」



「…うん」


誤魔化された気がしたけれど、


ありがたくマントを受け取ることにした。



スープの入った大鍋は、年長組三人によって門の外まで運ばれた。


いつの間にか外に出てきていたギタンが、大鍋を載せた荷車の持ち手を押した。


頭から深くマントをかぶり、腰には木刀のような太い木棒を差している。



「じゃあ、留守を頼んだわね」



「は~い!」


「気を付けてねー!」


メルたち年少組五人を孤児院に残し、


年長組三人とシルヴィアと一緒に、ギタンの押す荷車の後ろに続いた。



「サムたちは、顔を隠さないの?」

リリアンヌは、隣を歩く年長組を見上げて尋ねた。



「え?オレたちが隠したって、仕方ないだろ」

サムが目を丸くして答えた。



「じゃあ、どうして私だけ?」


子供の中では自分ひとりだけ、帽子の上からさらにマントを深くかぶっている。


これでは逆に不自然な気がした。



「そりゃ、目立つからだよ」

ワンスが、端から笑って答えた。



「この格好の方が、目立つよ」



「誰も気にしないから、大丈夫だって」



「そうなの?」


そう言うヌイは、いつも通りの格好だ。



「リリィ、飯を配る時は、後ろに下がってろよ?」



「それなら、何しに来たのか分からないよ」

リリアンヌは、むっと頬を膨らませてサムに返した。



「お前に何かあったら、冗談じゃ済まないからな」

サムが、メルを叱る時のように言った。



「…じゃあ、ギタンの隣にいる。それでいい?」



「ん。オレたちの間からも、離れるなよ?」

そう言うと、サムは手を伸ばした。



「…!」


伸びてきた手に、思わず目を瞑った。



「あ…ごめん。つい、メルたちと同じことしちゃったな」


頭に載せた手を、サムはすぐに離した。



「…ううん。嬉しいから、いいよ」

リリアンヌは、照れくさそうに自分の頭に手を置いた。



「ははっ、なんだよそれ。手を置かれただけで嬉しいのか?」



「頭を撫でられたのなんて、初めてかも」



「…え?」



「ね、サム。戻ったらまた、剣で遊ぼう!」



「…ええ?別に、いいけど」



「剣をくるくるって回すの、私もやりたい」

リリアンヌは、何も持たない右手を小さく回した。



「あれできたら、強そう」



「…ぶはっ!」


とうとうサムが吹き出した。



「…なんで今、笑ったの?」



「いや…お前も子供っぽいこと言うから、安心したよ」



「!」

リリアンヌは、ぱっと頬を赤くした。



「そうだよな。お前は、遊び相手が欲しいよな」



「…あ、ええと」



「メルたちと、これからも仲良くしてくれよ」



「わっ」


頭巾の上から、くしゃっと頭を強く撫でられた。



「な?」



「…うん」


すごい。


たった十歳なのに、本当のお兄ちゃんみたいだ。



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