表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
358/403

その関係の名は①

ビッケ視点



「…なんか、上機嫌だな?」


店に入ると、サムがきょとんとして出迎えた。



「うん…!良いことが続いたから」

リリアンヌは、えへへっと答えた。



「リリィ、見て~!」

カウンターの後ろの部屋から、ばたばたと少女が飛び出してきた。



「契約書の原版を捺したら、こうなったの!」

そう言って、顔の前に紙を掲げた。



「うわ…!カヤ、本当にすごい」

カヤの掲げる紙を見て、リリアンヌは息を呑んだ。



「カリグラフィみたい…」


呟いた言葉の意味は分からなかったけど、


紙には、綺麗な文字が隙間なく並んでいた。



「オレらに依頼するのって、字を読めない人が多いんだけど」



「それでも、絶対に契約書はあった方がいいよ」

リリアンヌは、じっと紙を見つめながらサムに答えた。



「それだけで、お店の信頼は上がるから」



「まあ、名前くらいは書いてもらえると思うけど」



「それで、十分」



「…ん?ビッケ、何持ってんだ?」

サムは、はたとビッケが抱える大きな包みに視線を向けた。



「あ…っ!ビッケ、ありがとうね」

リリアンヌは、はっと包みを受け取った。



「…はいっ!私からの、開業祝い」

そのまま、ずいっとサムの方へ差し出した。



「…開業祝い?」



「開けてみて!」


リリアンヌは、嬉しそうだ。



「…えー!すっげぇ!」


「え~っ、かっわいい~!」


包みを解いた瞬間、サムとカヤが興奮した声を上げた。



「なに、なに~?…あっ、看板だー!」


カウンターの奥から、メルが顔を覗かせた。



リリアンヌが用意したのは、鉄細工の看板だった。



「べ、ん、り、や、さ、む、り、り、ぃ」

メルが、看板の下に書かれた文字をゆっくりと読み上げていった。



「ごめんね…勝手に意匠を決めちゃったんだけど」



「いや、最高じゃん!これ、スノウだろ?」


サムの指す看板の中央には、ぽってりしたふくろうの影絵が描かれていた。



「間に合って、本当に良かった」

リリアンヌは、また嬉しそうに笑った。



「あ…明日、王都を出て行くんだっけ?」



「うん。朝早いし、来られるのは今日で最後だから」



「こんなにすごいの…ありがとな」


サムは、リリアンヌの頭に手を伸ばしかけて――



「あっ…やべ」


扉の脇に立つ人物をちらりと見て、すぐに引っ込めた。



「リリィ~、もうひとつ、見てほしいんだけど」



「ん?カヤ、なあに?」


リリアンヌはサムの様子に気付かないまま、カウンターの奥へ入っていった。


部屋の端にいたキリが、静かにサムへ近づいた。



「取り付ける」



「えっ…看板を?」



「そうだ」



「本当かよ…!キリ、ありがとう!」


サムから看板を受け取ると、キリはそのまま扉の外へ出ていった。



「……」

ビッケは、そっとその後を追いかけた。



キリは、もう屋根の上へ登っていた。


高いところへ行く時、キリはいつも駆けるように登る。


王都で初めて会った時も、樹から落ちた自分たちを空中で浮かせてみせた。


きっと、風を操るようなちからでも持っているのだろう。



「よっ…」


ビッケは四足を器用に使い、素早く屋根まで駆け上がった。


登るのは、オレも得意だ。



キリは、屋根から身を乗り出して看板を取り付けていた。


どうやって付けるのだろうと思ったら、すでに大きな釘が刺さっていた。



「前の看板跡だ」


作業を見ていると、教えてくれた。



「どうしてキリは知ってたの?」


どうして、跡があったことを知っていたのだろう。



「…見れば分かる」

間を置いて返ってきた。


キリは、エルフ族だ。


獣人族や人族とは、やっぱりどこか違う。



エルフ族は、他の種族と関わることを避けて人前には現れないと聞いていた。


それなのに、キリは当たり前のようにリリアンヌと一緒にいる。


どうして一緒に行動しているのかは、知らない。



アランフォースが護衛としている意味は、分かる。


いつも、静かにリリアンヌの行動を目で追っている。


何かあれば、マントの下に隠している剣を抜くのだろう。


それに、どう見てもアランフォースは強そうだ。



キリも護衛なのかと思っていたけど、今みたいにリリアンヌから離れる時もある。


アランフォースが中にいるから、離れても平気なのだろうか。


同じ護衛だとすると、その方法はまったく違うように見えた。



アランフォースはリリアンヌの後ろを歩き、キリは隣を歩く。



「…ねえ、キリ」


聞いたら、教えてくれるだろうか。



「なんだ」



「キリは、どうしてリリアンヌと一緒にいるの?」



「約束したからだ」

キリはすぐに答えた。



「約束?」



「リリアンヌを護る約束と、リリアンヌと精霊を探す約束だ」



「キリもじゃあ、護衛なの?」



「…違うらしい」


珍しくキリが、困ったように答えた。



「じゃあ、何?」


ステファンやニアたちのような使用人でないことは、分かる。



「…友人」


ぽつりと、返ってきた。



「友人…」


キリの言葉を、繰り返した。


それなら、サムたちと同じ関係ということになる。



「…?」


友人が、友人を護ろうとするだろうか。


友人って…何だ?



「あまり深く考えるな」


キリはひらりと屋根から降りると、音もなく着地した。



「うん」


ビッケも、ひょいっと屋根から飛び降りた。



「わぁ…!キリ、ありがとう」


扉から、リリアンヌが顔を覗かせた。



「良かった、ぴったりだね」



「リリアンヌ様ぁ~!」



「ん?」

リリアンヌは、呼ばれた方へ顔を向けた。



「あっ、ジーナ…!」



「リリアンヌ様っ!今日もいらっしゃってたんですね」

籠を持ったジーナが、大きく手を振りながらやってきた。



「やっほ~」


「おー。ジーナ、ありがと」


何か紙に書き込んでるサムが、カウンターから手だけ上げて挨拶を返した。



「ありゃ…カヤとメルもいたか。足りるかな?」

ジーナが、籠の中を心配そうに覗いた。



隣のドグリ食堂の娘、ジーナは、サムに頼まれて毎日昼食を持ってくる。


何度か、一緒に食べたことがある。



「あ…ジーナ。私たちは、そろそろ帰るの」



「え?」


「そうなんですか?」


リリアンヌの言葉に、サムとジーナが同時に顔を上げた。



「さすがに、明日の準備を進めないと」



「お前、まだしてなかったのかよ」


「準備って、何ですか?」


また、サムとジーナが同時に言った。



「明日からね、旅に出るの」



「旅ぃ?」

ジーナが、目を丸くした。



「そう!ビッケの村に行くの」


「!」


リリアンヌは、ぐいっとビッケの腕を引いた。



「あ、行き先って、ビッケの村だったんだ」



「あれ…言ってなかったっけ?ビッケは、村に帰るの」



「…ってことは、今日が最後か?」

サムは、寂しそうな顔をビッケに向けた。



「うん」



「…ええ、うそー!」

メルが、奥の部屋から飛び出してきた。



「お前、今日が最後かよ」



「そうなの?寂しくなるねー」

カヤもひょっこり顔を出した。



「元気でな」

サムはカウンターから手を伸ばし、ビッケの頭を撫でた。



「ビッケ。私のお父ちゃんを助けてくれて、本当にありがとね」

ジーナは、ビッケの前に屈んで丁寧に言った。



「また、町に遊びに来てよっ!」



「…うん」


気付いたら、頷いていた。



「じゃあ…私たち、もう行くね」



「あっ、あ!」


「リリィ、待って!」


メルとカヤが、慌ててカウンターの扉をくぐって出てきた。



「リリィ、屈んで」



「…?」

リリアンヌは、言われるがままカヤの前に屈んで顔を近づけた。



「はい、これっ!」

カヤは、紐のようなものをリリアンヌの首に通した。



「!わ、素敵な首飾りだね。どうしたの?」


カヤが通したのは、茶色い革紐で編まれた首飾りだった。


綺麗な赤い石がいくつも付いていて、中央では一番大きな石が揺れている。



「作ったのー!」



「つくっ…!?え…!?」

リリアンヌは目を丸くして、カヤと首飾りを見比べた。



「石を集めてきたのは、メルだけど」



「こんな綺麗な石、どうしたの?」



「小川まで行って、集めてきたんだ」

メルは、ふふんと自慢げに言った。



「えっ…もしかして、町の外まで行ってきてくれたの?」



「あっ、違うよ。町の中にある小川のこと」



「へぇ…こんな綺麗な石が拾えるんだね」



「あのね…旅に着けていってほしいなって」

カヤは、懇願するようにリリアンヌを見上げた。



「それを見て、私たちを思い出してほしいなって」



「…くれるの?」



「リリィには、たくさんもらったから。お礼だよ」

メルがにっこり笑って言った。



「メル、カヤ…」

リリアンヌの目が、一瞬で潤んだ。



「ありがとう。大好き」



「わぁ!」


「やった」


リリアンヌは両手を広げ、二人をぎゅっと抱きしめた。



「…こそこそしてると思ったら、そんなの作ってたのか」

サムは、気まずそうな顔を浮かべて呟いた。



「やべぇ…オレ、何も用意してねぇ」



「もう、十分だって」

リリアンヌは、二人から手を離してにっこり笑った。



「サムは、開業の準備頑張ってね」



「…そうだな。お前が帰ってきた時には、もう店が始まってるようにするよ」



「じゃあ、サム」



「…いや、それはさすがに、もう駄目だろ」


両手を大きく広げたリリアンヌから、サムはカウンター越しに後ずさった。



「えー…」



「じゃあリリィ、もう一回!」


「私もー!」



「メル、カヤ…!」


なぜか、リリアンヌはもう一度二人と抱きしめ合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ