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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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それぞれの第一歩

リリアンヌ視点



「両隣とも、良い人たちで良かったね」


リリアンヌは、小走りで先を歩くサムを追いかけた。



「…あのさ」


サムの目は、前に向けられたままだった。



「オレ、お前に頼りすぎてる気がする」



「えっ、どういうこと?」



「オレたちだけだったら、ここまで良い環境になっていない」



「…ごめん。余計なこと、したかな」



「いや、そうじゃなくて…」

サムはもどかしそうに、ぽりっと頭を掻いた。



「お前がいなければ、オレたちはいつまでも貧民区出身として差別される」



「でも、サムはもう、それが理不尽だって分かってる」

リリアンヌは、きっぱりと言った。



「だから…貧民区側の人間がどう思ったところで、何も変わらない」

サムの声が、わずかに鋭くなった。



「そんなこと――」



「結局、お前に頼ることしかできない」



「…それは、悪いことなの?」



「オレの気持ちの問題」

どこか、投げやりな言い方だった。



「……」



「…なんて、ごめん。金も出して貰ってんのに、いまさらだよな」

サムは誤魔化すように笑うと、そのまま口を閉じた。


会話もなく、借りた建物へと向かっていった。



「…あのね、サム」

リリアンヌは、扉の前でぴたりと足を止めた。



「サムがやろうとしていることって、私がやりたいことでもあるの」



「…オレのやろうとしてることって?」

サムも足を止め、振り向いた。



「貧民区を、少しでも良くしたいって思ってる」

リリアンヌは、まっすぐに言い切った。



「……」



「違う?」



「…オレのは、そんな大げさな考えじゃねぇよ」

サムは、ふいっと目を逸らして答えた。



「ただ、貧民区の子供らが働ける場所を作ってやりたいって思ってるだけだ」



「私も、同じ」



「オレは別に、貧民区をどうにかしようとは思ってない」



「でも、サムがやろうとしていることは、それの第一歩だと私は思うの」



「働ける場所を作ることが?」



「そう」



「…よく分かんねぇ」



「じゃあ…はっきり言う」


リリアンヌは大きく一歩踏み出し、目を逸らすサムを下から覗き込んだ。



「使えるものは、使えばいいと思うの」



「…お前の話をしてる?」

サムは眉を寄せ、ゆっくりと視線を合わせた。



「私の、身分の話をしてる」



「お前の身分?」



「そう。私の身分を使って、みんなの環境が良くなるなら、本望だなって」



「…オレは、お前を使いたくない」



「分かってる。でも私ができることって、きっかけ作りだけだから」

リリアンヌは拳を作って、サムの胸をとんっと叩いた。



「結局ここから頑張るのは、サムたちだから」



「…そうだな」



「本番は、これからでしょう?」



「…分かってるよ」



「お店を持って、満足していたら駄目だからね?」



「…言ったな?」

サムは、くっと笑みを浮かべた。



「出資金を、倍にして返してやるよ」



「あはっ…!楽しみにしてる」


リリアンヌは、にっこりと笑って返した。



―――



抜け道からエラドリオール邸へ戻る頃には、すっかり夕方になっていた。



「アランフォース。今日は、ありがとうございました」


屋敷の門をくぐったところで、リリアンヌは足を止めた。



「明日の午前も、薬療院へ行きたいのですが…いいでしょうか?」



「ええ、もちろんです」

アランフォースは、すぐに頷いた。



「じゃあ、明日も同じ時間にここへお願いします」



「分かりました」



「それでは、また明日…」

リリアンヌは、はっと言葉を止めた。


アランフォースが、何か言いたげに見つめている。



「あの…自由にしすぎたでしょうか?」


この表情は、怒っているのだろうか。


それとも、呆れられているのだろうか。



「…確かに、指摘したいところは多くありました」

アランフォースは、じっと目を離さないまま口を開いた。



「……」


自覚は、ある。



「ですが…それ以上に、驚きました」



「…令嬢らしくない振る舞いだったことは、分かっています」



「違います。殿下は…ご友人と、あんなふうに話をされるのですね」



「…サムとのこと?」



「ええ。羨ましい」



「へっ…え?」


聞き間違いかと思い、きょとんと見上げた。



「私とも、あれくらい話をしてほしいのですが」

アランフォースの表情は、どこか困っているように見えた。



「…で、でも、護衛中は話しかけてはいけないのですよね?」


それで、何度も騎士たちを困らせてきた。



「…そうですね。護衛中ではなく、こういう時に」

間を置いて、アランフォースが答えた。



「…今も、たくさんお話ししている気がします」


昨日も、馬車の中でいっぱい話をした。



「護衛に関する話だけでしょう」



「そう…でしょうか?」


馬車の中で何を話したか、すぐには思い出せなかった。



「…まだ、始まったばかりですね」

アランフォースは、ふっと視線を逸らして姿勢を正した。



「それでは、リリアンヌ殿下。また明日」



「…はい。また明日、お願いします」

リリアンヌはぺこりとお辞儀して、すぐに振り返った。


そのまま、離れた場所で待っているキリとビッケのもとへ向かった。



…びっくりした。


昨日から、アランフォースには驚かされてばかりだ。



…羨ましい?


羨ましいって、何だろう。


もしかして、話の輪に入りたかったのだろうか。



「…ふふっ」


もしそうだったら、ちょっと可愛いけれど。


そんなわけはないだろう。


アランフォースなりの冗談だったのかもしれない。



「……」



「…あ」


視線に気付き、はっと笑みを引っ込めた。



「ええと…ビッケ、疲れたでしょう?」


しまった。


ひとりで笑ってしまっていた。



「…あのな、村ではもっと動いてるって」

ビッケが呆れたように言った。



「そうなの?」



「働かなきゃ、食えない」



「へぇ…」


働かざる者食うべからずの考え方なのだろう。


それなら今の自分は、何も食べられないことになってしまう。



そんなことを考えながら、三人で屋敷の階段を上がっていった。


キリは自室の階で足を止めると、リリアンヌに向き合った。



「キリ、また明日ね」


ぎゅっと、手を握って離した。


キリは、すぐに振り返って廊下を進んでいった。



「…今の、何?」

ビッケが、不思議そうに首を傾げた。



「ん?何が?」

リリアンヌは、きょとんと振り返った。



「キリ…と、手を握った」



「ああ…そうだね」


そういえば、祭りの日から無意識にやっていた。


仲直りのぎゅと同じだけれど、別に喧嘩したわけじゃない。


それなら…



「…おやすみの挨拶かな」



「なんだ、それ」

呆れた声が返ってきた。



「ほら…家族って、別れ際に挨拶するでしょう?」


父も兄も、いつも額にキスをしてくれる。



「…それは、お前の家族だけだと思う」



「ええ?ビッケの家族は?」



「特に、何も」



「寂しくない?」



「別に、すぐに会える…だろ」

ビッケの声が、途中で萎んだ。


まだ、ビッケの母の安否は分かっていない。



「…じゃあさ!ビッケも、やろう?」


リリアンヌは自室の前で足を止めると、右手を差し出した。



「はい」



「…いや、またあとで会うじゃん」



「今は、お試し」


ビッケの手を、ぱしっと掴んで握った。



「ビッケ。今日は、ありがとう」



「何の礼?」



「ドグリさんを助けたお礼。それから、今日一日付き合ってくれたお礼」



「…助けたのは、お前だ」



「違うよ。ビッケがいなかったら、気付けなかったもの」



「……」



「あれま…手を繋いで、どうしたんです?」


階段から、ニアが上がってきた。



「挨拶していたの」



「はあ、お嬢様らしいですねぇ」

ニアは軽く流すと、部屋の扉を開けた。



「さ、お嬢様。お着替えしますよ」



「うん。じゃあ、ビッケ。あとでね」


リリアンヌはビッケの手を離し、自室へ入っていった。



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