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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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便利屋サムリリィの開業準備②

リリアンヌ視点



「リリィ、またね!」


「じゃあね~!」


北の商店通りに入ったところで、メルとカヤが、別々の道へ走っていった。



「二人とも、もうひとりで出かけているの?」

リリアンヌは二人に手を振りながら、隣に並ぶサムへ尋ねた。



「まあ、あいつらももう、十一歳だしな」



「私が十歳の時は、あんなに気を付けろって言ってたのに?」



「あのな…王族と貧民区の孤児を、一緒にするなよ」

サムは呆れたように眉を寄せた。



「危険なのは、一緒でしょう?」



「だから、全然違うって」



「何が違うっていうの?」



「あれっ!?リリアンヌ様!?」


大声が飛んできて、言い合いは中断となった。



「あら、本当じゃないか!姫さん、こんなところでどうしたんです?」


祭りの時にパンをくれたメリーが、前回も一緒にいた女性と店先で立ち話をしていた。



「こんにちは!」

リリアンヌは、小走りで二人のもとへ近づいた。



「この間は、ねじりパンごちそうさまでした」



「そんなの、ぜんっぜんいいのよぉ!」

メリーが、手をひらっと振った。



「姫さん、今日はどうしたんです?」



「ここの隣に友人が店を出すので、一緒に確認に来ました」



「…え?」


リリアンヌの言葉に、メリーと女性の表情が曇った。



「今ねぇ…ちょうど、その話をしていたんだけど。隣を借りた人が、貧民区の出身っていうじゃない?」


「貧民区出身の人って、ほら、盗みとかするでしょう…?私たち、心配で心配で」


ひそひそと、リリアンヌにだけ聞こえるように言った。



「サムたちは、絶対に犯罪なんてしない」



「サム?」



「隣に店を出す子です…サム!」

リリアンヌは振り返り、友人の名を呼んだ。



「…こんにちは」



「あら…あんた!うちのパンをいつも買ってくれてる子じゃない!」



「…いつも、美味いパンをありがとうございます」

驚くメリーに、サムが遠慮がちに頭を下げた。



「それで、何の店を出すって?」

メリーが、勢いのままに尋ねた。



「便利屋です」



「べんりや?」



「はい。ちょっとした手伝いとか、そういった仕事をしています。例えば…代わりにパンを配達に行くとか」



「そんなこともしてくれんの?」



「あとは、掃除とか、修理とか。何か困ったことがあったら、ご依頼ください」

サムは、再びぺこりとお辞儀した。



「…はぁ」


「へぇぇ…」



「店の名前は、便利屋サムリリィって言うの」



「へっ?」


メリーたちは、ぽかんとリリアンヌに顔を向けた。



「おい、リリィ…まだ」



「この店の子たちはみんな私の友人で、信用できる子ばかりです」

リリアンヌはサムの言葉を遮り、ずいっとメリーたちに向かって言った。



「私にも、何かあったらご依頼ください」



「…姫さんに、依頼ぃ?…あっはっは…!」


「なんて、贅沢な依頼よう!」


本気だったのに、大笑いされてしまった。



「どうした?」

奥から前掛けを着けた男が、ひょっこり現れた。



「あら、あんた。今、姫さんと話しててさ」



「はぁーー?」



「こんにちは」



「おい、おい…!本当に姫さんじゃねぇか!」

男は、慌ててリリアンヌたちのもとへ駆け寄った。



「これから隣によく来ると思うので、ご挨拶に来ました」



「えっ…隣?」

リリアンヌの言葉に、男はちらりとメリーに視線を送った。



「お前、貧民区の奴が来るって…」



「みんな、とても良い子たちです」


「絶対に、迷惑はかけません」


リリアンヌとサムは、同時に深く頭を下げた。



「……」

メリーたちは、素早く視線を交わした。



「姫さんがそこまで言うなら、安心かねぇ」

やがて、メリーがふっと息を吐いた。



「…ちょっと、待ってな」



「あっ、メリーさん…!今日こそ、パンを買うから!」

店の奥へ向かっていったメリーに、リリアンヌは、はっと付け加えた。



「…いいから、いいから!」


遠くから、メリーの声が返ってきた。



「姫さん…この間、祭りで白のちからを使ったでしょう?」



「ん?はい」

男の言葉に、リリアンヌは頷いて答えた。



「あれで、あいつの母ちゃんが元気になったんです」



「メリーさんの?」



「転んで足を悪くして、歩けなかったんですよ」

今度は、女性が答えた。



「そうだったの…」



「…だから、姫さんには返しきれない恩があるのよ!」

メリーが、大ぶりの包みを二つ抱えて戻ってきた。



「メリーさん、嬉しいけれど、お代を」



「姫さんには、もっといいもんを貰ったから!」

メリーは包みをリリアンヌへ手渡した。



「ほら、あんたも!」



「えっ…!オレ…私は、何もしていません」

サムは、包みを押し付けられながら首を振った。



「ちょっと早いけど、開業祝いだね」

メリーが、にかっと笑って言った。



「姫さんがそこまで協力してくれてんなら、あんた、頑張んなきゃいけないよ!」



「…はい。それは、もちろんです」

サムは、真剣な表情で頷いた。



「…ありがとう、メリーさん」

リリアンヌは、包みを両手でぎゅっと握った。



「あれ…!今日は、騎士さんがいるじゃないか!」

メリーが、はたとリリアンヌたちの後ろへ目を向けた。



「私の、護衛なの」



「友人に、護衛かぁ!姫さんは、忙しいねぇ」



「メリーさん、次こそ、買いに来るから」



「はいはい、また来て頂戴ね」


軽く流されてしまった。



最後にもう一度礼を言い、メリーママの店を後にした。



「はぁ…お前、すげぇよ」


店から離れるなり、サムが小さく溜息をついた。



「隣との関係なんて…諦めてたのに」



「そんな…だって、これから長い付き合いになるんだから」


近所の付き合いは、大切だ。



「…ここが、借りたとこ」



「えっ…!」


サムの指した先の建物を見て、思わず声を上げた。



「大きくない…?」


橙色の温かな屋根が目を引く、横長の建物だ。


中央には、可愛らしい木の扉が構えている。


その左右には大きな丸窓があり、店内の棚やカウンターがここからでも見えた。



「古いんだよ、建物が」

サムが扉を開けて、リリアンヌたちを招き入れた。



「もともと雑貨屋だったんだけど、このカウンターを受付にしたら、ちょうどいいかなって思ってさ」



「へぇぇ…」


入って右側にあるカウンターの後ろには、小部屋がある。


左側の空いた場所には、古い棚やテーブル、椅子が何脚かすでに置かれていた。



「…なんか、いいね」


まだ、何もないけれど。


どこか落ち着く空間だった。



「だろ?オレも、すぐ気に入った」

サムはカウンターに手を置き、嬉しそうに言った。



「ね、サム。備品を買いに行こうよ」



「掃除が先だって」



「じゃあ、掃除しよ」



「それはさすがに、オレたちにやらせてくれ」

張り切るリリアンヌに、サムが苦笑をこぼした。



「…何か、手伝えればいいんだけど」



「十分だって。それより、ここに五人もいたら狭く感じるな」

サムの目が、扉の傍に立つアランフォース、キリ、ビッケに移った。



「…大人数で、ごめんね」

リリアンヌは、申し訳なさそうに謝った。


そのうち二人は、背丈もかなり高い。



「…焦げ臭い」



「え?」


ぽつりと聞こえた声に、振り返った。



「焦げ臭い。たぶん、隣の店」

ビッケが頭巾を外し、メリーママの店と反対側へ顔を向けた。



「隣は食堂だったはずだ」

サムが素早く言った。



「何か焼いていて、焦げちゃったのかな」



「分かんないけど、火の燃える匂いもする」



「えっ…!?」

ビッケの言葉に、リリアンヌはぎょっと肩を強張らせた。



「サム…私、様子見てくるね」



「えっ、オレも行くよ」


サムは包みをカウンターに置くと、リリアンヌに続いた男たちの後を追った。



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