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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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着々と進む計画②

リリアンヌ視点



馬車から降りて王城の入り口へ向かうと、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)の二人が待っていた。



「イヴリ、コルネ!」


遠征の時に、一緒に料理をした二人だ。



「一週間ぶりだね」



「私たちが、部屋までご案内します」

イヴリが敬礼しながら言った。



「部屋?」


玉座の間ではないのだろうか。



「ええ、部屋です。どうぞ、足元に気を付けて」


今度はコルネが答えると、先導して王城へ入っていった。



二人は、どんどん階段を上がっていく。


案内された部屋は、一週間前に国王と二人きりで話したテラス付きの客間だった。


お前にやると言われてから、一度も使っていない。



「戻ったら知らせる」



「うん。よろしくね、キリ」


キリは足を止めることなくテラスへ進み、そのまま飛び降りた。



「あっ…!」


扉の脇に立つイヴリが、驚いた声を上げた。



「あっ…ごめんなさい。次からは、ちゃんと入り口から帰るように言っておきます」


しまった。


つい、エラドリオール邸と同じことをしてしまった。



「…いえ。エルフの方は、自由に城内を移動していいと聞いています」



「えっ、そうなの?」



「…はい」

イヴリは、ちらりとコルネへ視線を送った。


言って良かったのか、という顔だ。



「…もしかして、私も?」

リリアンヌは期待を込めて、自分を指さした。



「……」


二人は、静かに首を振った。



「…そう」


私は駄目で、キリはいいのか。


納得できないまま、ソファに腰掛けた。



「失礼します」


使用人たちが入ってきて、紅茶や茶菓子をテーブルに並べていった。



「ありがとう」


淹れてもらった紅茶に、すぐに口をつけた。



一体、何の呼び出しなのだろう。


…いや、分かっている。


ラジャタ村へ行きたいことを、ブライアンが伝えてくれているはずだ。



そういえば…ビッケを保護していることは、どこまで知られているのだろう。


父と、その話を共有しているのだろうか。



「お前は、落ち着かない奴だな」



「!」


リリアンヌはさっと立ち上がり、扉から入ってきた人物を出迎えた。


入れ違いで、イヴリとコルネが部屋から出ていった。



「俺と話してから一週間で、よくこれだけ問題を起こせるな」



「……」


嫌味を言われていることは分かっていたけれど、それどころではない。



リリアンヌは、レックスと一緒に入ってきた人物に目を奪われていた。



青と黒が混ざった髪を一本の細い三つ編みにして、胸元まで垂らしている。


どことなく、猫を思わせるような吊り目。


文官とも使用人ともまた違う、特徴的な服装。


彼は――



「…こいつは、ネウロ。鑑定士だ」


リリアンヌの視線に気付いたレックスが、くいっと顎で指した。



「リリアンヌ殿下、初めまして。鑑定士のネウロ・パルミアと申します」

ネウロは、リリアンヌに向かって丁寧にお辞儀した。



「以後、お見知りおきを」

にっこりと笑い、糸目のようになった。



「…お初にお目にかかります。パルミア先生、お会いできて光栄です」


なんとか、いつものように挨拶を返した。



「先生なんて、やめてくださいよ。どうぞ、ネウロとお呼びください」

再び、にっこりと目が細められた。



「…ネウロ。どうぞ、よろしくお願いします」



「挨拶は終わったな。座れ」


レックスが、いつの間にか座っている。



「噂に違わぬお方ですねぇ。肩にいる精霊様が、またなんとも」

ネウロは小さく呟くと、レックスの横に腰掛けた。



「あ…伯父上、このたびはお時間を――」



「要らねぇ」



「…何の用事だったのでしょうか」

リリアンヌは腰を下ろしながら、少し拗ねたような声で尋ねた。



「いろいろだ」

レックスは、ちらりと使用人たちに目を向けた。


使用人たちは準備を終えると、静かに部屋から出ていった。



「…まずは、お前を鑑定する。いいな」

扉が閉まると同時に、レックスが口を開いた。



「えっ…どうして、急に?」



「お前が持っているちからのことを知りたい」



「この間、お話しした通りです」



「ひとつ、分からないものがあっただろ」



「あ…」


黒のちからのことだ。



「でも…どんなちからかは、もうお伝えしたはずです」



「それでもだ。調べて分かることなら、調べる」



「…分かりました」


いいも何も、拒否権はない。



「シリル先生ではないのですね」


八歳の時に鑑定してくれた人の顔が、すぐに浮かんだ。



「シリルは、定年で辞めた」



「そうですか…」


それは、寂しい。


けれど今は、ネウロと出会ってしまったことの方が衝撃だった。



「精霊の申し子を鑑定できるなんて、大変光栄です」

ネウロは、にこっと笑って口を開いた。



「僕の婚約者に、羨ましがられてしまいますよ」



「こ、こちらこそ、よろしくお願いします…」


ネウロの言葉に、内心、ほっとした。


それにしても…見た目も性格も、“物語”とまったく違う。



ネウロ・パルミア――


精霊の目を持つ一族、パルミア侯爵家の息子で、国お抱えの鑑定士。



彼は、仲間のひとりだ。



ネウロには、ティナという婚約者がいる。


物語で彼女は、“デューゼの森の悪夢”で異形の存在(ゼノプーパ)に襲われ、亡くなってしまう。



大事な時に大切な人を護れないのなら、こんな目は要らないと、ネウロは自分の目を潰してしまう。


潰してしまった目をマドカが治した時に、また話が進むけれど――


彼の目は今、潰れていない。



それに…こんなに明るい性格ではなかった。


ティナが生きていることは嬉しい限りだけれど…なんだか戸惑ってしまう。



「では、さっそく…」

ネウロが立ち上がり、目の前で跪いた。



「リリアンヌ殿下、失礼します」



「あ…はい。お願いします」


はっと、差し出された手に手を重ねた。



一瞬で、二人は青い光に包まれた。



「…!」


一気に鳥肌が立って、むず痒い。


すごい…ちからが、強い。



「……」


光が収まっても、ネウロは何も言わずに見上げていた。



「……」

リリアンヌも、じっとネウロを見つめ返した。



綺麗な、青い瞳…


物語とは見た目が違うけれど…やっぱり彼も、美青年だ。



「おい、ネウロ」



「…興味深いですねぇ」


ネウロはゆっくり立ち上がると、レックスの隣へ戻っていった。



「…?」


何が見えたのだろう。



「リリアンヌ殿下が持っているちからは、四つです」

ネウロは腰を下ろすと、すぐに切り出した。



「まず、白のちから。これは確実に分かります」



「…はい」



「それから、足が強化されるようなちから。足が速いとか、高く跳べるとか、そういうものでしょう」



「!そうです」


すごい。


そこまで、はっきりと分かるものなのか。



「あと、ちからを蓄えられるような共有の類のもの。これは、精霊様のちからですね」



「はい、吸収のちからです」

リリアンヌは素直に言った。



「最後のひとつは…正直、真っ黒な塊にしか見えませんねぇ」



「…塊ですか?」



「はい。ちからをお持ちの場合、鑑定すると光が見え、その光の色によって何の系統かが分かります」



「ええ。そう、シリル先生に聞いています」



「ちからを使うと、体が光るでしょう?あれと同じで、この辺りに光が見えるのです」

ネウロは胸の前で、ぐるりと円を描いた。



「殿下の中にある黒いものは…光というより、塊のように見えます」



「それが、なんだ」

レックスが鋭く口を挟んだ。



「さっぱり分かりません。黒い塊のちからなんて、見たことも聞いたこともありません」

ネウロは、困ったように首を傾げた。



「僕には、その塊が白のちからに張り付いているように見えました」



「…張り付いている?」



「はい。白のちからに、黒い塊がまとわりついている」



「……」


リリアンヌもレックスも、黙り込んだ。


まったく意味が分からない。



黒の塊は、きっと黒のちからのものだろう。


けれど黒のちからは、瘴気を操るものだ。


白のちからとは、まったく別物のはずだけれど。



「お前でも分からないか」



「あまり良いちからでないことだけは、分かります」

ネウロは、静かにレックスへ答えた。



「お前は、早く精霊王に聞くべきだな」

レックスは、視線をリリアンヌに向けた。



「精霊を見つければ、オーリア様にお会いすることができると思います」

リリアンヌは、こくりと頷いた。


枷の件と、合わせて教えてくれるだろうか。



「…その話を進めるか」

レックスの目が、今度はネウロに向いた。



「ご苦労だったな。お前は、もういい」



「ええ、分かりました」


ネウロは立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。



「…リリアンヌ殿下」



「え…はい」


ソファの脇で足を止めたネウロを、はっと見上げた。



「精霊様を探しに行くと、伺いました」



「はい、そうですね」


先日、公表もされている。



「僕も、連れて行ってはくれませんか?」



「…えっ?」



「精霊の目を持つ一族として、リリアンヌ殿下の行動に、大変興味があるのです」


ネウロの表情は、真剣だった。



「行動って…ええと、精霊を探すということ?」



「それもですが。殿下がやろうとしていることにです」



「……」

リリアンヌはネウロを見上げたまま、困惑の表情を浮かべた。



これは…どう受け取ればいいのだろう。


物語のネウロは、何を考えているのか読めない性格だった。


発言のほとんどが嘘か冗談で、仲間に心の内を見せようとしなかった。


今は、真剣な顔をしているけれど――



「…精霊を見つけても、私は必ずオーリア様へお返しします」


もし精霊の加護を授かろうと思っているのなら、あまり力になれることはない。



「…ああ、違います!」

ネウロは、すぐに首を振った。



「精霊様をどうしようという気は、一切ありません。

ただ僕の力が、殿下のお役に立てればと思っているだけです」



「ネウロのちからが?」



「はい。鑑定のちからと、あと、槍の腕前には自信があります」



「……」


それは、知っている。


彼は、槍術に秀でている。



「…伯父上」

リリアンヌは、ちらりと助けを求めた。



「お前が決めろ」

レックスは短く答えた。



「私が決めていいのですか?」



「そいつの力が必要だと思えば、連れて行け」



「……」


本音を言えば、ついてきてほしい。


彼もまた、“仲間”なのだから。



ただ…目の前にいるネウロの本心が、さっぱり分からない。


そういえば…物語では、どうしてネウロは仲間になったのだろう。


ブライアンのお付きとして、ついてきたはずだ。


きっかけは、何だったのだろう。



「…分かりました」


…考えても仕方ない。



「一緒に行きましょう、ネウロ」



「…!ありがとうございます!」


ネウロの顔に、笑みが広がった。



「必ず、お役に立ってみせますので」



「いえ…そんな、無理はしないで…?」


そんなつもりで、ついてきてほしいわけではない。



「僕への連絡は、陛下へ伝えてくださいねっ」


ネウロは嬉しそうに言うと、失礼しますと出ていった。



「す、すごい方ですね…」


国王を通して、連絡とは。



「ある意味、お前より図太い」



「…私は、図太いと」



「褒め言葉だ」



「……」


図太いが、褒め言葉なわけがない。



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