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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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着々と進む計画①

リリアンヌ視点



「えっ…もう、人攫いの一味を見つけたのですか?」



「お前が、一味の特徴を伝えてくれたおかげだ。さすがリリィだな」

サイラスは足を組んだまま、にっこりと笑った。



「いいえ、お兄様。特徴を伝えたのは、この子です」

リリアンヌは、隣に座るビッケの肩をぽんと叩いた。



「…また、何か増えてるな」



「お兄様?何かおっしゃいました?」



「いや、なんでもない。それでだな…人攫いの隠れ家に、他に獣人族はいなかった」



「獣人族は…ということは、他にも攫われた人がいたのですね?」



「私の妹は、賢すぎるな」

サイラスは、困ったように微笑んだ。



「無事に保護したから、お前は気にするな」



「…分かりました」


攫われたのは、きっと子供なのだろう。


町の子なのだろうか。


それとも、ビッケのように村から攫ってきた子なのだろうか。


…どこに売られる予定だったのだろう。



「…獣人族の子を、大金で買い取ると言った馬鹿な貴族がいたらしい」

心の声に答えるかのように、サイラスが言った。



「そんなことのために、ビッケが誘拐されたの…?」


ビッケの肩に置いた手に、力が入った。



「もちろん、その貴族も捕らえた。情けない限りだ」

話を聞いていたロデオが、溜息混じりに答えた。



「今まで取り締まりきれなかった我々のせいだな。本当にすまなかった」



「いいえ。調査してくださり、ありがとうございました」

ビッケは座ったまま、ロデオへ向かってぺこりと頭を下げた。


ニアに習ったのか、初日よりだいぶ敬語が使えるようになっている。



「早く、お前の母親の状況が分かるといいな」



「はい、ありがとうございます」



「お父様、お兄様。本当にありがとうございました」

リリアンヌも姿勢を正し、二人に向かって深々と頭を下げた。



とりあえず、ビッケの母が王都へ連れてこられていないことは分かった。


だから今は、早馬が戻るのを待つしかない。



「リリィ。お前がラジャタ村に行くと聞いたが、本当か?」

サイラスは、笑顔を浮かべたまま尋ねた。



「はい。キリが、村の近くで精霊の反応を見つけてくれたのです」



「いつ行くんだ?」



「まだ準備が終わっていなくて…でも、できる限り早く行きたいです」


まだ、特注の靴ができあがっていない。



「その前に、私とデートしよう」



「…えっ?」

リリアンヌは、きょとんと目を丸くした。



「お兄様と、デート?」



「そうだ。明日、行こう」



「ええと…どこにでしょうか?」



「もちろん、城下町にだ」



「それなら、キリも」



「駄目だ。二人きりでだ」



「……」

リリアンヌは、助けを求めるように父へ視線を送った。



「…サイラス。金鐘通りまでだぞ」

ロデオは頭が痛そうに答えた。



「分かっていますとも」

サイラスはそう言って、すくっと立ち上がった。



「余計な男どもが増える前に」



「…?」


また、何と言ったのか聞き取れなかった。



「たっぷり楽しませてやるからな」

サイラスはリリアンヌに近づくと、ちゅっと額にキスをした。



「…あの、お兄様」



「リリィ、また明日だ」



「あ…」


兄は、そのまま父の部屋を出ていった。



「…あいつは、寂しかったんだ。付き合ってやってくれないか」



「その…気にかけてくださって嬉しいです」

リリアンヌは、ゆっくりとソファから立ち上がった。



「お父様。ビッケの件、本当にありがとうございました」



「まだ終わっていないぞ。早馬が戻ったら、また報告してやるからな」



「はい。よろしくお願いします」



「明日は、気を付けて行ってこいよ」



「はい。おやすみなさい」


リリアンヌは父からのキスを額に受け取ると、ビッケと一緒に部屋を後にした。



「…ごめんね、ビッケ」


廊下に出るなり、申し訳なさそうに謝った。



「なんで?」

ビッケは、きょとんとリリアンヌを見上げた。



「ビッケのお母さんの状況もまだ分からないのに…私、デートだなんて」



「それを心配するのは、オレだ。お前が気にする必要はないだろ」



「そう…だけど」



「覚える仕事もたくさんあるから、気にすんなよ」



「……」


ビッケは、一生懸命働いている。


ニアも、張り切って仕事を教えている。



…予定とは、だいぶ変わってしまった。


ビッケを、また薬療院に連れて行きたかったのだけれど。



とにかく明後日は、サムと約束している日だ。


その時はニアにお願いして、ビッケを連れて行こう。



――二日後



「…へっ?」


リリアンヌは、屋敷の入り口で固まった。



「お嬢様へ、王城から呼び出しがありました」


ステファンが、同じ言葉を繰り返した。



「ええと…今日、行くの?」



「ええ。今日、これから登城せよとのことです」



「えええ…」


すっかり、薬療院へ行くつもりだったのに。


というより、サムと約束をしている。



「…どうしても行かなきゃ駄目?」

リリアンヌは、懇願するように家令を見上げた。



「…そのような命令ですから」

ステファンは、申し訳なさそうに眉を下げた。



「うう…」


家令を困らせるわけにはいかない。



「ビッケ…本当にごめんね」

リリアンヌは、くるりと振り返った。



「せっかく時間を合わせてくれたのに」



「全然いいって」

ビッケは気にすることなく答えた。



「明日、行こうね?」



「オレは、いつでもいいから」



「ううう…どうしよう…」


小さく呻きながら、とぼとぼと自室に戻っていった。



薬療院へ行く気で、仕立てたばかりの服を着ていた。


登城するなら、ドレスに着替え直さなくてはいけない。



「ではさっそく、昨日サイラス様に買っていただいたドレスを着ますか?」


部屋に戻ると、ニアが素早くドレスを準備し始めた。



「そうだね。その、深緑のドレスがいいな」


リリアンヌは、ベッドへ飛んでいく精霊を目で追いながら答えた。



「スノウ、すぐまた行くからね」



「…ホ~」


不満そうだ。


やっぱり、二度寝する気だったらしい。



「さすが、サイラス様ですよね。お嬢様にお似合いのドレスを分かっていらっしゃいます」



「でも、五着も買ってくださるなんて…お兄様は、私を甘やかしすぎるんだから」


昨日――兄と二人で、本当にデートをした。


三年分の誕生日祝いとして、ドレスも装飾品も、靴まで買ってくれた。



成人しているとはいえ、そんなに稼いでいるのだろうか。


それとも、エラドリオール家のお金なのだろうか。


兄の懐事情を、まったく知らない。



買ってもらったドレスは、すべて左肩の傷が隠れるような作りになっている。


きっと兄も、傷跡のことを知っているのだろう。



傷跡は、そこまで大きなものではない。


だけど真っ黒な見た目の跡は、とても目立つ。


抉れた傷跡は黒く硬く変色し、瘡蓋が張りついたままのように見えた。


ニアはもう慣れたものだけれど、他の人たちが見たらきっと驚くだろう。



ドレスに着替え終わり、部屋を出ると、扉の脇でビッケが待っていた。


マントを外して、ニアたちが見繕った兄のお下がりを着ている。



白の上衣に、肩紐の付いた膝丈の半ズボン。


後ろで手を組んで立っていると、まるで小さな従者のようだ。


とても可愛いけれど、もう気持ちは仕事に切り替わっているようだ。



「ニア…明日こそ、ビッケと出かけてくるね?」


明日も、授業はお休みだ。



「はいはい。分かりましたから、進んでください」


扉で止まったリリアンヌの背を、ニアが後ろから押した。



「ビッケ、お嬢様をしっかり玄関広間まで送ってきてね」



「うん、分かった」



「それじゃお嬢様、行ってらっしゃいませ」


ニアが手を振り、二人を見送った。



「おうじょうって、城?」

ビッケが、後ろから尋ねた。



「そう。国王から呼び出しがあったの」

リリアンヌは、前を見たまま答えた。



「…お前、王からの呼び出しを嫌がってたのかよ」

呆れ声が飛んできた。



「だって、今日はサムと約束してたんだもん…」


大事な日に重なってしまったから、つい不満が口から出てしまった。



「サムって、ギタンのところに住んでる人?」



「ううん。毎日通っているみたいだけど、もう成人して、違うところに住んでいるの」



「なんでそんなにオレと会わせたがってるの?」



「サムが、ビッケの隠れていた場所を教えてくれたから」



「ギタンじゃなかったの?」



「ギタンもだけど、サムも気にしていたから」



「…オレのことを?」



「そう。この子だよって言ったら、サムも安心するかなと思ったの」


サムは、面倒見がいい。


きっと、森の中にいた子がどうなったかを気にしているはずだ。



「…変なの」



「変?」


ぽつりと聞こえた声に、リリアンヌはくるりと振り返った。



「獣人族は、他人のことを心配したりしない」



「それは、人によるんじゃないのかな」



「関わりのない奴のために時間を使うのは、無駄だよ」



「う~ん…」


これは、種族による価値観の違いなのだろうか。



でも…人族だって、それぞれ価値観は違う。


エルフ族も、キリ以外のことは知らない。



一概に種族の違いとまとめてしまっては、失礼だ。



「…気付いたなら、助けたいかな」


リリアンヌは顔を前に向け、小さく答えた。



「自分が見えるところだけでも。できることがあるなら、協力したい」



「そんなことしてたら、あっという間に人生が終わるぞ」



「たまに、ビッケは達観したようなことを言うね?」


あはっと、笑ってしまった。



「でも…きっと私も、知らないところで心配されて、助けてもらっているから」


もう、分かっている。


自分を心配してくれる人が、たくさんいることを。



「それは…お前だからだろ」

間を置いて、ビッケが呟いた。



「うん、分かってるよ。王族だから、他の人より気にかけてもらえることは」



「…そうじゃなくてさ」



「おや、随分と早かったですね」


階段の下で、再びステファンが出迎えた。



「キリ様には事情を説明しております」


ステファンの後ろには、すでにキリが待っていた。



「ありがとう、ステファン」



「馬車を準備していますので、どうぞ馬車で、王城へお向かいください」

ステファンは、念を押すように馬車を強調した。



「はい、行ってきます」


ビッケとステファンに手を振り、キリと馬車へ向かった。



「薬療院には、私がひとりで行ってくる」



「うん…そうしてくれると助かるかな」

リリアンヌは、残念そうに頷いた。



保証人と資金があれば、とりあえず出資者は必要ないだろう。


もう、キリにはお金を預けてある。



職業組合がどんなところか、行ってみたかった。


どうやって契約するのか、知りたかった。



「城まで送る」


キリはそう言って、馬車の扉の前で手を差し出した。



「!ありがとう、キリ」


初めての、キリのエスコートだ。


差し出された手を取り、乗り込んだ。



馬車が動き出し、王城へと向かっていく。



「…帰ってきてから、ずっとキリを振り回しちゃってるね」


急に予定が変わったり、抜け道から薬療院まで駆け回ったり。


我ながら、落ち着きがない。



「別に、振り回されていない」



「三年の間、ゆっくりできた?」

リリアンヌは、何気なく尋ねた。



「…ゆっくり?」

キリは不思議そうに首を傾げた。



「故郷に戻って、ゆっくりできたかなって」



「風の里には、戻っていない」



「そうなの?」


まさか、ずっと精霊を探し続けていたのだろうか。



「もう、戻る気もない」



「えっ!?」

思わず、身を乗り出した。



「どうして?」



「…意見を異にした」

キリは静かに答えた。



「異にしたって…どういうこと?」



「……」



「…聞かない方がいい?」



「君が気にする」



「…もう、気にしてるよ」

リリアンヌは、心配そうに眉をひそませた。



「…長の主張を受け入れられず、私は里を出た。もう戻ることはない」



「…もしかして、それって」



「私の問題だ。君は、何も関係ない」

キリは、きっぱりと言った。



「……」


キリは、加護のちからを持つ者に協力すると言って王都に現れた。


エルフ族は…人族を快く思っていないはずだ。


それならきっと、意見を異にした理由というのは私に関することだ。



戻る気がないなんて…


エルフ族は、人族よりずっと長命なのに。



これから先、ずっと風の里に戻らないのならば…


彼はいつか、ひとりになってしまう。



「私の問題だ」

キリは同じ言葉を繰り返した。



「キリ…」

リリアンヌは両手を伸ばし、キリの手を握った。



「…ありがとう」


謝るのは、違う。


謝ったら、失礼だ。



「私…キリと一緒にいられて、本当に嬉しい」


何度だって、伝える。



「私のもとに来てくれて、ありがとう」


感謝の気持ちは、尽きることなく溢れてくるのだから。



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