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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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男たちのひと仕事

サイラス視点



「…ストレート」


紫髪の男は、テーブルにカードを並べた。



「おい~…!またサイの勝ちかよ!」

男が、悔しそうな声を上げた。



「お前…ひとり勝ちは、顔だけにしとけよ」

別の男が、紫髪の男の前にばんっとコインを叩きつけた。



「俺には、幸運の女神がついているもんでね」


紫髪の男――サイは、にやりと笑ってコインを積み上げた。



「ったく…最近、本当にしけてんなぁ。儲け話も入ってこねぇ」

さらに別の男が、組んだ足を揺すった。



「お前、まだ裏の仕事してんのか?」

コインを投げつけた男が尋ねた。



「あー?最近は検問が厳しいからな。下手な仕事は受けられねぇ」



「まっとうな仕事しろって。オレが紹介してやるから」



「なんだよ、まっとうな仕事って」



「リザリの葉の収穫」



「ぶはっ…!全然まっとうじゃねぇ!」

二人の会話を聞いていた男が、げらげらと笑った。



「リザリの葉を収穫して売るだけなら、犯罪じゃねぇな」



「あ?そうなのか?」

笑った男が、サイへ顔を向けた。



「栽培したり、麻薬に加工したら違法だ」



「そうそう。サイの言うとおりだ。売る分には、良い金になるんだぜ」



「リザリの葉なんて、どこに生えてんだよ。…よし、この勝負は乗るぞ!」

足を揺らす男が、どんっとコインを積み上げた。



「意外とザンビア山脈にあんだぜ。…降りる」

持ちかけた男が、不機嫌そうにカードを放り投げた。



「あと、リヨラル山脈にもあると聞いたことがある。…もう一枚だ」



「おまっ…サイ、またかよ…!」



「リヨラルと言やぁ、獣人族のいる村。…俺も、もう一枚だ」

男が、にやりと笑った。



「獣人族が、なんだよ」

サイは、コインを積み重ねながら尋ねた。



「オウラの奴が、獣人族の子を攫ってきたらしいぜ」



「ばっかだな。あいつ、まだそんなことしてんのか。くそっ…降りる」

笑った男が、舌打ちしながらカードを投げ出した。



「よし…!サイ、勝負だ!フルハウス!」

勝負を仕掛けた男が、自信ありげにカードをテーブルに広げた。



「フォーカード」



「あああっ!?」


サイの前に並べられたカードを見た男たちが、絶叫した。



「お前、本当にイカサマじゃねぇのか…」



「お前ら相手に、イカサマなんて通用しねぇだろ」

サイは、じゃららっと自分の方にコインを引き寄せた。



「……」

その目が一瞬、酒場の外へ向けられた。



「…わりぃ、今日は帰るわ」



「おいサイ、本当にひとり勝ちかよ」

負けた男が、不満げな声を上げた。



「だから、悪いって。予定あんだよ」

サイは立ち上がると、男たちが囲むテーブルに大銀貨を一枚放り投げた。



「それで勘弁してくれ」



「勝った分の半分しか置いてかねぇのかよ!」


文句を背に受け、サイは酒場を後にした。



六塔の盛り場通りは、道が狭い。


細い道に密集するように酒場や娼館が建てられている。


酒場の中でも大勢が酒を飲んでいるというのに、通りまで人がひしめき合っていた。



通り過ぎる男どもは皆、小汚い格好をした者ばかりだ。


酒と煙草の匂いで溢れ、誰ひとりまともな目をした奴はいない。



その中で、やけに姿勢の良い男が、こちらに背を向けてゆっくりと歩いていた。



「…おい、こら」


サイはその男に近づき、がばっと肩に腕を引っかけた。



「オウジサマが六塔近くなんか来て、何してんだ」



「お前を探してたんだよ」

男は、にやりと笑って言った。



「ああ…?ふざけんなよ。お前が来たら、目立って仕方ねぇだろ」

サイは目を細めて睨みつけた。



「私の変装は、駄目か?」



「まず、言葉遣いが駄目だ。それにお前は、王都中に顔が割れてるだろ」



「いや、帽子をかぶっていれば意外と気付かれないものだ」



「ひゃあー!美男二人が歩いているよ!」


「まるで、王子様みたいじゃないか!」


「お兄さんたち、うちの店来てぇ!」


店の前に立つ女たちが、わっと声を上げた。



「また今度な」


サイは女たちに笑顔で応えると、肩を組んだまま路地裏へ進んでいった。



「…おい、ブライアン」



「ここでは、ブランと呼んでくれないか。サイ」



「…ブラン。なぜ俺の変装に気付いた」



「お前のその紫髪は、子供の頃から何度も見てきた」

ブライアンは、とんと自分の頭を指さした。



「便利なちからだな。髪色を変えられるというのは」



「光のちからを使える奴が、何を言ってんだか」


サイ――サイラスは、馬鹿にするように鼻で笑った。



「…それで。俺の潜入を邪魔するほどの情報を持ってきたんだろうな」



「オウラたちを見つけた」



「…!」

サイラスは、ぴくりと眉を動かした。



「…嘘じゃねぇだろうな。まだ昨日から動き始めたばかりだぞ」



「とんでもない人物が、協力してくれたものでね」



「あ?誰だ?」



「こっちだ」


ブライアンは、その体勢のまま路地裏を進んでいった。



路地裏のさらに奥、暗い小路の入り口に、マントを深くかぶった男が立っていた。


異様に気配が薄く、人形のようだ。


こいつを、知っている。



「…おい、本気かよ」


サイラスはブライアンの肩から腕を外し、訝しげに眉を寄せた。



「なんでエルフが協力してんだ」



「彼女が自分で動こうとする前に解決したい」

キリは表情も変えないまま言い切った。



「……」

サイラスは、じとりとキリを睨みつけた。



「妹は、やらねぇぞ」



「何の話だ」


キリは冷たく返すと、小路の奥へと進んでいった。



「…おい、ブラン」



「なんだ」



「あいつは、いつもあんな感じなのか」



「あんな感じって?」



「妹のために、エルフが動くのか?」



「ああ…そういう意味では、そうだな」



「はぁ…?」


頭に、血がのぼりそうだ。



「くそっ…エルフだからって油断していた」



「相変わらず、妹馬鹿だな」


ぶつぶつ言うサイラスに、ブライアンは苦笑を浮かべた。



「お前だって早く解決してあげたいから、ずっとこの辺りにいるのだろう?」



「当たり前だ。愛しの妹からの、直々の依頼だぞ」


正確には、父とナイジェル隊長を通しての依頼だったが。



「友人のことだかなんだか知らねぇが、妹を悲しませるような奴らなど全員死刑だ」



「…その前に、犯罪者として許すなよ」

ブライアンは、呆れるように溜息を漏らした。



前を歩くエルフが、何も言わずに建物を駆け登っていった。


まるで風に押し上げられているようだ。



「…簡単に登りやがって」

サイラスは壁の窪みを利用して登り、キリの後を追った。


自分より先にブライアンが屋根の上へ辿り着いたことに、無性に腹が立った。



エルフとブライアンは、こちらに背を向け一点に視線を落としていた。


その先には、造りの古い大きな建物があった。


建物の手前にある古びた門には鎖が巻かれ、そこからは入れそうもない。



「…廃墟か」

サイラスはブライアンの横に並んだ。



「中に、二十人近くいる」

奥からキリが答えた。



「入り口は、二か所あるな。挟み撃ちするか」


それぞれの入り口の前に、見張りが立っているのが見えた。



「まず、オウラだけ捕らえるか?」

ブライアンが素早く尋ねた。



「奴らは、人攫い一味だ。全員始末していいだろ」



「中に、攫われた者がいるかもしれないだろう」



「それくらい、見分けられるだろ。間違えて殺すなよ」



「…恐ろしい王族だな」

ブライアンは再び溜息をついた。



「お前たちが逃したら、私がここで仕留める」



「お前は入らねぇのかよ!」


エルフの言葉に、思わず口を衝いて出た。



「私の仕事ではない」

キリは淡々と答えた。



「左手に傷跡のある男が、頭目のオウラだ。サイ、そいつだけは絶対に殺すなよ」


ブライアンは、エルフの反応をまったく気にしていないようだった。



「ちっ…俺が、妹に報告するんだからな」

サイラスは二人の男に念を押し、建物に視線を落とした。



「……」


一味の隠れ家を見つけたらまず報告しろと、ナイジェルには言われていた。


部下も、六塔付近の通りでまだ潜入を続けている。



だがエルフの言う通り、さっさと片を付けたい。


妹の心を痛める存在は、許さない。



妹には、いつでも笑顔でいてほしい。


せっかく目を覚まして、また俺に笑いかけてくれるのだから。



「…行くぞ、オウジサマ」


サイラスは、ブライアンと共に屋根の上から飛び降りた。



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