男たちのひと仕事
サイラス視点
「…ストレート」
紫髪の男は、テーブルにカードを並べた。
「おい~…!またサイの勝ちかよ!」
男が、悔しそうな声を上げた。
「お前…ひとり勝ちは、顔だけにしとけよ」
別の男が、紫髪の男の前にばんっとコインを叩きつけた。
「俺には、幸運の女神がついているもんでね」
紫髪の男――サイは、にやりと笑ってコインを積み上げた。
「ったく…最近、本当にしけてんなぁ。儲け話も入ってこねぇ」
さらに別の男が、組んだ足を揺すった。
「お前、まだ裏の仕事してんのか?」
コインを投げつけた男が尋ねた。
「あー?最近は検問が厳しいからな。下手な仕事は受けられねぇ」
「まっとうな仕事しろって。オレが紹介してやるから」
「なんだよ、まっとうな仕事って」
「リザリの葉の収穫」
「ぶはっ…!全然まっとうじゃねぇ!」
二人の会話を聞いていた男が、げらげらと笑った。
「リザリの葉を収穫して売るだけなら、犯罪じゃねぇな」
「あ?そうなのか?」
笑った男が、サイへ顔を向けた。
「栽培したり、麻薬に加工したら違法だ」
「そうそう。サイの言うとおりだ。売る分には、良い金になるんだぜ」
「リザリの葉なんて、どこに生えてんだよ。…よし、この勝負は乗るぞ!」
足を揺らす男が、どんっとコインを積み上げた。
「意外とザンビア山脈にあんだぜ。…降りる」
持ちかけた男が、不機嫌そうにカードを放り投げた。
「あと、リヨラル山脈にもあると聞いたことがある。…もう一枚だ」
「おまっ…サイ、またかよ…!」
「リヨラルと言やぁ、獣人族のいる村。…俺も、もう一枚だ」
男が、にやりと笑った。
「獣人族が、なんだよ」
サイは、コインを積み重ねながら尋ねた。
「オウラの奴が、獣人族の子を攫ってきたらしいぜ」
「ばっかだな。あいつ、まだそんなことしてんのか。くそっ…降りる」
笑った男が、舌打ちしながらカードを投げ出した。
「よし…!サイ、勝負だ!フルハウス!」
勝負を仕掛けた男が、自信ありげにカードをテーブルに広げた。
「フォーカード」
「あああっ!?」
サイの前に並べられたカードを見た男たちが、絶叫した。
「お前、本当にイカサマじゃねぇのか…」
「お前ら相手に、イカサマなんて通用しねぇだろ」
サイは、じゃららっと自分の方にコインを引き寄せた。
「……」
その目が一瞬、酒場の外へ向けられた。
「…わりぃ、今日は帰るわ」
「おいサイ、本当にひとり勝ちかよ」
負けた男が、不満げな声を上げた。
「だから、悪いって。予定あんだよ」
サイは立ち上がると、男たちが囲むテーブルに大銀貨を一枚放り投げた。
「それで勘弁してくれ」
「勝った分の半分しか置いてかねぇのかよ!」
文句を背に受け、サイは酒場を後にした。
六塔の盛り場通りは、道が狭い。
細い道に密集するように酒場や娼館が建てられている。
酒場の中でも大勢が酒を飲んでいるというのに、通りまで人がひしめき合っていた。
通り過ぎる男どもは皆、小汚い格好をした者ばかりだ。
酒と煙草の匂いで溢れ、誰ひとりまともな目をした奴はいない。
その中で、やけに姿勢の良い男が、こちらに背を向けてゆっくりと歩いていた。
「…おい、こら」
サイはその男に近づき、がばっと肩に腕を引っかけた。
「オウジサマが六塔近くなんか来て、何してんだ」
「お前を探してたんだよ」
男は、にやりと笑って言った。
「ああ…?ふざけんなよ。お前が来たら、目立って仕方ねぇだろ」
サイは目を細めて睨みつけた。
「私の変装は、駄目か?」
「まず、言葉遣いが駄目だ。それにお前は、王都中に顔が割れてるだろ」
「いや、帽子をかぶっていれば意外と気付かれないものだ」
「ひゃあー!美男二人が歩いているよ!」
「まるで、王子様みたいじゃないか!」
「お兄さんたち、うちの店来てぇ!」
店の前に立つ女たちが、わっと声を上げた。
「また今度な」
サイは女たちに笑顔で応えると、肩を組んだまま路地裏へ進んでいった。
「…おい、ブライアン」
「ここでは、ブランと呼んでくれないか。サイ」
「…ブラン。なぜ俺の変装に気付いた」
「お前のその紫髪は、子供の頃から何度も見てきた」
ブライアンは、とんと自分の頭を指さした。
「便利なちからだな。髪色を変えられるというのは」
「光のちからを使える奴が、何を言ってんだか」
サイ――サイラスは、馬鹿にするように鼻で笑った。
「…それで。俺の潜入を邪魔するほどの情報を持ってきたんだろうな」
「オウラたちを見つけた」
「…!」
サイラスは、ぴくりと眉を動かした。
「…嘘じゃねぇだろうな。まだ昨日から動き始めたばかりだぞ」
「とんでもない人物が、協力してくれたものでね」
「あ?誰だ?」
「こっちだ」
ブライアンは、その体勢のまま路地裏を進んでいった。
路地裏のさらに奥、暗い小路の入り口に、マントを深くかぶった男が立っていた。
異様に気配が薄く、人形のようだ。
こいつを、知っている。
「…おい、本気かよ」
サイラスはブライアンの肩から腕を外し、訝しげに眉を寄せた。
「なんでエルフが協力してんだ」
「彼女が自分で動こうとする前に解決したい」
キリは表情も変えないまま言い切った。
「……」
サイラスは、じとりとキリを睨みつけた。
「妹は、やらねぇぞ」
「何の話だ」
キリは冷たく返すと、小路の奥へと進んでいった。
「…おい、ブラン」
「なんだ」
「あいつは、いつもあんな感じなのか」
「あんな感じって?」
「妹のために、エルフが動くのか?」
「ああ…そういう意味では、そうだな」
「はぁ…?」
頭に、血がのぼりそうだ。
「くそっ…エルフだからって油断していた」
「相変わらず、妹馬鹿だな」
ぶつぶつ言うサイラスに、ブライアンは苦笑を浮かべた。
「お前だって早く解決してあげたいから、ずっとこの辺りにいるのだろう?」
「当たり前だ。愛しの妹からの、直々の依頼だぞ」
正確には、父とナイジェル隊長を通しての依頼だったが。
「友人のことだかなんだか知らねぇが、妹を悲しませるような奴らなど全員死刑だ」
「…その前に、犯罪者として許すなよ」
ブライアンは、呆れるように溜息を漏らした。
前を歩くエルフが、何も言わずに建物を駆け登っていった。
まるで風に押し上げられているようだ。
「…簡単に登りやがって」
サイラスは壁の窪みを利用して登り、キリの後を追った。
自分より先にブライアンが屋根の上へ辿り着いたことに、無性に腹が立った。
エルフとブライアンは、こちらに背を向け一点に視線を落としていた。
その先には、造りの古い大きな建物があった。
建物の手前にある古びた門には鎖が巻かれ、そこからは入れそうもない。
「…廃墟か」
サイラスはブライアンの横に並んだ。
「中に、二十人近くいる」
奥からキリが答えた。
「入り口は、二か所あるな。挟み撃ちするか」
それぞれの入り口の前に、見張りが立っているのが見えた。
「まず、オウラだけ捕らえるか?」
ブライアンが素早く尋ねた。
「奴らは、人攫い一味だ。全員始末していいだろ」
「中に、攫われた者がいるかもしれないだろう」
「それくらい、見分けられるだろ。間違えて殺すなよ」
「…恐ろしい王族だな」
ブライアンは再び溜息をついた。
「お前たちが逃したら、私がここで仕留める」
「お前は入らねぇのかよ!」
エルフの言葉に、思わず口を衝いて出た。
「私の仕事ではない」
キリは淡々と答えた。
「左手に傷跡のある男が、頭目のオウラだ。サイ、そいつだけは絶対に殺すなよ」
ブライアンは、エルフの反応をまったく気にしていないようだった。
「ちっ…俺が、妹に報告するんだからな」
サイラスは二人の男に念を押し、建物に視線を落とした。
「……」
一味の隠れ家を見つけたらまず報告しろと、ナイジェルには言われていた。
部下も、六塔付近の通りでまだ潜入を続けている。
だがエルフの言う通り、さっさと片を付けたい。
妹の心を痛める存在は、許さない。
妹には、いつでも笑顔でいてほしい。
せっかく目を覚まして、また俺に笑いかけてくれるのだから。
「…行くぞ、オウジサマ」
サイラスは、ブライアンと共に屋根の上から飛び降りた。




