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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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初めての相談

リリアンヌ視点



「…話は、分かった」


ロデオは腕を組み、ゆっくりと溜息を漏らした。



「ビッケ、か。大変だったな。怖い思いをさせて、すまなかった」



「…いいえ」


ビッケは緊張しているのか、ソファにぴしりと座っている。



「お前を襲った者たちは、何人だった?」



「たぶん、五人…」



「薬をかがされたって?」



「薬かは分かんないけど、つんとする匂いがして、体が痺れて動けなくなった」



「それで、すぐに布を頭からかぶせられたのか」



「はい」



「それは、リザリの葉だ」

キリが素早く口を挟んだ。



「そうだな。精製すれば、強烈な神経毒になる」

ロデオは静かに頷いた。



「神経毒…」

リリアンヌは、ぽつりと呟いた。


リザリの葉は、麻薬の原材料というだけではなかったらしい。



「それで、ビッケ。王都にいつ入ったのかは、分からないのだな?」

ロデオは、再びビッケに目を向けた。



「荷馬車の中で、ずっと転がされたままだった。痺れが切れたから、縄をちぎって逃げた…です」



「他に、荷馬車の中に捕まっていた者はいたか?」



「オレだけ」

ビッケは小さく首を振った。



「少なくとも、お前と一緒に運ばれていた者はいなかったのだろうな…」



「あの、母ちゃんは…」



「すまないな。まだ分からない」

ロデオは、眉を寄せて答えた。



「ラジャタ村に、早馬を出そう。お前が無事という知らせと、母親の安否を確認させる」



「ありがとう、お父様…」


さすが、お父様だ。


私は、気持ちばかりが先走ってしまった。



「お前を襲った者たちの特徴は、何か覚えているか?」



「匂いなら、分かるけど…」



「…見た目で、お願いできないか」

ロデオは困ったように言った。



「ええと…オレの頭に布をかぶせた奴は、左手に大きな傷跡があった」


ビッケは、左手の甲にぴっと大きな線を指で引いた。



「それから、髭を生やしている奴もいて――」



「……」


リリアンヌは二人の会話を聞きながら、静かに考えを巡らせた。



人攫い集団ということは、山賊は関係ない。


やっぱり、襲撃が重なっただけだったのだろうか。


情勢も悪くなっていない以上、あんな未来は訪れないだろうけれど――



「…必ず、お前を攫った男どもを捕らえると約束しよう。…リリィ」


ビッケと話を終えたロデオは、真剣な表情を娘に向けた。



「お前は、しばらく六塔にも十二塔付近にも近づくな」



「はい、分かりました」


父は、そのどちらかの区域に犯人がいると踏んでいるのだろう。


今回は、さすがに従わなくてはいけない。



「ビッケ。状況が落ち着いたら、お前を村まで送ろう」



「お父様。私が、ラジャタ村まで送ります」

リリアンヌはすかさず申し出た。



「…ああ、そうか」

ロデオが、思い出したように呟いた。


どうやら、ブライアンはもう精霊探しの件をレックスたちに伝えてくれたようだ。



「準備が整い次第、出立したいと思っています」



「待て、リリィ。その前に、必ず陛下へ報告に行くんだぞ」



「はい。分かっています。ですから、お父様…その時まで、ビッケを屋敷に泊めてもいいでしょうか?」

リリアンヌは、懇願するように胸の前で両手を組んだ。



「…いいだろう」

ロデオが、ふっと苦笑を浮かべて頷いた。



「ありがとう、お父様…!」



「ステファンに、部屋を案内してもらえ」



「はい…!遅い時間にお話を聞いてくださって、ありがとうございました」

リリアンヌはソファから立ち上がると、座る父のもとへ近づいた。



「お前が私を頼ってくれて、嬉しい」

ロデオは娘を引き寄せると、額に優しく口づけをした。



「動きがあったら報告するから、お前は何もするなよ」



「はい、お父様。おやすみなさい」


最後にお辞儀して、キリとビッケと一緒に父の部屋を後にした。



「ビッケ、このままステファンのところに行こうか」


この時間なら、執務室にいるだろう。



「リリアンヌ」



「ん?」

リリアンヌは、キリを見上げた。



「明日、出かけてきてもいいか」



「え?うん。一日ここにいるから、大丈夫」



「もしかしたら、明後日もいないかもしれない」



「?分かった。風の日の、サムとの約束には一緒に出かけたいけど」



「それまでには戻る」

キリはそう言うと、ひとり先に階段を上がっていった。



「……」


珍しい。


まったく構わないけれど、何をしに行くのかは、だいぶ気になった。



不思議に思いながら、ビッケと一緒にステファンの執務室へ向かった。


ステファンは事情を聞くと、すぐに客室へ案内してくれた。



「この部屋を、どうぞご自由にお使いください」


ビッケの部屋は、キリの部屋と同じ階だった。



「…本当に、ここ使っていいのか?」


ビッケはぽかんと口を開け、部屋を見渡した。



「お食事は、部屋まで運ばせていただきます」

ステファンは、扉の前から穏やかに続けた。



「お、オレ…働くっ…!」

ビッケは、がばりと振り返った。



「ビッケ様は、リリアンヌお嬢様の客人でございます」



「でっ、でも…落ち着かない!何かしたい」



「ビッケ。あなたは、無理やり王都に連れてこられたの」

リリアンヌは、そっと首を振った。



「働く必要なんて、ない」



「村でも働かなきゃ、飯食えなかったから…頼むよ」

ビッケは、困ったように眉を下げた。



「……」

リリアンヌも同じような表情を浮かべ、隣を見上げた。



「…ニアに、任せてみましょうか」

視線を向けられたステファンは、ふっと苦笑を浮かべた。



「それ、とてもいい!」


さすが、ステファンだ。



「ニアって、昼間の?」



「お嬢様の生活を支えている侍女です。ビッケ様、侍女の意味はご存じで?」



「…使用人みたいなの」

ビッケは自信なさげに答えた。



「ええ…まあ、それでいいでしょう。あなたには、ニアの仕事を手伝っていただきます」



「ニアが、きっと喜ぶわ」


ニアは、すでにビッケにめろめろだった。



「ビッケ様…そうと決まれば、明日は早起きです」

ステファンが表情を引き締めて言った。



「大丈夫」

ビッケは勢いよく頷いた。



「それでは、また明日。ご主人様には、私から報告しておきます」



「ありがとう、ステファン。おやすみなさい」



「おやすみなさいませ」


ステファンが一礼して、部屋から出ていった。


扉が閉まると、ビッケは再び室内を見渡した。



「本当に、オレがこの部屋を使っていいの?」



「うん、もちろん」



「こっちにも扉があるけど」

そう言ってビッケは、室内にある扉を開けて覗き込んだ。



「うわ、すげぇ」



「…ビッケ、ひとりで大丈夫?」

リリアンヌは扉に背をつけ、じっとビッケの様子を見つめた。



「何が?」



「できる限り、早く村に帰ろうね」



「別に、いつか帰れるなら急がなくてもいいけど」



「でも、お母さんのこと心配でしょう?」



「お前の父ちゃんが、確認してくれるって言ったし。待つよ」



「…もう、逃げたりしない?」



「え?」

ビッケは、ぱっとリリアンヌに顔を向けた。



「必ず、一緒に村まで行くから。それまで、ここにいてくれる?」

リリアンヌは、真剣な表情で尋ねた。



「…どうして、お前がオレのこと気にするの?」



「攫われる怖さは、知っているから」

目を伏せ、ぽつりと答えた。



「ひとりでどうにかしようとするのは、心細いって知っているから…」



「……」



「…ね、ビッケ」



「…なに」



「抱きしめてもいい?」



「はぁ?」

ビッケは思いきり顔をしかめた。



リリアンヌは返事を待たずに駆け寄り、ビッケを抱きしめた。



「うわ…」


ふわふわで、抱き心地がいい。


髪が柔らかくて、いい香りがする。


さらに、ぎゅっと抱き寄せた。



「すっごい幸せ…」



「…幸せなの?」



「うん、落ち着く…」



「…変なの」

ビッケは、ただじっとしていた。



「本当は、このまま一緒に寝たいけど」



「嫌だ」



「うぐ…」


即答されてしまった。



「…もう、部屋に戻ります」


リリアンヌはビッケと体を離すと、とぼとぼと扉へ向かった。



「ビッケ、また明日ね」


村へ戻るまで、ここでは安心して過ごしてほしい。


ビッケの母のことを思うと、それは無理かもしれないけれど…



とにかく、無事でいてほしい。


どうか、早く安否が分かりますように――



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