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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十二章/旅の仲間
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予想外の出会い③

リリアンヌ視点



「お嬢様…お待ちください」


エラドリオール邸の門番たちが、さっとリリアンヌたちの前に立った。



「そのマントの子は?」



「…ええと」

リリアンヌは、ちらりと隣に視線を向けた。



「すげぇ…」

ビッケはリリアンヌと手を繋いだまま、ぽかんと屋敷を見上げていた。



「…この子は、私の友人です。中に入れちゃ駄目かな?」



「いえ…我々には、止める権限はありませんが」



「お父様とお母様には、必ず伝えます」



「……」


門番たちは、困ったように顔を見合わせた。



「屋敷に入ったら、すぐにステファンへ伝えるから」

リリアンヌは、なおも頼み込んだ。



「はい。呼びましたか?」



「!」


ステファンが、門の近くまで出てきていた。


さすがだ。



「あのね、ステファン。友人を連れてきたの。屋敷に入れてもいい?」



「…友人?」

家令の目が、素早くビッケを捉えた。



「…ええ、もちろんでございます」

間を置いて、ステファンが頷いた。



「大変失礼しました」


門番たちが、門を開けた。



「いいえ。二人とも、ありがとう」


いくら私が連れていても、知らない子を簡単に入れることはできないだろう。


優秀な門番たちだ。



手を繋いだまま、屋敷の入り口へと向かった。


ビッケは頭巾の下から、きょろりと辺りを見渡していた。



「それで…訳ありのご友人は、その格好のままお嬢様の部屋へ向かわれるのでしょうか」

屋敷へ入ると同時に、ステファンが優しく尋ねた。



「あ…ええと」


後先も考えず、連れてきてしまった。


どうやって、獣人族の子だと説明するべきか――



「リリアンヌ、お帰りなさい」


玄関広間に繋がる階段から、声が降ってきた。



「!お母様…!」


母が、外出用のドレス姿で現れた。


後ろから、侍女が二人ついてきている。



「これからお出かけですか?」



「ええ。エレメア様とお茶会をしてくるわ」



「とても綺麗です、お母様」



「あなたは、またすごい格好ね?」


破れたドレス姿の娘を見て、アヴェリーンは片眉を上げた。



「ご、ごめんなさい…」



「あら…その子は?」

母の視線が、ビッケに移った。



「……」

ビッケは、リリアンヌの後ろへ隠れるように下がった。



「…大丈夫」

リリアンヌは囁くと、決意を込めた目を母に向けた。



「お母様。この子は、私の友人のビッケです」



「友人?」



「…はい」


手を伸ばし、そっとビッケの頭巾を外した。


特徴的な獣の耳が、露わになった。



「…!」


アヴェリーンと後ろに控える侍女たちが、大きく息を呑んだ。



「訳があって、しばらくここに住まわせたいの…お母様、いいでしょうか」



「……」


母は、何も言わない。


わずかに口を開けたまま、じっとビッケを見つめている。


ビッケと繋ぐ手が、ぎゅっと強張った。



「かっ…」


その口が、ゆっくりと動いた。



「可愛い~…!」


アヴェリーンと侍女たちの声が、重なった。



「…へっ?」


リリアンヌとビッケは、同じような顔を浮かべた。



「獣人族の子ね?なんて可愛らしいのでしょう」


母は、見たことないくらい目尻を下げて頬を緩ませていた。



「や~ん…お耳が可愛い」


「私、獣人族を初めて見ました。綺麗な瞳ですねぇ」


侍女二人も、すでにめろめろだ。



「……」

身を乗り出した三人に、ビッケは逃げるように下がった。



「…こら、お前たち」

ステファンが、こほんと咳払いして侍女たちを咎めた。



「ええと…ジェニー、モアナ」


リリアンヌは、そっと侍女たちの名を呼んだ。



「もし良かったら、この子の服を綺麗なものに着替えさせてくれるかな?」



「もちろんです!」

ジェニーが元気よく答えた。



「体も汚れていますね。よろしければ、先に浴場へ案内しますか?」



「えっ」



「あら、お屋敷に入るなら綺麗にしなくてはいけませんよ。ふわふわにして差し上げます」

嫌そうな声を上げたビッケに、モアナが微笑んで言った。



「あの…それで、お母様。ビッケを、しばらく屋敷に泊めてもいいでしょうか?」

今度は、おずおずと母を見上げた。



「え?ええ、いいわよ」

アヴェリーンはさらりと承諾した。



「でも、お父様にはあなたからきちんと説明しなさい」



「はい…!ありがとうございます!」


一番の難関を、無事に突破することができた。



「それじゃあビッケ、一緒に浴場まで――」



「リリアンヌ?あなたは、これから授業でしょう?」


すかさず、母から鋭い声が飛んできた。



「…はい」


そうだ。


これから、作法の授業が待っている。



「私も、これからお茶会だわ。ジェニー、あなたも行くのよ」



「…あ、そうでした」

ジェニーは、はっと両手に持つ鞄へ視線を落とした。


名残惜しそうに、ちらちらとビッケを見ている。



「ビッケちゃん、またね。エルフさんも」


アヴェリーンはリリアンヌたちの脇を通り、優雅に扉から出ていった。



「ビッケちゃん…」


母が誰かをそんなふうに呼ぶのも、初めて聞いた。



「…では、お嬢様の授業が終わる頃に部屋までお連れしますね」


扉が閉まると同時に、モアナが嬉しそうに切り出した。



「……」

ビッケが、不安そうな顔を浮かべている。



「ビッケ、大丈夫だから。うんと綺麗にしてもらってね」



「…分かった」

ビッケはリリアンヌと手を離すと、慎重にモアナの横まで進んだ。



「それじゃあモアナ、よろしくね」


その場を任せ、キリと一緒に階段を上がっていった。



「キリ、一緒にいてくれてありがとう。お母様を説得できて、良かった」


説得というよりは、ビッケの可愛さで許可が出たようなものだけれど。



「私も一緒に話を聞く」



「ん?ええと…お父様に、ビッケの話をする時のこと?」



「そうだ」



「分かった。ありがとう」


キリも、ビッケのことを心配しているのだろう。



「じゃあ、夕食後に集まろう」


リリアンヌはキリの部屋がある階で足を止め、右手を差し出した。



「…また後で」


少し間を置いて、キリはその手を握り、離した。



「……」


リリアンヌは、さらに階段を上がっていった。



…もし。


もし“物語”の中に、避けられない未来が存在するのなら――



その可能性は、ヌシカに傷を負わされた時に分かっていたことだったのに。


ビッケが襲われるかもしれないことを、私は失念していた。


自分の周りのことしか、考えられていなかった。



…何を言っても、言い訳にしかならない。



「…ごめんなさい」


あんな小さな子に…怖い思いをさせてしまった。




『離せっ!噛むぞ!』


『嘘つくな!』




村の近くで攫われて――


王都まで連れてこられる間、何かされたのかもしれない。


だから、あそこまで警戒していたのだろう。



“仲間”に会えたことは、とても嬉しいけれど。


結局ビッケは、物語と同じように心に傷を負ってしまった。



「ごめんね…」


リリアンヌは、苦しげに呟いた。



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