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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十一章/帰ってきた少女
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初めての祭り⑤

リリアンヌ視点



大広場に戻ると、すでに音楽は止んでいた。


人はまだ大勢いるけれど、もう片付けに入っているようだ。



「間に合わなかったかぁ…」


リリアンヌは残念そうに肩を下げ、とぼとぼと大正門の方へ向かった。



「あれっ、姫さん!お帰りなさい」


「リリアンヌ様がいらっしゃるぞ!」


「戻られるの?」


気付いた大広場の人たちが、わっと周りに集まった。



「リリアンヌ様!せっかくだから、一言!」


「ああ、そりゃあいい!」



「ええっ…?いいえ、お話は――」



「なに、リリアンヌ様がお話してくれるの?」


「精霊のお話~?」


「ほら、あんた、早く!姫さんが話をするってよ!」


集まった人々が、広場の中央でリリアンヌとキリを囲んだ。


わくわくと、誰もが言葉を待っている。



「……」


どうしよう。


話なんて、できない。


でも…良い機会かもしれない。



「…ええと」



「喋られるぞ!」


周囲の人たちが、一斉に口を閉じた。



「…今日は、皆さんのおかげで楽しかったです」


リリアンヌは、意を決したように顔を上げた。



「皆さんが私を温かく迎えてくれて…とても嬉しかった」



「あったり前だよ」


うんうん、と聴衆が頷いた。



「…これは、楽しませてくれたお礼です」


言葉を言い切ると同時に――



辺りが、白い光で溢れた。



「…へぇ!?」


「えっ?」


「何この光!?」


驚く声が、伝播していく。


光は徐々に広がり、やがて広場中を包み込んだ。



「…綺麗」


「なんだか、体が温かい…」


人々はただ、その光を見つめ続けていた。



「…あれ、腰が痛くない」


「まぁぁ…!耳がよく聞こえる」


「あんた、足!」


しばらくして、はっと騒ぎ出した。



「…は、はぁっ…ふぅ…」


リリアンヌはその間に、静かに息を整えた。



「これ…もしかして白のちからか!?」


「い、一気にちからを送ったのか!?」


「しかも、治ってる!」


気付いた聴衆が、興奮の囁き声を上げた。



「これが、精霊のちからです」


リリアンヌが再び口を開くと、またすぐ静かになった。



「精霊はとても純粋で、私たち人間のことが大好きです」


肩にとまるスノウを、愛おしそうに撫でた。



「この世には、まだこの子以外にも精霊がいます」


みんな、真剣に話を聞いてくれている。



「ですが、奪おうとしたり傷つけようとすれば…精霊は、二度と現れなくなります」


どうか、ここだけでも。



「ここの皆さんだけでも、精霊の大切さを分かってほしい」


私の言葉が、届いてほしい。



「どうか…私と一緒に、精霊を大切にする未来をつくってください」


リリアンヌは話を締めると、深く頭を下げた。


しばらく、静寂が続いた。



「…ぐすっ」


「ううっ…!」



「…えっ」


聞こえた声に、慌てて顔を上げた。


周囲の人たちが、泣いている。



「ご、ごめんなさい…」


泣かせるつもりなんてなかった。



「こんな貴重なちからを、私らにまで…」


「なんて優しい方なんだ」


「本当に…特別なお方だ」



「……」


精霊の話は、伝わったのだろうか。


涙を流す人もいれば、呆然としたままの人もいる。


このまま、去ってもいいものか…



人々の間を縫って、小さな少女が駆け寄ってきた。



「リリアンヌさまっ!お礼です!」


「!」


少女は、ぱっとリリィの花を差し出した。



「ありがとう。嬉しい」


リリアンヌは、にっこり笑ってその花を受け取った。



「姫様、私も!」


「こりゃ、リリアンヌ様のお花だ」


「もらってくだせぇ」



「あ、ありがとう…」


周りにいた人々が、どんどん花を渡していった。



「ほれ、エルフさんも持ちな!」


「あんたも!」


リリアンヌの手が満杯になると、今度はキリの腕の中に花が積み重ねられた。



「……」


キリは、ただ黙って花が増えていくのを見ている。



「ふふっ…」


それが、なんだかおかしかった。



二人の手から花が溢れ落ちそうになったところで、やっと大正門へ足を向けた。


門の前に立つ守衛隊の兵たちが、道を空けてくれている。



「みんな、ありがとう…!また遊びに来るね!」


最後に町の人たちに声を張って返し、門の方へ振り返った。



「門を守ってくれて、ありがとう」


リリアンヌは敬礼を向ける門番たちに、リリィの花をひとつずつ手渡した。



「えっ」


「あのっ…」



「お仕事、お疲れ様です」


戸惑う兵たちに笑顔を向けて、門をくぐっていった。


歩いている間も、町の方からはまだ歓声が聞こえていた。



「すごいことになっちゃったね」

リリアンヌは、くすくすっと笑った。



「…楽しかったか?」



「うん、とっても!」



「…そうか」


また少し、キリの表情が和らいだ気がした。



―――



「おや…随分と楽しまれたようで」


溢れるほどの花を抱えて帰ってきた二人を、家令が温かい笑みで出迎えた。



「飾ってくれるかな?」



「勿論ですとも」

ステファンが、後ろに控える使用人に合図を送った。



「これね、私とスノウの象徴なんだって」



「ええ、そうですね。精霊祭の時もリリィの花を身につけます」



「えっ、そうなの?」


誕生祭だけではなくて、精霊祭もだとは。



「お嬢様が加護を授かってからは、毎年配られていますよ」



「そうだったのね…」


自分の名が入った花がそんなに配られているなんて、なんだかむず痒い。



「お嬢様、こちらにお入れください」


使用人が、大きな籠を持ってきてくれた。



「ありがとう」


花が傷つかないよう、ゆっくりと籠に移していった。



「ステファン、どうぞ」


籠の中から何本かリリィの花を拾い、一本を家令の胸元に挿した。



「お嬢様…ありがとうございます」

ステファンは、嬉しそうに目を細めた。



「アンも、はい」



「えっ、私もですか?」



「もちろん」

リリアンヌは、籠を持ってきた使用人の前掛けにも花を挿した。



「ありがとうございます…お嬢様」



「こちらこそ、いつも助かっています」


リリアンヌは笑顔で頷くと、手に一本花を握ったまま、その場を後にした。



「…そういえばキリは、今日帰ってきたんだよね?」


二人で階段を上がりながら、はたと気付いた。



「帰ってきたばかりなのに、ずっと付き合わせちゃったね」


いまさらながら、申し訳なかった。



「君が元気そうで、安心した」



「えへ…ありがとう」


これだけ遊んできても、まだ高揚感は残っている。


とっても元気だ。



キリの部屋がある階で、二人は足を止めた。



「キリ…三年前は、本当にありがとう」


まだ、ちゃんとお礼言えてなかった。



「…礼を言うのは、私の方だ」

キリは静かに首を振った。



「ううん。キリがいなかったら、私は砦の外まで吹き飛ばされていた」


本当に…たくさんの人に助けてもらった。



「それから、戻ってきてくれてありがとう」


リリアンヌは手を伸ばし、キリの手を握った。



「キリが帰ってきてくれて、嬉しい」



「……」

キリは、じっと手を見下ろしていた。



「また、よろしくね」


ぎゅっと手を握り、離した。



「…ありがとう」


微かな声が、耳をかすめた。



「…え?」



「……」

キリは、すぐに背を向けて部屋の方へ去っていった。



「……」

リリアンヌは小さく首を傾げながら、ゆっくりと階段を上がった。



今のは、確実に。


見間違いではない。



キリが、微笑んでいた。



「お嬢様、お帰りなさい」


自室へと戻ると、すぐに侍女がやってきた。



「…あら?お嬢様、とても嬉しそうな顔をされてますね」



「…分かる?」



「よほど、お祭りが楽しかったのですね」



「うん、とても楽しかったの」


リリアンヌは答えながら、ニアの前掛けにリリィの花を挿した。



「えっ」



「ニアにも、お裾分け」



「お嬢様ぁ…ありがとうございます」


ニアの顔が、くしゃりと泣いてしまいそうに崩れた。



「うちのお嬢様は、何度使用人たちを泣かせれば気が済むのでしょう」



「えっ?泣かせてしまったの?」



「お嬢様が倒れて帰ってきた時は、みんな泣いてましたよぉ」



「…心配かけて、ごめんなさい」



「それが起きたと思ったら、今度は、にこにこ笑って駆け回ってるんですもの」



「駆け回ってる…ね、うん」


さっきも祭りで、だいぶ駆け回ってきた。



「まるで、昔のお嬢様に戻られたようです」



「ん?昔って?」



「お忘れですか?お嬢様が七歳になる頃までは、同じように笑って屋敷中を駆け回っていたじゃないですか」

ニアが懐かしそうに、ふふっと笑った。



「そっか…」


そこまで変わったつもりはなかったけれど…


いろいろなことに気を取られ、自然と笑みも減っていたのだろう。



「…ごめんね。これからも駆け回っていいかな?」


でも、もう変わると決めた。


本来の私でいると、決めた。



「もちろんですよ!」

ニアは、自慢げに胸を張った。



「お嬢様はどんなことをされていても、エラドリオール家の宝なのですから」



「ありがとう…」

リリアンヌは、ふふっと照れたように笑った。



「さ、お嬢様。お着替えしますよ」



「うん」



「あら?出かける前と髪紐が違いますね」



「お祭りで貰ったの。とても綺麗でしょう?」



「ええ、丁寧に作られてます。まるで、お嬢様のために作られたものみたいです」



「えへへ…そうなんだって」

リリアンヌは、嬉しそうにはにかんだ。



「あれ、本当にそうなのですか?」



「うん。それにね、肉串やパンとか、たくさん貰っちゃった」



「それは良かったですね~」



「あのね…みんな、優しかったの」


勇気を出して、顔を隠さずに行ってみて良かった。



本当は、少しだけ怖かった。


また…探るような目を向けられるのかなって思っていた。



けれど、全然違った。


もっとさっぱりしていて…みんな、よく笑っていた。



それを知ることができて、良かった。



「それじゃあお嬢様、奥様のところへ行きましょう」


ニアの開けた扉をくぐり、階段を下りていく。



「…あ」


リリアンヌは、町が見下ろせる窓の前で足を止めた。


すっかり夜だというのに、町はまだ灯りに照らされて明るい。



この町は、本当に良いところだ。


活気もあるし、何よりみんな明るい。



きっと、伯父上のおかげだ。


レックス・セスランディアは、残酷王なんかじゃない。


民がどうすれば盛り上がるか、よく考えている。




『お前が自由に動けば、勝手に物語に真実味が出る』


『もっと、名を売れ』




名を売りたいとは思わないけれど、


なんとなく、レックスの言いたいことは分かった気がした。



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