初めての祭り④
リリアンヌ視点
「…いや、待て待て」
間を置いて、サムがはっと口を開いた。
「簡単に言うけどな?オレたちは、貧民区出身だ」
「それだと、お店が出せないの?」
「…そんなことはないけど」
「もう、決まった人たちから仕事は貰っているのでしょう?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、出せるじゃない」
リリアンヌは、再びにこっと笑った。
「……」
サムは眉を寄せ、黙り込んでしまった。
「えっ、オレたちが店持てるの?」
ワンスが、やっと前のように話しかけてくれた。
「ワンスも、仕事をしているの?」
「もちろんだよ。ヌイとオレも、今年で成人を迎えたし」
「そっか。それなら、よりお店を持たなきゃね」
「…お前な」
「店を持ったら、チビたちの拠点にもできるじゃん」
サムが何か言う前に、ヌイが素早く口を挟んだ。
「いちいちここまで来て仕事の確認すんの、いい加減、面倒だし」
「…そうだけど」
「サムは、何が不安なの?」
リリアンヌは、不思議そうに首を傾げた。
「何もかもだよ!」
即座に答えが返ってきた。
「お前からそんな大金、受け取れねぇよ。返せるかも分からねぇし」
「返す必要なんて、ない」
「…お前の金じゃないんだろ?それならお前は、親にまず許可を貰う必要がある」
「ううん。ええと…討伐の件で、褒賞金を貰ったの」
「…!」
サムは、はっと言葉を止めた。
「そのお金を使ってくれると嬉しいな」
初討伐の時に貰った褒賞金も、まだたくさん残っている。
今回の分も含めたら、私ひとりでは一生かけても使えないだろう。
それなら、誰かの為になることに使ってほしい。
「久々なのに、随分と小難しい話をしてるな」
「わっ」
突然、頭の上から声が降ってきた。
「あっ、ギタン…!」
リリアンヌは、満面の笑みを真上に向けた。
「久しぶり…!元気だった?」
「お前のおかげでな」
ギタンは長椅子の後ろから回り込むと、隣に腰を下ろした。
「店、持てばいいじゃねぇか。王族がせっかく出資してくれるって言ってんだ」
「…店を出すなら、保証人がいる」
サムがぼそりと答えた。
「それも、私がやる」
リリアンヌは身を乗り出して手を上げた。
「王族でも、成人前は無理だ」
ギタンがすぐに指摘した。
「あっ…」
それは、そうだ。
「…じゃあ、ギタンなら?」
「俺も無理だ。元騎士ってだけで、今は何の身分もねぇ」
「むぅ…」
「私ならどうだ」
「えっ」
意外な立候補者に、リリアンヌは勢いよく隣を見上げた。
「キリが、保証人になってくれるの?」
「別に構わない」
キリは、真顔のまま頷いた。
「えっ!キリが保証人!?」
「えーっ!エルフが保証人の店かよ!」
「最高じゃん!嬉しい!」
サムとヌイとワンスが、一気に興奮した。
「……」
「あっ…ごめん、不貞腐れんなよ」
小さく頬を膨らませるリリアンヌに、サムが苦笑を浮かべた。
「…ううん。私が出資者で、キリが保証人。それなら問題ないでしょう?」
キリだって身分があるかどうかと言われたら、分からないけれど。
それでも保証人としてエルフが来たら、きっと許可が出るだろう。
「…オレが、驚かせる予定だったんだけどな」
「諦めろ」
サムとギタンが、素早く囁き合った。
「ね、サム。お店って、どうやって出すの?」
二人のやり取りが聞こえなかったリリアンヌは、興味津々に尋ねた。
「まずは、職業組合に話を聞きに行くかな」
「それも組合なんだね」
「どうすればいいか、聞いてくる」
「うん、分かった」
サムが、お店を出す日が来るかもしれない。
なんだか、自分のことのように嬉しい。
店の話でひとしきり盛り上がった頃、
ふいに町の方から、わっと大歓声が風に乗って届いた。
「すごいね…ここまで聞こえるんだ」
賑やかな音楽まで聞こえている。
「締めの踊りだよ。今日は、随分早いな」
サムがねじりパンを頬張りながら答えた。
「締めの踊りって?」
「それぞれの広場で、みんなで集まって踊るんだよ。いつも、祭りの終わりはそうだ」
「へぇ…!」
「今行けば、間に合うかもな」
「じゃあ、そろそろ戻ろうかな」
リリアンヌは椅子から立ち上がると、ギタンの前へ歩み寄った。
「あ?」
「ギタン。約束」
両手を伸ばし、にっこりと微笑んだ。
「……」
ギタンは何も言わず、じっとリリアンヌを見上げた。
「…約束?」
サムが不思議そうに首を傾げた。
「リリィ、何してんの?」
「どうしたの~?」
子供たちも会話を止め、手を広げたままのリリアンヌへ目を向けた。
「…これは、俺への戒めだ」
ギタンは、諦めたように口を開いた。
「死んでいった霊拝師たちに申し訳が立たねぇ。…そう思ってたんだがな」
小さく溜息を漏らすと、肘から先のない左腕に視線を落とした。
しばらく見つめ――やがて、シルヴィアへ顔を向けた。
シルヴィアは穏やかに微笑み、静かに頷いた。
「…ふふっ」
何も言わなくても、二人は分かり合っている。
どれだけ長い時間を、一緒に歩いてきたのだろう。
どんな夫婦にも負けないくらい…二人は、家族だ。
「…おい、笑ってんじゃねぇ」
ふいに、ギタンはリリアンヌへ顔を向けた。
「…頼めるか?」
「もちろん…!」
差し出された左腕を、両手で握った。
その瞬間――
二人は、優しい白い光に包まれた。
「わぁぁ…!」
「すごーい!」
「きれい…」
溢れる光に、子供たちが歓声を上げた。
「…本当に、白のちから使えんのかよ」
「いや…オレら、何年も前から気付いてたじゃん」
「まあ…そうだけど」
ヌイとワンスが、素早く囁き合った。
「うわぁ、リリィの光だ…」
「本当に、リリィってばすごいねぇ!」
シルヴィアを挟むメルとカヤが、嬉しそうに言った。
辺りの光が、ゆっくりと和らいだ。
「……」
ギタンは、じっと左腕を見下ろしていた。
その腕は――肘から先まで、何事もなかったかのように繋がっていた。
「どう、ギタン?」
「…動く」
「あはっ…うん、そうだね」
しっかり、指先まで動くようだ。
「…ギタンとの約束があったから、またここに帰ってこられたの」
リリアンヌは、ゆっくりと目を細めた。
「ギタン、本当にありがとう」
やっと…恩人にひとつ、恩返しができた。
「……」
ギタンは何も言わず立ち上がり――
「わ」
リリアンヌを、両手で抱きしめた。
「…やりたいことを、やることに決めたんだな?」
「…うん」
「俺も、お前の味方だ」
「分かってる。ありがとう」
ギタンの手は、どちらも温かかった。
「ずるいーっ!オレも!」
メルが、すぐに駆け寄ってきた。
「リリィ、オレとももう一回ぎゅってして!」
「ええ?」
さっきもしたばかりなのに。
おかしくて、笑ってしまった。
「私もー!」
「僕もぎゅーするー!」
メルを筆頭にして、次々と子供たちがリリアンヌの周りに集まった。
全員と抱き合い終える頃には、夕方になっていた。




