表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十一章/帰ってきた少女
337/406

初めての祭り③

リリアンヌ視点



キリは、できる限り人の少ない道を選んでくれたようだった。


おかげでパン屋から貧民区まで、再び騒ぎもなく向かうことができた。



三年前から、貧民区の雰囲気が変わった気がする。


通りに寝そべっている人は、ほとんどいない。


じめじめした地面は相変わらずだったけれど、ひどかった悪臭はかなり薄れていた。



貧民区から森を通り、薬療院に辿り着いた。


とても静かだ。


みんな、祭りに参加しているのかもしれない。



「シルヴィア、いるかな」


リリアンヌは当たり前のように門を開け、薬療院の扉に手を伸ばした。



その扉が――バンッと開け放たれた。



「わ…っ!」


慌てて扉から退いた。



「お前…っ!」


「あっ、サム…!」


扉を開けたのは、よく見知った友人だった。



「わぁっ…大きくなってる…!」


サムは、見違えるほど大人びていた。


背も伸びて、体つきもしっかりしている。


後ろでひとつに結んでいる髪は伸び、もう上向きに跳ねてはいなかった。



「サム、久しぶり…!元気だった?」


自然と、笑顔がこぼれた。



「…っ」


サムは何も言わず、リリアンヌの背を引き寄せた。



「わっ」


そのまま、強く抱きしめられた。



「…良かった」


サムの声が、微かに震えている。



「本当に、また会えた…っ」



「…心配かけて、ごめんね」


包みから片手を離し、大きくなった背中をぽんぽんと優しく叩いた。



「あーーっ!兄ちゃん、ずるい!」


サムの後ろから、別の声が聞こえた。



「メル…!」


「リリィ~!」


サムと体を離すと、今度はメルが飛び込んできた。



「大きくなったね!」


抱き合ったまま、メルの顔を覗き込んだ。


二つ違いの十一歳なのに、私とほとんど背丈が変わらない。



「今日、ここにリリィが来ると思ったんだ!」


可愛らしい笑顔は、そのままだ。



「良かった、本当に来てくれた!」


メルは嬉しそうに、ぎゅっと抱きついた。



「お前…一応、相手は王族だぞ。その辺にしておけ」

即座にサムがメルを引き離した。



「みんなは?お祭りに行っているのかな?」



「ああ。シルヴィアたちと、ゆっくり帰ってきてると思う」


「さっきのお披露目会、見たよ~!」


サムとメルが、それぞれ答えた。



「ん?お披露目会?」



「違うの?リリィのお披露目会」



「う~ん…あれは、何だろう?」


目覚めた報告の挨拶は、何と呼べばいいのだろう。



「リリィが大正門の上から降りた時に、オレも向かおうとしたんだけどさ。兄ちゃんに止められちゃった」



「当たり前だろ」



「だって、キリも見えたから!」



「その節は、お騒がせしました…」

リリアンヌは、気まずそうに苦笑いを浮かべた。



「ううん!すごい格好良かったよ!」

メルが嬉しそうに言った。



「もう、隠さないんだな?」



「うん。変わるって、決めたから」


サムの言葉に、リリアンヌは力強く頷いてみせた。



「そうか」

サムは優しく微笑むと、頭をぽんと撫でた。



「…やべっ、またやっちまった」

すぐに、その手を引いた。



「駄目なの?」



「…お前が言うか」



「私は、嬉しいけど」



「本当~?」


メルが、リリアンヌの腕に絡みついた。


可愛くて、胸がきゅんと鳴った。



そのままみんなで、孤児院の裏手まで向かった。


変わらない穏やかな庭を、ゆっくり歩いていく。



「菜園の様子は、どう?」



「どうも何も。相変わらず、よく育つよ」


サムは、肩をすくめてリリアンヌに答えた。



「おかげで、オレも毎日ここに来てる」



「え!もう孤児院に住んでいないの?」



「一年以上前に出たよ」



「あ…そっか」


サムは、もう十七歳だ。


とっくに成人も迎えている。



「今、何しているの?」



「まあ、落ち着けって」


サムは苦笑しながら、長椅子の前で足を止めた。



「まずは、座れよ。キリも」



「ありがとう」


いつもの長椅子に、キリと二人で腰掛けた。



「リリィ、その包みは何?」

メルが、地面に座りながら尋ねた。



「あ…これ、ねじりパンを貰ったの。みんなで食べよう?」


ずっと抱えたままだった包みを、どうぞと差し出した。



「おっ、メリーママの店のじゃねぇか」


サムは嬉しそうに受け取り、すぐに包みを開いた。



「メリーママ?」



「パン屋の名前」



「あの女店主さんが、メリーさんって言うからだね」


圧倒されて、店の名前まで聞き忘れてしまった。



「そうそう」


サムは答えながら、ねじりパンを頬張った。



「オレ、あの近くに住んでるから」



「へぇ、そうなの…!ここからそんなに遠くないね」



「オレも、一緒に住んでるんだ」


メルが包みに手を伸ばし、ねじりパンをぱくっと咥えた。



「そっか。もう、二人とも働いているんだね」



「あーっ!リリィがいるー!」



「ん?」


別のところから上がった声に、きょろりと辺りを見渡した。



「こっち、こっち~!」



「あっ、カヤ…!久しぶり」

リリアンヌは、元気よく走ってくる少女に向かって手を振った。



「リリィ~~!すっごい素敵だったよ!」


カヤは勢いよく隣に座ると、そのまま腕にぎゅっと抱きついた。



「眠ってたのに、体は成長したの?てっきり私、リリィの歳を抜かしちゃったと思ったの!」



「え?…あはっ!寝てても、ちゃんと十三歳になったよ」


なんて可愛い勘違いだろう。



「カヤ、お姉さんになったね」


長い髪を、今は頭のてっぺんでお団子にしている。


お団子の結び目にリリィの花を挿していて、可愛らしい。



「だって、もうすぐ十二歳だもん」



「ふふっ…そうだね」



「もう、ここにも住んでないんだ」



「えっ、カヤも?」



「うん。サムたちと一緒に暮らしてるの」



「あと、ヌイとワンスも一緒」

サムが補足するように言った。



「へぇ…!」


本当に、家族のようだ。


賑やかで、楽しそう。



「あ、噂をすれば、来た来た。お~い!」


カヤが、今駆けてきた方へ顔を向けた。



「あ…!ヌイ、ワンス!久しぶり…!」

リリアンヌは、カヤと一緒に手を振った。



「う、うわ…っ」


「ええっ…!」


ヌイとワンスが、ぎくっと足を止めた。


前もそうだったなと、三年前のことを思い出した。



「わっ、リリィだ~!」


「さっき、門の上にいた人?」


「どうしておひめさまが、ここにいるの?」


さらにその後ろから、子供たちがぞろぞろとやってきた。



顔馴染みの子たちに、新しい子もいる。


みんな、服や頭に白い花を身につけていた。



「エルフの人もいるー」


「キリって言うんだって」


「精霊さんだ」


子供たちは立ち尽くすヌイとワンスの脇を通り過ぎ、長椅子の周りを囲んだ。


心が和む光景だ。



「あら、リリィ。久しぶりね」


シルヴィアが、子供たちの後ろからゆっくり歩いてきた。


その手には、大きな籠を抱えている。



「あっ、シルヴィア、持つよ」


「貸して」


ヌイとワンスが、はっと受け取った。



「シルヴィア、お邪魔しています」



「リリィ、あなたのお祭りでたくさんお菓子を買ってきたのよ。お茶にしましょう」



「あは…!うん、ありがとう」


三年ぶりのシルヴィアは、前と何も変わらなかった。



みんなで輪になって、賑やかなお茶会が始まった。



「ね、サム。何の仕事をしているの?」

リリアンヌは、サムの方へ身を乗り出した。



「…便利屋みたいなこと」

サムが、ごくんとお茶を飲み込んで答えた。



「え?便利屋?」


前に聞いた時は、そんな職業はなかったはずだ。



「前やっていた日雇いを、個人でやってるだけだけどな」



「ええと…庭掃除とか、煙突掃除とか?」



「掃除や、代理の買い物が多いかな」



「サム個人のところに、依頼が来るの?」



「正確には、仕事をくれって毎日町中を回ってる」



「えっ…!大変じゃない」



「最近は決まった人からの依頼が多いから、そこまで大変じゃねぇよ」



「はぁ…すごい」


思わず、感嘆の溜息が漏れた。



「やっと、安定してきたな。チビどもにも仕事が振れるくらい」

サムは、へへっと照れくさそうに笑った。



「サム…偉いよ」

リリアンヌは手を伸ばし、よしよしと頭を撫でた。



「…おい、さっきの仕返しか?」



「えっ?そんなつもりはなかったけど」


なぜか睨まれてしまった。



「あっ!サムが頭なでられてる~!」


「お兄ちゃんなのに、変なのー!」


子供たちが、二人の様子を見ておかしそうに笑った。



「…もう、いいだろ」

サムは、ぱしっとリリアンヌの手を優しく払った。



「お店を出しているの?」



「それは、まだ無理。…いつかは、出したいと思ってるけど」



「じゃあ、出そうよ!」


とっても良い名案を思い付いた。



「…は?」



「私が、出資します。サムの店、出そう?」


リリアンヌは、にっこりと笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ