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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十一章/帰ってきた少女
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初めての祭り②

リリアンヌ視点



大きな噴水の周りに、人だかりができている。


その中心で、誰かが歌っているようだ。



リリアンヌはそっと聴衆の間をすり抜け、噴水の方へ近づいた。



吟遊詩人だろうか。


顔が隠れるほど大きな帽子をかぶった男性が噴水の縁に腰掛け、丸い弦楽器を奏でている。


ぽろん、ぽろろん、と綺麗な音が響いていた。



――精霊の申し子が 目を覚ます

三年を経て 帰り来た


精霊の申し子は 夢を見た

そこに現れしは 精霊王



「…え」


その歌い出しに、思わず足を止めた。



――精霊の申し子が 言葉を紡ぐ

巨人の化け物の正体を

我らを襲うものの正体を


精霊の申し子が 真実を語る

セスランディアの 歴史の闇を

精霊たちの 悲しい過去を



「う…うう…」


恥ずかしい。


誰もが、吟遊詩人の歌に耳を傾けている。


こうして、公表された内容はすぐに広まっていくのか。



――精霊王が 使命を告げる

これが 最後の機会だ

精霊を 見つけ出せと


精霊の申し子が 手を挙げる

必ず精霊を 見つけ出す

必ずこの世を 変えてみせる



それにしても…つい先ほど公表されたばかりなのに、もう歌にしてしまうなんて。


吟遊詩人って、すごい。



――精霊の申し子が 歩み出す

力をつけた 最強の戦士たちと共に


見よ あの少女を

新たな物語が 幕を開ける


精霊の申し子は 歩みを止めぬ

まだその旅は 始まったばかり



ぽろろん…と音が途切れると同時に、大喝采が起こった。



「いいぞー!」


「もう一回、歌ってくれ!」


人々は、吟遊詩人の足元に向かって硬貨を投げ入れた。



吟遊詩人は立ち上がると、劇役者のようにゆったりとお辞儀した。


お付きのような少年が、投げられた硬貨を拾っている。


その子もまた、お揃いの大きな帽子をかぶっていた。



吟遊詩人は、ふと顔を上げ――


「…!なんと、そこに本物がいらっしゃる!」



「え」


よく響く声に、一瞬で聴衆の視線がリリアンヌに向いた。


しんと、広場が静まり返った。



「リリアンヌ殿下…!」


吟遊詩人は、大袈裟に両手を広げた。



「私の歌は、いかがでしたでしょうか」



「す、素敵な歌を、ありがとう…」


リリアンヌの消え入りそうな声は、静かな場でよく聞こえた。



「…まぁ、本物だっ!」


「ひええ…!なんで、こんなところに」


「さっき、来ると言っていた」


「本当に、エルフがいるぞっ!」


噴水の周りが、一気に大騒ぎになった。



「リリアンヌ殿下…!お会いできて光栄です」


吟遊詩人の男は人垣を掻き分け、颯爽と近くまでやってきた。



旅人のような格好をしている。


他領の人か、それとも異国から来た者なのだろうか。


帽子の下からちらりと見える顔が、美しいということだけは分かった。



「……」


キリは、そっとリリアンヌを背に隠した。



「…おや、エルフ様には嫌われてしまいましたかね」


吟遊詩人は薄く微笑むと、キリの前で足を止めた。



「リリアンヌ殿下…私は、旅の吟遊詩人ラファエルと申します」


その場で、先ほどと同じように大仰なお辞儀をした。



「あなたにお会いできて、心から嬉しい。興奮して、胸が弾けそうだ」



「…ラファエル。とても綺麗な歌でした」


リリアンヌは、キリの後ろから慎重に返した。


まるで、貴族のような返しをする人だ。



「大変、光栄です」

ラファエルが、にこっと笑みを浮かべた。



「どうです、お傍でもう一曲――」



「リリアンヌ、行こう」

キリは、ぱっとリリアンヌの手を取った。



「…残念だけど、私たちは行きます」

リリアンヌは手を引かれながら、吟遊詩人に申し訳なさそうに言った。



「それは、残念…!」

ラファエルは、悲しそうな声で言った。



「…また、お会いしましょう。リリアンヌ殿下」


最後に、ふっと意味ありげに微笑んだ。



「姫様、精霊王は本当にいらっしゃったんで!?」


「リリアンヌ様、精霊をよく見せて」


聴衆が周りを囲み、あっという間にラファエルの姿が見えなくなった。



「巨人の化け物の話は、本当かい!?」


「白のちからを、使えるんですか!?」


興奮しているのか、どんどん人が押し寄せてきている。



「ここから抜けた方がいい」

キリが耳元で囁いた。



「…うん、そうだね」


このままだと、怪我人が出てしまいそうだった。



リリアンヌは、キリと同時にその場で大きく跳躍した。



「あっ!」


「ええっ!」


人々は、一斉に顔を上に向けた。



「ごめんなさい!また、ゆっくり話しましょう…!」


二人は屋根の上へ着地すると、その場から離れていった。



そのまま屋根をいくつか飛び越え、何本か先の通りに着地した。


ここは確か、北の商店通りだ。


先ほどの広場よりは人が少ないけれど、ここも多くの人が行き交っている。



「さすがに、無謀だったかな…」


正体を隠して町を歩くのは、もうやめようと元から考えていた。


でもせめて、祭りの日くらいは顔を隠すべきだったかもしれない。



「あれは、あの男のちからだ」



「…えっ?」

リリアンヌは、目を丸くしてキリを見上げた。



「あの男が、ちからで周りを興奮させていた」



「そんなちからがあるの?」


男とは、吟遊詩人のことだろう。


まったく気付かなかった。



「何のちからかは分からない」



「……」


興奮させていたのなら、操る類のちからではないだろうか。


そうだとしたら…


確か、罪に問われるのではなかったか。



「あらっ、姫さんだよっ!」


「本当だっ!」


「リリアンヌ様、来て来て!」


店の前に立つ女性陣に呼ばれ、話は中断になった。



「こんにちは」


リリアンヌは、挨拶をしながら店へ駆け寄った。



「お店の飾り、とても綺麗ね」


呼ばれた店は、パン屋だった。


入り口の周りには、白いリリィの花がたくさん飾られている。



「でしょう!?今日のために準備したのよ~」


「リリアンヌ様、祭り楽しんでます?」


「エルフ、初めて見たわぁ~!」


三人の年配女性が、一気に言った。



「ええ、とっても!すごく楽しい」


心からの笑みがこぼれた。



「はぁ~…素敵な笑顔だわ」


「私らも、リリアンヌ様のおかげで楽しいの」


「二人並べて、絵で描いてほしいわ」


また、思い思いに口を開いた。



「姫さん、ちょっと待っててね!」


女性のひとりが、ばたばたと店の奥へ走っていった。



「…?」



「リリアンヌ様は、空を飛べるんですか?」



「へっ?」


リリアンヌは店の奥へ向けていた視線を戻し、きょとんと女性を見上げた。



「さっき、大正門の上からひらひら飛んでたから」



「い、いいえ…飛ぶことはできないわ。人より高く跳ねて、高いところから着地することができるだけ」


随分と脚色されている。



「はぁ、王族はやっぱり特別なんですねぇ」


「まさか、私らみたいな店んとこに来てくださるとはねぇ!」


「あんたが呼んどいて、何言ってんの!」


女性たちが、あははっと楽しそうに笑った。



「はいっ、姫さんお待たせ!」


「!」


奥に走っていった女性が、大きな包みをリリアンヌに手渡した。



「これは、なあに?」



「この店で焼いてる、蜜がけのねじりパン。良かったら、お城で食べて」



「あ、じゃあ、お代を」



「いいから、いいから!」



「こんなにたくさん、駄目…!」


どう見ても、十本以上は入っている。



「メリー、あんたねぇ…リリアンヌ様は、お城でもっといいもんを食べてるに決まってんでしょ」


「どうすんだい、こんな山ほど渡して」


女性たちが、呆れた目をメリーへ向けた。



「いいえ…ねじりパンは、大好き」


リリアンヌは、嬉しそうに微笑んだ。



「だけど、お代を払わないわけにはいかないです」


どうしてみんな、無償で渡そうとするのだろう。



「私のわがままだと思って、受け取っておくれ!」



「ええ?わがまま?」



「姫さんがうちのを食べたって、周りに自慢できるでしょ?」

メリーは、ぱちっと片目を瞑ってみせた。



「…本当にいいの?」



「いいの、いいの!」


なぜか、メリーとは別の女性が答えた。



「ありがとう…!友人と食べさせていただきます」


ちょうどいい手土産ができた。



「姫さん、また来てねぇ!」


「エルフ様も、またね」


「お祭り、楽しんでください~!」



「今度は、買いに来ます…!」


三人の女性に手を振り、店を後にした。



「…ね、キリ。このまま、薬療院に行ってもいいかな?」


ここから、距離もそんなに遠くない。



「こっちだ」


キリは、すぐに小路へ曲がっていった。



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