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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十一章/帰ってきた少女
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初めての祭り①

リリアンヌ視点



町へ行くのに、大正門を使うことに決めた。



マントは、あえて羽織らなかった。


キリも姿を隠すことなく、頭巾を下ろしたまま隣に並んだ。



大正門から大広場へ出た瞬間、わっと歓声が上がった。



「本当にいらっしゃったぞ!」


「リリアンヌ様ぁ!」


「さっきの、すごかったよ~!」


「あーっ!精霊様だぁ」


一気に周りに人が集まり、身動きが取れなくなってしまった。



「あ、ありがとう…」


呆気にとられながら、一歩踏み出した。


リリアンヌたちが前に進むと、周りの人々が道を空けた。



今日は、王道にも屋台が並んでいる。


馬車も通れないくらい、人で溢れていた。



「リリアンヌ様っ!ぜひ、うちに寄って」


「こっちも来て~!」


屋台の方から、店主たちが手を振っている。



「ええと…お祭りって、何をやっているのかな?」


手を振り返しながら、誰にともなく尋ねた。



「いっぱい、人が集まるの!」


「屋台が、たくさん出てるよ!」


子供たちが、嬉しそうに教えてくれた。



「白い花を、身につけるんだよ~!」



「白い花?」



「リリアンヌ様と精霊様を表す花なのさ」

子供の近くにいた老婆が答えた。



「ほら、これ。リリィの花」



「あ…」


見渡すかぎり、誰もが襟元や帽子に白い花を挿している。


私の名前の由来でもあるリリィの花だ。



「リリアンヌ様の誕生祭には、必ず身につけるのさ」



「えっ、そうだったの?」


そんなの、初耳だ。


自分の誕生日に祭りがあることすら知らなかった。



「姫様、どうぞ!」


籠にリリィの花を入れた少女が、一本をリリアンヌに差し出した。



「ありがとう」

リリアンヌは、笑顔で受け取った。



「このお花は、売り物?」



「いいえ、お城から配られたものです!」

少女が、元気いっぱいに答えた。



「へぇぇ…」


こんなこともしているなんて、知らなかった。



「…ね、もう一本貰ってもいいかな?」



「はい、どうぞ!」



「ありがとう」


リリアンヌはもう一本花を受け取ると、キリのマントの留め具に挿した。



「私は、ここ」


後ろでまとめた髪に、花を挿し込んだ。


キリがすぐに手を伸ばし、花の位置を直してくれた。



「ありがとう、キリ」



「…はぁぁ、本当に絵みたいだわ」


「綺麗…」


「…ところで、なんでエルフがいるんだ?」


二人の様子を見ていた周りが、口々に呟いた。



「私の、大切な友人なの」


リリアンヌは、にっこり笑って答えた。



「…友人?」


「そりゃ、リリアンヌ様くらいになると、エルフの友人もいるって」


「お似合いだねぇ~」


囁く人たちの間を抜け、通りを進んでいった。


ようやく、屋台が並ぶ手前まで辿り着いた。



「リリアンヌ様、どうぞ!」


女店主が串を二本、屋台の中から差し出した。



「ありがとう。ええと…キリ、お金を」



「お代なんて、いらないですよっ!」

女店主が、けらけらと笑いながら言った。



「そんなわけには、いかないでしょう」



「リリアンヌ様が主役の日なんですから!ほら、冷めちゃいますよ」



「…ありがとう」


ありがたく、差し出された串を受け取った。



「牛の串焼き?」



「そうですっ!ぴりっと辛い味付けです」



「いただきます」


リリアンヌはキリと並んで、串焼きをぱくっと食べた。



「…とっても美味しい!」


やっぱり、焼き立ての肉は美味しい。



「…すごい、食べたよ!」


「しかも、美味そうに食べるな」


「見てみて、エルフさんも食べてるよ」


なぜか、辺りからどっと笑いが起こった。



「ほら、宣伝になるっ!」


女店主も、嬉しそうだった。



「姫さん!パリッと美味しいよ~!」


再び通りを進むと、すぐにまた別の屋台から声を掛けられた。



「う…美味しそう」


大きなソーセージが、目の前で香ばしく焼かれている。



「エルフさんなら、たくさん食えるだろ?二人で一本!食べな」


ずいっと、ソーセージの刺さった串を渡された。



「おいくらですか?」



「お代はいらんって!」


また、おかしそうに笑われた。



「ありがとう…」


本当にいいのだろうか。


そう思いつつも、美味しそうなソーセージ串を受け取った。



「キリ、一緒に食べてもいい?」


キリが、無言で頷いた。



「じゃあ、お先」


遠慮せず、思いきりかぶりついた。



おお~、と辺りから歓声が上がった。


そんなに、王族が食べる姿が珍しいのだろうか。



「!店主さん、とっても美味しい…!」


口の中でぱりっと弾けて、肉汁が溢れた。



「だろ~?」

店主が、嬉しそうに笑った。



「はい、キリ」


リリアンヌはもぐもぐと口を押さえながら、食べかけの串をキリに傾けた。


キリは受け取らず、リリアンヌが持ったままぱくりと食べた。



「え」


予想外の行動に、思わず固まった。



ひゃぁ~っと歓声が上がった。


キリは周りの様子を気にすることなく、口の端についた油を拭っていた。



「…ふふっ」


驚いたけれど、なんだか嬉しい。


キリも、少しは楽しんでくれているのだろうか。



「店主さん、ごちそうさまでした」


ソーセージ串の店主に礼を言い、さらに通りを進んでいった。



「リリアンヌさまぁ!」


「どうです、甘いものは!」


屋台から離れ、道の中央を歩くようにしたら、串を渡されることはなくなった。


それでも、ずっと屋台から声が飛んできている。



「姫さん!喉乾いたでしょう!果汁でもどうぞ」



「!」


リリアンヌは、引き寄せられるように果汁を売る屋台へ近づいた。


丸い果実の先端に切り込みが入り、細い管が差し込まれている。



「この細い管は、何でできているの?」



「大麦の茎ですよ。中が空洞になってるんでさ。だけど…気にするところは、そこですかい?」

店主が、おかしそうに笑った。



「もしかして、椰子の実?」



「おや、姫さん、よくご存じで!港町シュレイデルの名産物、海椰子です」



「港町シュレイデルの…!」


“物語”で出てくる港町の名だ。



「店主さん、二つください」


何か言われる前に、キリから受け取った金を差し出した。



「お代はいらねぇです」



「それは、駄目」



「じゃあ、また来てください」

店主が、にっこり笑って言った。



「いつもは、中央市場で果物屋をやってるんですよ」



「…本当に、いいの?」



「こんな日に、姫さんから金は貰えねぇです」



「…ありがとう」


受け取った実のひとつをキリに渡して、その場で一口飲んだ。



「わ…!濃くて、美味しい」


想像よりもずっと甘い味で、驚いた。



「他にも、各地の名産物を売ってるから。ぜひ、来てください」



「うん、分かった。ありがとう」


店主に手を振り、その場を後にした。



キリと二人、海椰子の果汁を飲みながら、通りをゆっくりと歩いた。


飲食の屋台が並ぶ通りを抜けると、雑貨が売られる屋台や露店が広がる場所に出た。


ここは、大噴水広場だ。



「リリアンヌ様がいらっしゃったぞ!」


「姫様~!こっち、こっち!」


「どうぞ、見ていってください!!」


リリアンヌに気付いた店主たちが、一斉に手を振った。



「すごい…」


リリアンヌは並べられた商品へ目を向けながら、ゆっくりと進んでいった。


いつもの大噴水広場とは、まるで雰囲気が違う。


きらきら光るものが、いつもより多く売られているからだろうか。


それともみんな、白いリリィの花を身につけているからだろうか。



どこか、幻想的な景色だった。



「…可愛い」


髪飾りが並ぶ露店の前で、足を止めた。


台の上に、花の髪飾りやレースの髪紐が並べられている。



「ひぇっ…」



「あ、驚かせてごめんなさい」


私と同じ年くらいの少女が、店番をしている。



「い、いいえっ!よかったら、見ていってください!」


少女は、どうぞ!と両手を前に出した。



「お花の飾りが素敵。とても丁寧に作られているのね」



「あ、はいっ。私が作りました」



「ええっ、すごい」


髪飾りから目を離し、少女にぱっと視線を移した。



「ひゃぁっ…」

少女の肩が、びくりと震えた。



「ええと…ひとつ、買ってもいいかな?」


どうやら、怖がられてしまっている。



「も、もちろんです…」



「この、白いレースでできた髪紐。とっても綺麗」


白いレースに、小さな花の刺繍が細やかに施されている。


すぐに気に入った。



「これ、ください」


「さしあげますっ!」


リリアンヌの声に重ねるように、少女が再び両手を前に差し出した。



「いいえ、買います。こんなに手間がかかったものを、貰うわけにはいかないもの」



「だっ、駄目です!リリアンヌ様からお金を貰ったら、怒られちゃいます…!」


少女は顔を真っ赤にして、今にも泣いてしまいそうだった。



「…それなら、貰えない」

リリアンヌは、悲しそうに眉を下げた。



「リリアンヌ様、貰ってやってください」

隣の露店の女店主が、そっと会話に加わった。



「ええ?でも…」



「それ、リリアンヌ様を想像しながら縫ったんだって」



「え、そうなの?」



「ひゃぁっ…勝手に、ごめんなさい」

少女は恥ずかしそうに顔を隠した。



「それなら…なおさら、お金を払わないと」



「リリアンヌ様に貰っていただけることの方が、お金を受け取るより嬉しいんです。分かってやってください」

女店主が、困ったように笑って言った。



「…本当に?」



「…!」

少女は黙ったまま、何度も頷いた。



「……」


リリアンヌは着けていた髪紐を外し、貰ったばかりの髪紐で結び直した。



「…ね、少し、こっちに顔を出して」


そのまま、小さくなっている少女を手招きした。



「…?」


少女は戸惑いながらも、台の上に身を乗り出した。


リリアンヌは手を伸ばし、少女の肩に垂れた三つ編みに、外したばかりの髪紐を手早く結んだ。



「…ひぇっ!」


気付いた少女が、また固まった。



「取り替えっこ」

リリアンヌは、にっこり笑って言った。



「い、いいんですか…?」



「もちろん。素敵な髪紐を、ありがとう」


じゃあねと手を振り、店を後にした。



「あんた、良かったねぇ~」


「あははっ…泣くな、泣くなっ!」



「…ん?」


聞こえてきた音に気を引かれ、背後の露店からどっと上がった声には気付かなかった。



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