解き放たれた英雄③
とある町民が見たもの
大正門の上に現れた瞬間から――人々は圧倒された。
三年ぶりに見るリリアンヌは、成長し、さらに美しくなっていた。
以前と変わらず肩に精霊を乗せ、真っ白なドレスに身を包んでいる。
身につけている宝飾が輝き、まるで彼女自身が光を放っているようだ。
不安そうな表情はなくなり、その堂々とした姿は、国王の隣に並んでも引けを取らなかった。
彼女を見ていると、国王の世間離れした話が、やけに頭にすんなりと入ってきた。
精霊王オーリアからの啓示。
ああ、彼女なら貰うだろう。
この三年間、様々な噂が王都で流れたが、国王の言葉こそが真実だ。
そうだ。
彼女は、精霊の申し子だ。
その申し子が――突然、大正門の上から舞い降りた。
真っ白なドレスを広げ、音もなく着地した。
あり得ない。
人間が飛び降りて無事な高さではない。
その後を追うように、国で一番有名な騎士も大正門の上から飛び降り、軽々と着地した。
「あっ…アランフォース副団長だ!」
「ええっ!?」
「うそだろ、飛び降りたぞ…っ」
衝撃の光景を目の当たりにした人々は、唖然とすることしかできなかった。
「…っ…」
精霊の申し子は後を追ってきた騎士にも気付かず、そのまま走り出した。
大正門の前を囲う兵たちも、驚きのあまり、止めることもできないようだった。
精霊の申し子が、人で埋め尽くされた大広場を駆けていく。
ある一点だけを見つめ、まっすぐ走り――
「…キリ…っ!」
緑のマントを羽織った男に、飛びついた。
飛びついた勢いで、男の頭のマントが外れ、その姿が露わになった。
「…あ!エルフ!」
「耳が尖ってる!」
「エルフだっ…!エルフがいるぞ!」
一気に、周囲が騒めいた。
「キリ、会いたかった…!」
「…私もだ」
周囲の混乱を一切気にせず、二人は長く抱きしめ合った。
「えるふが、いるの?」
「!」
子供の小さな声に、精霊の申し子が、はっと顔を上げた。
「あ…驚かせて、ごめんなさい」
やっと周囲の状況に気付き、気まずそうな笑みを浮かべている。
「えるふって、なあに?」
また、幼い声が響いた。
子供は、目が見えないようだった。
「…!」
気付いた精霊の申し子は、エルフから離れると、その子供の前に屈んだ。
手を伸ばし――
精霊の申し子と子供が、白い光で包まれた。
「…彼が、エルフ」
優しい声が、そっと落ちた。
「…あっ!」
子供の目が――
「見える!」
ぱちりと、開いた。
「えっ、どういうこと!?」
「何が起きたの?」
周りの者たちは驚き戸惑い、理解が追いつかない。
「…戻りますよ」
「えっ、アランフォース副団長…!」
騒めきが起こる中、国で一番有名な騎士が、精霊の申し子の腕を引いて立たせた。
それと同時に、ゆっくりと大正門が開いた。
「跳ねて戻るのに…」
「駄目です」
精霊の申し子と騎士とエルフが、大正門へ向かっていく。
人々は圧倒され、ただ見つめることしかできない。
「…リリアンヌさま!お祭りに来ないの!?」
その中から、ひと際大きな声が上がった。
二人に挟まれて歩く精霊の申し子が、くるりと振り向いた。
「あとで、必ず行くね…!」
精霊の申し子は手を振り、笑顔で答えた。
その言葉を理解する前に、また別のことが起こった。
開いた大正門から、異彩を放つ男が現れた。
「あっ…ブライアン王太子だ!」
「きゃああっ…格好良いっ…」
あの方は、我が国が誇る王太子だ。
小さく苦笑を浮かべるその顔は、相変わらず美しい。
王太子は精霊の申し子の手を取ると、ゆっくり門の奥へと進んでいった。
大きな門が再び閉じられ――
四人が、門の向こうへ消えていった。
…今のは、一体。
有名な騎士とふたり、高い塔から飛び降り…
聴衆の中から、エルフが現れ…
白い光を放ち、子供の目を治し…
そして、王太子が迎えに来た。
「彼女が、精霊の申し子だ」
戸惑う民たちの頭上から、再び国王の声が響いた。
「リリアンヌ・エラドリオールは、解き放たれた…!存分に知れ!」
国王の言葉は――まるで、楽しんでいるかのようだった。
精霊の申し子、リリアンヌ――
三年ぶりの彼女の登場は、民たちの度肝を抜いた。




