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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十一章/帰ってきた少女
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王と英雄の対談⑤

リリアンヌ視点



結局、公表する内容のほとんどを自力で考えた。



「…できましたね」


リリアンヌは、ふうっと息をついた。



思いつくところから決めていったから、時間がかかってしまった。


テラスの外は、もう暗い。



「お前は嘘をつくのが下手だが、考えるのはうまいな」

レックスは、茶菓子を口に入れながら言い放った。



「…褒め言葉として、受け取っておきます」


思わず、頬を膨らませた。



「それで。もう聞きたいことはないのか」



「あの…私は、いつから大聖堂に入るのでしょうか?」


もう、覚悟はできている。



「お前は、大聖堂に入らない」



「へっ?」


素っ頓狂な声が漏れた。



「当たり前だろ。お前の白のちからは規格外すぎる」



「…ですが、法律で決まっていることです」


白のちからを使えれば必ず大聖堂に入り、霊拝師(オランス)となる。


白の使い手を隠そうとすると、協力者も罰せられる可能性がある。


そう聞いている。



「決まってねぇよ」



「決まって…ないのですか?」

リリアンヌは、きょとんと返した。



「長年、当然とされてきただけだ」



「でも…例外を許すと、不満が出ます」



「出るわけねぇだろ。お前が大聖堂に入ったら、霊拝師のあり方が変わることになる」



「あり方?」



「要は、迷惑だ」



「……」


まっすぐに罵倒されてしまった。



「お前は、精霊を探すんだろ」



「はい」

リリアンヌは、こくんと頷いた。



「大聖堂に入れば、探すことはできない」



「巡礼の時に、探す機会はあります」



「ねぇよ。霊拝師の行動は細かく決められている。自由な時間はない」



「…霊拝師たちは、誰も不満がないのでしょうか」


白のちからを持っていれば、強制的に霊拝師となる。


聖職者となり、引退するまで結婚も転職もできない。


他の人たちと同じ生活は、望めない。



「霊拝師は、自分たちの仕事に誇りを持っている」


レックスは、咎めるように目を細めた。



「間違っても、霊拝師にそんなこと言うなよ」



「…失言でした。ごめんなさい」


前世の価値観を、そのまま当てはめてはいけない。


まだ、私は分かっていない。



「ああ…そうだ、忘れていた」


はたと、レックスが呟いた。



「…?なんですか?」



「お前への褒賞金」



「えっ…褒賞金…?」



「異形の存在を討伐した分だ。明日、屋敷へ送っておく」



「…あれは」



「黙って受け取れ」



「…亡くなった方たちの、遺族への支払いに回すことはできませんか?」


黙っていることは、できない。



「遺族への補償のことを言ってるなら、今回の件に限らず支払っている」



「ザンビア砦の復興に、充てることは」



「お前が気にすることじゃねぇ」



「……」


取り付く島もない。



「お前は、何も背負うな」



「…はい、分かりました」



「それともうひとつ、褒美だ」



「うぇっ…」


もう、十分だ。



「望みをひとつ、なんでも叶えてやる」

レックスは事もなげに言った。



「…?」


いまいち、意味が分からない。



「望みって、何のことですか…?」



「なんでもいい。もっと金が欲しいでも、自分の家が欲しいでもいい」



「…い、いらないです」


エラドリオール邸にある部屋で、十分に満足している。


それに先ほど、この部屋もくれると言ってなかったか。



「何か欲しいものはないのか。異国の珍品でもいい」



「欲しいもの…」


それも、これから父と母にたくさん買ってもらう予定だ。


異国のことは、あまり知らない。



「結婚相手を選んでもいい」



「…ええっ!?」


リリアンヌは、ぎょっと顔を上げた。



「…そ、それは、私が決められることではありません」


王族として、恋愛結婚は望めない。


それくらいは、分かっている。



「今回の褒美の話は、ロデオも知っている。お前が結婚相手を望めば、あいつも納得する」

レックスは表情も変えず、淡々と続けた。



「でも…」


そんなこと…


…望む相手も、いない。



「ブライアンは、格好良くなってただろ?」



「えっ…あ、はい。驚きました…」


素直に、頷いた。



「結婚相手として、どうだ」



「…!」


まだ、その話は生きていたのか。



「…ブライアン様は、従兄妹です」



「従兄妹でも結婚はできる」


即座に反論された。



「そうですが…ブライアン様だって、困ってしまいます」


六歳も離れている従妹に、恋愛感情は湧かないだろう。



「それは、どうだろうな」



「…?」


何がどうなのかは、分からないけれど。



「私は…まだ、十三歳です」


ついこの間までは、十歳だった。



「今はまだ、何も考えられません」



「そうだな。ロデオとも、お前が成人するまではその話をしないと約束した」

レックスはあっさりと引いた。



「それなら、どうする。何を望む」



「…あの、今決めなくてはいけないのですか?」



「お前は無欲かと思いきや、突拍子のないことを望むからな。準備にも時間が要りそうだ」



「あっ…!」


ひとつ、望みがあった。



「デューゼの森へ行くのは、なしだ」


言う前に、却下されてしまった。



「…どうしてですか」


思わず、むくれた声が出た。


なんでも叶えてくれると言ったのに。



「精霊王は、精霊のもとへ訪れることができるようになったと言っていた。

三匹の精霊を連れ帰ったのも、精霊王本人だ」



「それは、私も聞きました。ですが――」



「デューゼの森は、まだ瘴気で覆われている」



「ナナたちに…え?」



「ベルルム砦の話は、したな」



「あ…はい。デューゼの森が望める砦ですね」



「砦まで確認に行かせたが、デューゼの森は相変わらず瘴気で覆われている」



「でも…確かに、デューゼの森は生き返っていました」


オーリアと一緒に過ごしたあの森は、瘴気に覆われていなかった。



「あっ…戻ったのは、一部だとおっしゃっていました」



「お前は、そこへの行き方を知っているのか」



「…いいえ。私は、知りません」



「瘴気がある以上、危険がないとは言いきれない。

お前がいつでも精霊王を呼べるなら、今は自らあの森に近づく必要はないはずだ」



「そう…ですね」


いつでも呼べるというのは、語弊があるけれど。


確かに、今行ったところで何かできるわけではない。



「…あの、望みがありました」



「精霊探しか?」

レックスはすぐに返した。



「はい。精霊を探しに、王都の外へ行きたいです」



「望みも何も、協力しろと言われている」



「!それなら、出かけてもいいのですか?」

リリアンヌの目が、きらりと輝いた。



「どこへ行くつもりだ」



「…まだ、何も考えていません」



「そうだろうな。行くとしてもまず、体力を戻してからにしろ」



「う…はい」


それは、その通りだ。



「ええと…もし行きたい場所が決まったら、どうすればいいのでしょうか」


キリと二人で自由気ままに王都を出るのは、さすがに駄目そうだ。



「行き先が決まったら、まず俺に伝えろ」



「…分かりました」


どうするつもりなのだろう。


王城へ通っていた時のように、順番に国王直属騎士団の護衛がついてきてくれるのだろうか。



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