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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十一章/帰ってきた少女
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英雄の登城①

リリアンヌ視点



療師(メディクス)の指導のもと、離乳食のようなものを食べることから始まった。


少しずつ献立を戻し、二週間ほどでみんなと同じものが食べられるようになった。



脚の力は、なかなか戻らなかった。


杖を使いながら、なんとか一週間で立ち上がれるようになった。



立ち上がれるようになったと同時に、さらさらの髪を取り戻すため動き出した。


庭師に頼んでいろいろな花や実を集めてもらい、何度も試して髪用の香油を作り上げた。


本気になれば、案外どうにかなるものだ。


…作り方は簡単だから、少し大袈裟だけれど。



バッキラの花の実を、細かく砕いて蒸しただけの簡易的な香油だ。


とても良い香りもするし、たった数滴つけるだけで指通りもよくなる。


母や女性の使用人たちも興味津々で、みんなでたくさんバッキラ香油を作った。



そうして二週間が過ぎた頃には、すっかり体が動くようになった。


まだ体は細いけれど、頬だけは少しふっくらしてきた…気がする。



その間に、父からザンビア砦で何が起きたのかを教えてもらった。


なぜ、兵や聖守護騎士団(サークラグラディウス)の騎士たちが襲ってきたのか。



まず、スワハマ大教主とレオ砦長が共謀して謀反を企てた。


精霊を連れている情報が漏れていて、ザンビア砦で奪うつもりだった。



キリと見つけた大木の穴は、やっぱり抜け道だった。


それを使って聖守護騎士団の騎士たちは王都から砦へ向かい、自分たちを待ち構えていた。


睡眠薬を全員に飲ませた後、一気に襲撃する予定だったらしい。



そこに、ヌシカが現れた。


ヌシカは誰彼構わず攻撃し、一度、アランフォースにより倒され――


瘴気に飲み込まれ、巨大な異形の存在になってしまった。


それが、事件の経緯だった。



けれど、私は知っている。


オーリア様から、直接聞いた。



ヌシカが、人族に瘴気を送って操った。


誰を操ったかまでは分からないけど、襲ってきた人たち全員だと思い込んでいた。


その事実は、知られていないのだろうか。


それとも、隠されているのだろうか。



私が倒れた後、みんなの前にオーリア様が現れたことも知らされた。


これ以上精霊を虐げないでほしいということと、私の精霊探しに協力してほしいと話したらしい。


そこで、私が白のちからをオーリア様や精霊たちへ送っていたことも、すべて明かされた。



父に聞いた話は、ここまでだ。


それ以降のことは、まだ何も話せていない。



まだ話し合えていないまま――登城することになった。



「また…随分と、気合が入っているね?」


リリアンヌは、鏡台の前で苦笑いを浮かべた。



「あったり前ですよぉ!三年ぶりの登城なのですから」


ニアは櫛を手に取ると、リリアンヌの髪を素早く梳かしていった。



「皆さんが、お嬢様を心待ちにしています」



「そう…なのかな」


今日は、国王に目覚めたことの報告へ行くと聞いている。


他に誰と会えるかは、分からない。



「それにしても…苦しい」



「それは、我慢してくださいね」



「うぐ…はい」


まるで、祝宴にでも行くような格好だ。


ドレスは肩から袖にかけてふわりと広がり、傷跡が自然に隠れた。


けれど背中が大きく開いていて、髪で隠れていても落ち着かない。



初めてコルセットを着けた。


動きづらくて、もう外したくて仕方ない。


こんなものを着けて社交の場へ出ている令嬢たちを、心から尊敬する。



「本当に、艶やかな髪になりましたね」


ニアは髪の上半分を後ろでまとめると、可愛らしい花の髪飾りで留めた。



「さ、完璧です!行きましょう」



「うん。スノウ、行くよ」



「ホ~」


リリアンヌはスノウを肩に乗せ、自室を後にした。



―――



「リリィ!…ますますアヴェリーンに似てきたな」


屋敷の入り口へ向かうと、父がすでに待っていた。



「本当ですか?」



「ああ、綺麗だ」


ロデオは娘の額にキスすると、自然に腕を差し出した。



「行こうか」



「…はい」


こういうエスコートは、初めてだ。


母の見よう見まねで、父の腕にそっと手を差し込んだ。



「お嬢様、行ってらっしゃいませ」



「ありがとう、ステファン」


家令によって開けられた扉を出て、父と並んでゆっくり前庭を進んでいった。


屋敷から出るのは、かなり久しぶりだ。


門の先で、馬車が待っている。



「馬車に乗るが…大丈夫か?」



「お父様と一緒なら、大丈夫です」


攫われた時のことを、心配してくれているのだろう。


あれから、三年経っている。


それに父と一緒なら、本当に平気な気がする。



エラドリオール家の馬車は、大きく変わっていた。


左右には、大きな窓が設けられている。


室内も白で統一されていて、明るく感じる。



「すごい。外が、よく見えます」

リリアンヌは乗り込むなり、嬉しそうに窓辺へ寄った。



「小さい頃、お前は外を見たがっていたからな」

ロデオは言いながら、正面に座った。



「はい。何度見ていても飽きません」


スノウと一緒に、ゆっくり進む景色を楽しんだ。



エラドリオール邸から王城へ向かう道は、あまり人が歩いていない。


見えるのは、巡回している守衛隊兵たちばかりだ。


兵たちは馬車に気付くと脇に避け、深々と頭を下げた。



いつもカーテンを閉めて通る第一城壁の正門を、今日は開けたまま通過した。


門番の近衛隊兵と、目が合った。


外側からも、こちらがよく見えるのだろう。


小さく手を振ると、近衛隊兵は深く一礼した。



「あの…お父様?」



「なんだ?」



「どうして兵の方たちは頭を下げるのでしょう…?」


前は、私を見つけると敬礼してくれていたはずだ。


頭を下げるようなことは、なかった。



「お前は、国を救った英雄だからな」

ロデオは、平然と答えた。



「……」

リリアンヌは窓の外へ顔を向けたまま、困ったように眉を下げた。



国民へ公表された内容も、聞いた。


スワハマたちの謀反は、一切表に出なかった。


ザンビア砦に巨大な異形の存在(ゼノプーパ)が現れ、多くの騎士や兵士が亡くなった。


国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)と共に討伐へ向かった“リリアンヌ・エラドリオール”が、加護のちからで異形の存在を消し去った。


相討ちとなった私は、長い眠りにつくことになった。


民たちにはつい先日、私が目覚めたことを知らされた。



間違ってはいない。


いない、けれど――



「足元に気を付けろ」



「はい」


父の手を借りて、馬車から降りた。



「…!」

顔を上げた瞬間、びくりと足が止まった。



王城の入り口前に、ずらりと近衛隊が並んでいた。


胸の前で剣を掲げ、静かに目を伏せている。


初めて見る敬礼の仕方だ。



「お、お父様…」



「気にしなくていい」


戸惑う娘を優しく支え、ロデオは城内へ入っていった。



城内に入ると、今度は使用人たちが並んでいた。


誰もがこちらに向かい、深く頭を下げている。


階段を上がった先の廊下にまで、使用人たちは並び続けていた。



「あ…ば、バルバラ…」


知り合いを見つけ、小さく手を上げた。


名を呼ばれた使用人はわずかに微笑むと、周りと同じように再び頭を下げた。



「……」


リリアンヌはきゅっと口を結び、顔を前に向けた。



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