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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十章/残された男たち
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国王の面接Ⅱ②

ルイージ視点



「待て…レックス。それは駄目だ」


ルイージは取り繕うことも忘れ、口を挟んだ。



「一体、何を考えてるんだ?」


相手は、パルミアだ。



「僕も、嫌ですよ。その交渉には乗れませんね」

男が、ルイージに同意するように言った。



「何が嫌なんだ?鑑定士なら、守秘義務を負うのも仕事だろ」



「陛下が何のちからを持っているかなんて、噂でも聞いたことありません。責任重大じゃないですか」



「そうだな。俺のちからのことは、ここにいる二人しか知らねぇ」


レックスは、素早くルイージとエドガーを指さした。



「万が一話が漏れたら、犯人はお前だ」



「…想像以上に、読めない方ですねぇ」


男は小さく呟くと、真剣な表情をレックスに向けた。



「陛下。鑑定する前に、ひとつお聞かせいただけますか」



「許す。なんだ」



「陛下が僕を調べ尽くしていることは、分かっていますが」



「調べ尽くせてはいないから、こうしてお前を呼んでいる」



「…ですが、僕がパルミア一族と切れていないことはご存じでしょう?」



「は…?」


男の言葉に、ルイージは眉をしかめた。



「何を、当たり前のことを…」



「切れてはいないが、切りたがっていることは知っている」


レックスは、ルイージを無視して男へ返した。



「お前が協力するなら、俺もお前に協力してやってもいいと思っている」



「…協力とは、何です?」



「国専属の鑑定士になれ」

レックスは迷いなく言い放った。



「……」


思わず、頭を抱えた。


止める間もない。


こいつはまた、初めから答えを決めていた。



「それは、願ってもいない話です。ですが、パルミア一族を喜ばせることになるだけですよ」



「勝手に喜ばせておけばいい」



「よく…分かりませんねぇ」


男は、小さく首を傾げた。



「どうしてそこまでして僕を抱えたいのです?パルミアの情報は、大して持っていませんよ」



「種を蒔くためだ」

レックスは、表情ひとつ変えずに言った。



「…はぁ?」

ルイージも男も、目を瞬かせた。



「こっちの話だ。別に、お前に情報を仕入れてほしいとは思ってねぇ…ああ、ひとつ、欲しい情報があるな」



「なんです?」



「大教主の座が、二年近く空いたままだ。パルミア一族を推したいと思っているが、誰か適当な人間はいるか」



「おい、レックス!」


初対面の人間がいようが、関係ない。


あまりにも勝手すぎる。



大教主の座こそ、二大勢力以外から選ぶべきだ。


また勢いづけさせたいとでも言うのか。



「それなら、僕の叔父にあたるゴーシュを推しますよ。パルミアらしからぬ気弱な性格で、使いやすいですから」

男は、淡々と答えた。



「今はポータスにある大聖堂で大院長として務めていますが、大教主に就けると知れば、喜んで王都にやってくるでしょう」



「俺も、同意見だ」

レックスはすぐに頷いた。



「意地悪ですねぇ。決めていたくせに、僕に聞いたのですか」



「大教主の座を、現段階でパルミアかフラディン以外から決めるわけにはいかないからな。一番ましな人間を探していた」



「なんでだよ」

ルイージは、不満そうに尋ねた。


これを機に、どちらの勢力も追い出せばいい話だ。



「大教主は、国を支える要職のひとつですから。

新興貴族では、ひと月も持たず引きずり下ろされるでしょうねぇ」


レックスではなく、男が答えた。



「本家がいなくとも、同派閥の者は大勢います。スワハマ元大教主がいなくなったからといって、その影響力まで消えるわけではありませんよ」



「……」


そんなことは、知っている。


なぜ、パルミアの息子に説き伏せられなければいけないのか。



「納得したなら、俺を鑑定してみろ」


レックスは足を組み、男を見やった。



「それとも、なんだ。まさか、たったひとりの鑑定がお前の限界か?」



「いいえ。一日で二十人鑑定しても体力はあり余っていましたから、その倍はいけるでしょう」

男は、さらりと返した。



「それなら問題ないな。やれ」



「…僕を、はめようとしています?」



「してねぇよ」



「触れた瞬間、不敬罪で斬られるとか」



「ルイージ。お前が見届け人になれ」



「はぁ?」


突然、巻き込まれた。



「こいつが俺を鑑定しても、俺はその行為に対して何の文句も言わない。これでいいか」



「…分かりましたよ。ルイージ宰相、何かあったら僕を守ってくださいね」


男は諦めたように溜息をつくと、レックスの前まで進んで跪いた。



「……」

ルイージは、こくりと小さく喉を鳴らした。



平然と、この男はとんでもないことを言った。


一日、二十人以上を鑑定できる…?


シリルは、三人が限界だった。


知っている他の鑑定士も、それと似たようなものだ。



レックスが特別なちからを持つ者(アニマソムニア)だと知る者は、数人しかいない。


さらに、何のちからを持っているのかは俺とエドガーしか知らない。



レックスは自身が強化の類のちからを持っていると知ってから、ひとりで試してきた。


試し続けた結果、見つけられなかったと先代王には報告した。



だが実際は、早々に何のちからかをレックスは見つけていた。


強化の類の中でも、かなり珍しいちからだ。



それを…この男は、本当に当てることができるというのか。



「…失礼します」


男はレックスの腕に触れると、すぐに青い光を放った。



「…随分と、強烈な紅ですねぇ」



「鑑定できたのか」



「ええ…何かを運んでくるようなちからと出ました。強化の類では珍しいですね」

男は答えながら、ふっと光を消した。



「それだけか?」



「この光の色を持つちからについて記された文献は見たことありませんが、予測はできます」



「話してみろ」

レックスは対面のソファを指した。


男はソファへ戻り、腰を下ろすと口を開いた。



「初代セスランディア王は、光のちからとは別に特別視していたちからが、もうひとつありました。…ご存じかとは思いますが。

王はそれを大変気に入り、そのちからの色を国旗にしたと聞いたことがあります」



「国旗の色は…初代セスランディア王の瞳の色だろう」


それは、有名な話だ。



「あくまで、諸説のひとつです。ですが存外、的外れではなかったようですねぇ」



「回りくどいな。さっさと言え」

レックスは鋭く口を挟んだ。



「幸運のちから」


男は、まっすぐに答えた。



「そのちからを使えば、自身にとって良いことが起こる。自ずと選ぶべき道が分かる。そうですね?」



「少し語弊があるが、ほぼ正解だ」

レックスはあっさりと認めた。



「何が違うのです?」」



「初代王はどうだったか知らないが、俺の持っているちからはそれほど効力はない」



「それでも、ちからを使えば選ぶべき道が分かるのでしょう?とても羨ましいちからです」



「参考にする程度だ。今まで良いことなどなかった」



「そんなことはないでしょう。陛下のお力で、これほど国を潤したのですから」



「そういう意味じゃねぇ」

レックスは、吐き捨てるように言った。



「本当に望むことは、叶えてはくれねぇよ」



「……」

ルイージは目を伏せ、静かにモノクルを押し上げた。



本当に、選ぶ道が分かるなら――



ザンビア砦で襲われることもなかっただろう。


一連の企てを、もっと早く見つけ出せていたかもしれない。



これほど大勢が死ぬこともなかったかもしれないし、


リリアンヌが眠りにつく必要などなかったかもしれない。



レックスは幸運のちからを当てにしているわけではないが、


それでも自身のちからの弱さに、もどかしさを感じているのだろう。



だからこそ――リリアンヌの能力増幅のちからを欲した。


人攫いの件がなければ、こいつは自身を実験台にして加護のちからを試していたはずだ。



「ザンビア砦から、陛下は生きて帰ってきたではありませんか」



「あ?」



「巨大な異形の存在(ゼノプーパ)と戦ってなお、無傷で王都へ戻ってきたではありませんか」


男は、真剣な表情で言葉を続けた。



「リリアンヌ殿下がいらしたからこそ、陛下は生きているのでしょう?十分、幸運ではないですか」



「……」

レックスは、静かに男を見据えた。



「……」


確かに、この男の言う通りかもしれない。



もし、仮にリリアンヌが精霊を見つけていなければ。


もし、加護を授かっていなければ。



デューゼの森で起きている異変に、気付くことはできなかった。


精霊王と繋がることもできなかった。



恐れていた通り、


封印されている瘴気が解け、異形の存在の大群が国を襲っていたかもしれない。


そうなれば、もはや誰も生き残っていない可能性もあった。



「良いちからですねぇ。僕も、恩恵に預かりたいものです」


男の顔が、飄々としたものに戻った。



「それで、陛下。僕は合格なのですか?」



「合格だ。お前の腕は、もう分かった」

レックスは即答した。



「減らず口を叩かなければ、なお良かったがな」



「これは、僕の処世術みたいなものでして。許してください」



「仕事さえしてくれれば、それでいい」



「僕の仕事とは、何です?」



「まず、城に出入りしている者を全員、半年以内に鑑定し直せ」



「簡単に…言ってくれますねぇ」


男は、ふっと苦笑いをこぼした。



「使用人だけで千人以上…騎士や兵士、文官まで含めれば、五千人以上はいらっしゃるでしょう?」



「一日四十人ずつ鑑定できるんなら、七千まではいけるだろ」



「休みは、なしということですか」



「通達は出しておく。国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)を貸してやるから、明日から回れ」



「すでに入っている仕事もあるのですがねぇ」

男は再び苦笑を浮かべた。



「どうだ、ルイージ」



「…何がだ?」


何の話を尋ねられているのか。



「こいつを使おうと思っている理由が、納得できたか?」



「……」


正直…納得はできた。



二度と、城内で不祥事を起こさせない。


二度と、ザンビア砦のような戦いを繰り返さない。


そのために、こいつは不安要素をすべて取り除こうとしている。



「…どうせ、俺が何を言っても変わらないんだろう」

ルイージは、溜息で返した。



目の前の男を、まだ信用してはいない。


だが確かに、他のパルミアの者とは違う。


それに、この男のちからは有用だ。



「宰相も納得した。これで決定だ」

レックスは再び前に顔を向けた。



「陛下。もうひとつ聞いてもいいでしょうか」



「なんだ」



「陛下のちからが、僕を使うことが良き道だと示されたのですね?」



「どうだろうな。出たとしても、俺にとって良い結果だというだけだ」

レックスは、軽く流すように答えた。



「それでも、十分です。大変光栄な話です」



「だが、お前が半年以内に仕事を終わらせられなければ、外す可能性もある」



「意地でも、こなしてみせますとも」


男は、今までとは違う笑みを浮かべた。



「僕も――幸運の女神を見つけるまでは、藁だろうが罠だろうが縋ってやりますよ」


その笑みは、どこか意味ありげだった。



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