国王の面接Ⅱ①
ルイージ視点
「おい、レックス。お前…正気か?」
執務室に入るなり、ルイージは険しい表情で迫った。
「俺は、いつでも正気だが」
レックスはいつも通り、顔も上げずに答えた。
「本気で…パルミアの息子を引き込む気か?」
「だから、正気だって言ってんだろ」
「いくら鑑定士の数が足りないとはいえ、せっかく追い出したパルミアをまた城に入れるのか?」
ルイージはさらに執務机まで詰め寄り、どんっと手を置いた。
「まだ決めたわけじゃねぇ」
「当たり前だ。あの一族が何をしてきたか、忘れたとは言わせないぞ」
「鑑定士がいなくなるんだから、仕方ねぇだろ」
レックスは羽ペンを置くと、煩わしそうに顔を上げた。
「それとも、お前がどこからか鑑定のちからを持った奴を引っ張ってきてくれるか」
「シリル先生に定年を延ばしてもらえないか、まず聞いてみればいいだろう」
「あれは、もう無理だ。城に来ることを恐れている」
「…はぁ?」
「お前は、パルミア家の長男の噂を知っているか」
「…それなりには、知っている」
ルイージは眉を寄せながらも、こくりと頷いた。
「ノルベルト長官の実の息子で、鑑定のちからを持っているにも関わらず、ここ王都で守衛隊兵として働いている変わり者だと聞いている」
本家の長男で、さらに鑑定のちからを持っているなら、間違いなく次期当主の座が決まっているはずだ。
それなのに彼は、平民に交ざって兵士として働いている。
変人か、物好きか。
それとも、よほどの企てがあるのか。
「情報が、四か月古いな」
レックスは、はっと鼻を鳴らした。
「…まさか、守衛隊を辞めたのか?」
「四か月前、突然辞めた。二か月ほど自領へ帰った後、鑑定士になって王都に戻ってきた」
「余計に怪しいじゃないか」
思わず、眉をしかめた。
「絶対、ノルベルトの差し金だろう」
「それはどうだろうな」
「やけに肩を持つな。話したことがあるのか?」
「俺は、ねぇよ」
「…?」
「気になるなら、お前も行くか」
唐突に、レックスは椅子から立ち上がった。
「…は?どこに」
「パルミアの長男との、面接に」
「は…ああ…?」
ルイージは、思いきり顔をしかめた。
「お前っ…もう城に呼んでいたのか?」
「当たり前だろ。会わずに判断できるか」
「お前が直々に会う必要などないだろう!」
「判断を任せられるような奴がいねぇ」
「…俺が判断して、お前に伝えればいいだろ」
「名を聞いただけで、断って終わりだろ」
レックスはにべにもなく言った。
「……」
「すでに、三時間待たせてある。人を苛つかせるには、十分な時間だ」
「待て…エドガー団長ひとりか?アランフォース副団長は?」
ルイージは、はっと扉の方へ振り向いた。
「従者を何人連れてくるか分からないだろう。もっと護衛を増やせ」
「向こうは、たったひとりだ。確認してある」
レックスはルイージの脇を通り、さっさと扉へ向かっていった。
「どうするんだ。来るのか?」
「…行くに決まってるだろ」
ルイージは不満げに返事をすると、扉から出ていく国王の背を追った。
二大侯爵家のひとつ、北のパルミア一族――
“精霊の目を持つ一族”と呼ばれる名家で、
その名の通り、鑑定のちからを持つ者を多く輩出してきた。
現パルミア領の地方長官ノルベルトの父ハインツは、元王国軍総長だった。
それだけで、一族の勢力の強さが分かる。
宰相だったスワハマとは犬猿の仲だったが、隣国との戦争だけはどちらも乗り気だった。
ハインツは、先代王テレガスタともども戦死。
当時、聖守護騎士団の団長を務めていたハインツの弟ヴェルクスも、あり得ない失態を犯して失脚した。
そのままパルミア一族は、王都での勢いを失った。
そこから、十四年。
スワハマがいなくなった今、ようやく保守派の二大勢力を追い出せた。
それなのに、なぜまたあえて、その一味を受け入れようとしているのか。
レックスが、何を考えているのか。
さっぱり分からない。
「おや、ルイージ宰相までご一緒ですか」
客間に入るなり、呑気な声が出迎えた。
「待たせたな」
レックスは素っ気なく返した。
「いいえ。存外、早くいらっしゃって驚きました」
「お前の時間感覚は、相当いかれているな」
「僕がいかれているのは、時間感覚だけではありませんけどねぇ」
「……」
ルイージはひとり、渋い顔を浮かべた。
レックスは、あえて相手を怒らせるような真似をする節がある。
交渉術なのか何なのかは知らないが、どう反応するかで相手を試しているのだろう。
試された者は、だいたいが怒るか苦笑いを浮かべるかだ。
飄々と言い返す者は、珍しい。
だが、相手は国王だ。
「堅苦しい挨拶はなしだ。座れ」
レックスはどさりとソファに座ると、対面の席を指さした。
「名乗らせてもくれないのですねぇ」
「名なら、知っている」
「ふふ…名前だけではないでしょう」
「……」
ルイージは男に目を向けたまま、レックスの隣に腰掛けた。
まだ、二十歳かそこらに見える。
だいぶ若いが…
ノルベルトの息子が守衛隊に入ったと聞いたのは、五年近く前の話だ。
成人して、すぐに兵士になったのか。
本来なら、社交界に顔を出し始める時期だ。
「今日は、お前のちからを知りたくて呼んだ」
男がソファに座るなり、レックスが切り出した。
「もちろん、鑑定のちからですよ。鑑定士をやっているのですから」
「そういう意味じゃねぇ。お前の腕を知りたいと言っている」
「ああ、そういうことですか」
男は、納得したように頷いた。
「ですが、どうやって腕を見せるのです?まさか僕が、陛下やルイージ宰相を鑑定するわけにもいかないでしょう」
「あいつを鑑定してみろ」
レックスが、くいっと扉の方に親指を向けた。
「それは…大変光栄ですねぇ」
男はすぐに立ち上がると、扉の前まで躊躇なく進んでいった。
「エドガー団長。鑑定には触れる必要があるのですが、よろしいでしょうか」
「…ああ」
少し間を置いて、エドガーは男に腕を差し出した。
「失礼します」
男はエドガーの腕に触れ――
一瞬で、二人の体が青い光に包まれた。
「……」
光の強さは、ちからの強さを表している。
明らかに、シリルよりも光が強烈だ。
「僕は…ちからの色と一緒に、どういった種類のものかも少しだけ分かるのです」
男はエドガーから手を離すと、くるりとレックスへ体を向けた。
「光の色は、共有の類。距離を移動するちからと出ましたので、転移のちからと言ったところでしょうか」
「…!」
当たりだ。
シリルのように、資料へ目を通すこともしないのか。
「ま…エドガー団長のちからのことは、もともと知っていたのですけれどね」
「おいっ…なんだよ」
思わず、文句が口を衝いた。
感心した時間を返してほしい。
「同じく、ルイージ宰相のちからも知っています。申し訳ありません」
男は、ルイージに向かって肩をすくめてみせた。
「…俺のちからを、知っているのか」
「まあ、想定内だな」
レックスは、あっさりと頷いた。
「…そうだな」
語らせのちからを隠しているとはいえ、レックスが王座に就いてから何度も使ってきた。
使った相手の中には、まだ存命の者もいる。
知ろうと思えば、簡単に調べられることだ。
二大侯爵家なら、それくらいの情報は持っていて当然だろう。
「それなら、俺のちからを調べてみろ」
「…え」
男は一瞬、目を見開いた。
「俺のちからを見抜けたら、お前の腕は確かだ」
レックスは、自分自身を指さしていた。




