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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十章/残された男たち
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国王の面接Ⅰ①

せいやくされる者



集音のちから――


王城くらいの広さなら、どこでも声を拾うことができる。



生まれつき記憶力が良くて、一度聞いたことは忘れない。


この二つのおかげで、農村出身とは思えない人生を送ってきた。



祖先の誰かが精霊から加護を貰っていれば、同じちからを受け継ぐ特別なちからを持つ者(アニマソムニア)が生まれる可能性がある。


親も祖父母もそのことを知らなかったから、相当、遠い昔の話なのだろう。


ご先祖様様だ。



息子が“特別なちからを持つ者”だと気付いた親は、さっさと領主に売った。


その領主はさらに、大貴族のもとへ自分を献上した。


別に、恨みやしない。


少しばかり特殊な訓練を受け、少しばかり死ぬ思いをしてきただけだ。



最終的に行き着いた先は、スワハマ・フラディンのもとだった。



日々、第二城壁内から声を拾う。


たまに第一城壁まで近づき、王城の会話を探る。


指示があれば、町の声まで集める。


それを一言一句違えず、スワハマに伝える。


ただ、それだけだ。



国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)という化け物どもを避け、


どこにいるとも分からない王の駒に見つからないよう潜み、


捕まれば、その場で自死しなくてはいけない――ということくらい。


どうってことはない。


それも、十年も経てばもう慣れた。


刺激が好物な自分としては、むしろ物足りない。



そう、思っていたが。


まさか、突然処刑される可能性が出てくるとはいただけない。



どうやら、主人の悪事がばれたらしい。


スワハマを最後に見たのは、四塔付近にある安宿の部屋だった。



王城の連中が、ご主人様を探し始めています――


そう教えただけで、スワハマは荷物を放り出して去っていった。


自分に何の指示も出さず逃げ、そして、捕らえられてしまった。



もうそこから、一か月近く経っている。



拾った情報だと、スワハマの屋敷にあるすべてのものが没収された。


使用人たちも捕まり、全員尋問を受けた。



とっくに、自分の存在も知られているはずだ。


追手も放たれているだろう。


捕まれば、待っているのは拷問と処刑だ。



このまま…王都から脱してしまいたい。


門から出ていくのは、簡単だ。


いくらでも方法はある。



だが王都から出た瞬間、首が弾け飛んで死ぬ。


そういう“制約の首輪”を着けられている。


これを外せるのは、スワハマしかいない。


そのスワハマは、生きているのか死んでいるのかも分からない。



主が死んでいた場合、制約が無効になるのかも分からない。


王都から出れば、すぐに結果が分かるだろうが。


生きていられるなら、まだ死にたくない。



幸い、金はある。


スワハマが放り出した荷物から、少しばかり拝借させてもらった。


だがこのまま町の宿を転々としていては、いつかは捕まるだろう。



商人を装い生きるか。


ならず者に紛れるか。


元締めの奴らなら、この首輪の外し方を知っているかも――



「…あ」


男は、ぽつりと声をこぼした。



しまった。


考えごとをしすぎて、油断した。



いつの間にか、囲まれている。


全員、手練れだ。



「…死にたくは、ねぇな」


男は諦めたように、屋根の上に腰を下ろした。



「殺す気はない。安心しろ」

男の独り言に、後ろから声が返ってきた。



「…王の駒、ですか。さすがですね」



「その呼び方は、不本意だな。ルプスと呼んでくれ」

現れたルプスは、足音もなく男に近づいた。



「今は殺されなくても、これから待っているのは拷問でしょう?痛いことは、嫌ですよ」



「それは、お前次第だな。大人しくついて来るか?」



「そりゃ、まあ…どうやっても、逃げることはできなさそうですし」



「…何人いると思う?」

ルプスは、じっと男を見下ろした。



「この建物の周りに今、二人近づいた。それから二つ先の建物と、あの屋根の裏に隠れている奴が、ひとりずつ」

男は建物を指さしながら、淡々と答えた。



「惜しいな」



「げ…まだいるんですか」



「今の時点で、それだけ分かれば十分だ」



「今の時点で?何の話ですか」



「さあな。私についてこい」



「…この格好で、城を通れるんですか?」


男は座ったまま、自分の服を見下ろした。


町民に紛れるため、古着屋で揃えたものだ。


それに対して、ルプスはだいぶ小綺麗な格好をしている。


まるで、良いところの執事のようだ。



「城に行くわけではない。第二城壁まで、私と馬車に乗ってもらう」



「…ああ、そうか。牢獄か」


そりゃ、そうだ。


王の駒に捕まったとはいえ、城に連れて行かれるわけではないだろう。



「違う。行く先は、第二城壁内にある宿だ。まず、その身なりを整えろ」



「…まさか」

男は露骨に嫌そうな顔をした。



「陛下が、お前との面会を望んでいる」

ルプスは、事もなげに言った。



「…冗談だろ」



「早く行くぞ」



「…はぁ」


重たい腰を上げ、ルプスに続き、屋根から飛び降りた。



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