国王の面接Ⅰ①
せいやくされる者
集音のちから――
王城くらいの広さなら、どこでも声を拾うことができる。
生まれつき記憶力が良くて、一度聞いたことは忘れない。
この二つのおかげで、農村出身とは思えない人生を送ってきた。
祖先の誰かが精霊から加護を貰っていれば、同じちからを受け継ぐ特別なちからを持つ者が生まれる可能性がある。
親も祖父母もそのことを知らなかったから、相当、遠い昔の話なのだろう。
ご先祖様様だ。
息子が“特別なちからを持つ者”だと気付いた親は、さっさと領主に売った。
その領主はさらに、大貴族のもとへ自分を献上した。
別に、恨みやしない。
少しばかり特殊な訓練を受け、少しばかり死ぬ思いをしてきただけだ。
最終的に行き着いた先は、スワハマ・フラディンのもとだった。
日々、第二城壁内から声を拾う。
たまに第一城壁まで近づき、王城の会話を探る。
指示があれば、町の声まで集める。
それを一言一句違えず、スワハマに伝える。
ただ、それだけだ。
国王直属騎士団という化け物どもを避け、
どこにいるとも分からない王の駒に見つからないよう潜み、
捕まれば、その場で自死しなくてはいけない――ということくらい。
どうってことはない。
それも、十年も経てばもう慣れた。
刺激が好物な自分としては、むしろ物足りない。
そう、思っていたが。
まさか、突然処刑される可能性が出てくるとはいただけない。
どうやら、主人の悪事がばれたらしい。
スワハマを最後に見たのは、四塔付近にある安宿の部屋だった。
王城の連中が、ご主人様を探し始めています――
そう教えただけで、スワハマは荷物を放り出して去っていった。
自分に何の指示も出さず逃げ、そして、捕らえられてしまった。
もうそこから、一か月近く経っている。
拾った情報だと、スワハマの屋敷にあるすべてのものが没収された。
使用人たちも捕まり、全員尋問を受けた。
とっくに、自分の存在も知られているはずだ。
追手も放たれているだろう。
捕まれば、待っているのは拷問と処刑だ。
このまま…王都から脱してしまいたい。
門から出ていくのは、簡単だ。
いくらでも方法はある。
だが王都から出た瞬間、首が弾け飛んで死ぬ。
そういう“制約の首輪”を着けられている。
これを外せるのは、スワハマしかいない。
そのスワハマは、生きているのか死んでいるのかも分からない。
主が死んでいた場合、制約が無効になるのかも分からない。
王都から出れば、すぐに結果が分かるだろうが。
生きていられるなら、まだ死にたくない。
幸い、金はある。
スワハマが放り出した荷物から、少しばかり拝借させてもらった。
だがこのまま町の宿を転々としていては、いつかは捕まるだろう。
商人を装い生きるか。
ならず者に紛れるか。
元締めの奴らなら、この首輪の外し方を知っているかも――
「…あ」
男は、ぽつりと声をこぼした。
しまった。
考えごとをしすぎて、油断した。
いつの間にか、囲まれている。
全員、手練れだ。
「…死にたくは、ねぇな」
男は諦めたように、屋根の上に腰を下ろした。
「殺す気はない。安心しろ」
男の独り言に、後ろから声が返ってきた。
「…王の駒、ですか。さすがですね」
「その呼び方は、不本意だな。ルプスと呼んでくれ」
現れたルプスは、足音もなく男に近づいた。
「今は殺されなくても、これから待っているのは拷問でしょう?痛いことは、嫌ですよ」
「それは、お前次第だな。大人しくついて来るか?」
「そりゃ、まあ…どうやっても、逃げることはできなさそうですし」
「…何人いると思う?」
ルプスは、じっと男を見下ろした。
「この建物の周りに今、二人近づいた。それから二つ先の建物と、あの屋根の裏に隠れている奴が、ひとりずつ」
男は建物を指さしながら、淡々と答えた。
「惜しいな」
「げ…まだいるんですか」
「今の時点で、それだけ分かれば十分だ」
「今の時点で?何の話ですか」
「さあな。私についてこい」
「…この格好で、城を通れるんですか?」
男は座ったまま、自分の服を見下ろした。
町民に紛れるため、古着屋で揃えたものだ。
それに対して、ルプスはだいぶ小綺麗な格好をしている。
まるで、良いところの執事のようだ。
「城に行くわけではない。第二城壁まで、私と馬車に乗ってもらう」
「…ああ、そうか。牢獄か」
そりゃ、そうだ。
王の駒に捕まったとはいえ、城に連れて行かれるわけではないだろう。
「違う。行く先は、第二城壁内にある宿だ。まず、その身なりを整えろ」
「…まさか」
男は露骨に嫌そうな顔をした。
「陛下が、お前との面会を望んでいる」
ルプスは、事もなげに言った。
「…冗談だろ」
「早く行くぞ」
「…はぁ」
重たい腰を上げ、ルプスに続き、屋根から飛び降りた。




