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第一章Ⅴ(役目と役割)③

リリアンヌ視点



「リリアンヌ、久しぶりねっ!あなたは、なんて可愛いの!」



「…あ」


面食らって、言葉を失った。



「すっかり、お姉さんになって!この歳の子は、一年会わないだけで変わってしまうわね」



「あ…え、エレメア王妃殿下、お久しぶりです」

リリアンヌはドレスの裾を軽く摘まみ、なんとかカーテシーのお辞儀をした。




「王妃殿下なんて、嫌だわ。エレメアと呼んで頂戴」



「…エレメア様。お元気そうで、何よりです」



「ええ、そうね。臨月とは思えないくらい元気だわ」

エレメアは、お腹をさすりながら答えた。


「アヴェリーンも、久しぶりね。相変わらずあなたは、綺麗だわ」



「ええ、二か月ぶりくらいかしら」

アヴェリーンはふっと笑みを浮かべ、美しい所作でお辞儀した。


「エレメア様の、華が咲くような美しさには遠く及ばないわ」



「うっふっふ…!もう、いいわよ、貴族流の挨拶は」



「あら、私は本心から言ったのだけれど」



「そんなことより、この間話した、性別占いのことなのだけれどね」



「ええ、占い師に見てもらったのよね」



「そうそう、その占い師が言うには、また男児みたいで」



「とてもおめでたいことだわ」



「これ以上息子が増えても、嬉しくないわよ。私だって、リリアンヌみたいな娘が欲しいわ」



「……」

リリアンヌは姿勢を正したまま、じっと二人のやり取りを聞いていた。



まだ席にも着いていないのに、もう話は始まっている。


自分たちの後ろには、まだ夫人方が並んでいるのに。



けれど、これはいつものことだ。


母とエレメア王妃は、とても仲が良い。



「…あら、嫌だわ。私ったら、いつもみたいに話してしまったわ」

エレメアが、はっと思い出したように言った。



「アヴェリーン、私の席の隣に座って待っていて頂戴ね」



「ええ、分かったわ。また後で」



「…失礼します」


母に続き、その場を後にした。



「エレメア様、お久しぶりですわ!ご体調はいかがでして?わたくし、新たな話を持ってきたのですわ――」


すぐに他の夫人がエレメアの前に立った。



「……」

リリアンヌは、ちらりと会場を見渡した。



庭園には、今日のためにいくつものテーブルが並べられている。


いつも母と座るのは、あの中央のテーブルの――



「…さ、リリアンヌ。あなたは、お友達のところへ行ってきなさい」

アヴェリーンが歩きながら、さっと切り出した。



「…え?友達…?」



「あなたは、今日は向こうよ」



「…え」

リリアンヌは、アヴェリーンの指す方へ視線を向けた。



並べられたテーブルの端に、少し低めの丸いテーブルが置かれている。


その周りに、令嬢たちが立って待っていた。



「ニア、リリアンヌをよろしくね」



「ええ、お任せくださいっ」

ニアはアヴェリーンに答えると、リリアンヌの後ろについた。



「ジェニー、モアナ、行くわよ」


「はい」


アヴェリーンは侍女二人を伴い、中央のテーブルへと向かっていった。




「ほら、行きますよ。皆様、お嬢様のことをお待ちしているのですから」



「あ…うん」

リリアンヌは戸惑いながら、令嬢たちが待つテーブルに向かった。



今までお茶会と言えば、母の隣に座っているだけで良かったのに。


令嬢たちだけの席があるなんて、初めてだ。



テーブルへ近づくと、令嬢たちが一斉にお辞儀した。



「…皆様、こんにちは」

リリアンヌは、ぎこちない笑みを浮かべて返した。



「本日は、ようこそ王城までおいでくださいました」


王城に住んでいるわけではないけれど、


王族として、この場では私が皆を迎える側だ。



「皆様と、いろいろなお話ができると嬉しいわ」



「……」


令嬢たちは呆然としたまま、誰も何も返さなかった。



「……」

リリアンヌは、困ったように令嬢たちを見渡した。



緊張しているのだろうか。


何人かは、会ったこともあるはずだけれど。




「…お嬢様」



「…あ、はい」

はっと気付き、ニアの引いた椅子に腰掛けた。


「どうぞ、皆様も座ってください」



「…すごい」


ぽつりと声が落ちた。



「え?」


誰かが呟いた声に、思わず聞き返した。



「あっ…ごめんなさい」

正面に座った令嬢が、はっと口を噤んだ。




「…ええと、あなたは――」



「リリアンヌ様と、お呼びしていいですかっ?」



「あ…え?」

リリアンヌは、きょとんと隣に目を向けた。



「初めまして、リリアンヌ様。わたくしは、マリドーナと申します」

隣に座った令嬢が、にっこりと笑って言った。



「マリドーナ嬢、初めまして」


だいぶ年上の令嬢だ。


十歳から十二歳くらいだろうか。



「リリアンヌ様のお噂は、たくさん聞いていましたの。ですから、とってもお会いしたかったのですわ」

マリドーナが身を乗り出すと、体中に着けた装飾品がきらりと光った。



「…私の噂?」



「はい!あのロデオ殿下が溺愛する、比類なき美しさの姫君と聞いておりました!」



「…う」


とんでもない噂に、わずかに顔をしかめた。



「本当に、お噂通りだったのですね」

反対側から、別の令嬢が割って入った。


「本当に、お姫様みたい」



「…あなたは?」



「ミレーネと申します」


ミレーネもまた、だいぶ年上そうだ。




「ミレーネ嬢、ありがとう。…ええと――」

リリアンヌは、ちらりと他の令嬢へ視線を向けた。



「リリアンヌ様は、よく町の方へ行かれるのですかっ?」

間髪入れず、マリドーナが尋ねた。



「あ…いいえ。行きたいなとは思っているけれど、行ったことはないの」


ここで昨日行ったばかりだとは、さすがに言えなかった。




「そうなのですね。わたくしは、毎年この時期になると王都に来るのですけれど」



「王都に住んでいるわけではないのね?」



「ええ。わたくしは、王領の隣領を治める侯爵の娘ですの」

マリドーナは誇らしげに胸を張った。



「そうだったのね。勉強不足で、ごめんなさい」


きっと、他の令嬢たちもどこかの領を治める貴族の子なのだろう。



「えっ?いいえ、いいえ!そんな難しいお話は、もっと大きくなってからでいいのですよ」

マリドーナは、みるみる顔色を悪くした。



「…?」


謝ったのが悪かったのだろうか。



「…それで、王都がどうかしたのかな」

リリアンヌは、そっと続きを促した。




「あ…ええ。王都はいろいろなものが揃っていて、羨ましいというお話でしたの」



「マリドーナ嬢は、町の方へ行ったことがあるのね」



「ええ、もちろんですわ。お母様が予定のない日は、いつも一緒に買い物へ行っているの」



「どんなものが売っているの?」



「それはもう、いろいろなものですわ。ドレスや装飾品、それから化粧品など、たくさんのお店があります」



「マリドーナ様、あの人気の料理店には行かれました?」

ミレーネが会話に加わった。


「あの、リンゴパイの美味しい料理店のことです」




「もちろんよ。買い物へ行くたび、上階の席を貸し切っておりますわ」



「まあ、さすがですわ!羨ましい」



「ミレーネ嬢、北の金鐘通りにある、有名な料理店には行きまして?」



「ああ、城下町が見渡せる料理店のことですわね。私、南側しか行ったことないのですよ」



「それはもったいないわ!北側には、古き良き老舗が多くありますのに。でも、南側にも夕陽が綺麗に見える高楼の茶房がありましたわね」



「ええ…!まさに昨日、行ってきましたわ!」



「本当?本当に、空に浮かんでいるように感じるのかしら?」



「……」

リリアンヌは紅茶に口を付け、静かに二人の会話に耳を傾けていた。



まったく、話についていけない。


そもそも、これだけ年齢も違ったら話す内容も違うだろう。


これではまるで、子守をしてもらっているみたいだ。



「……」

カップを傾けるふりをして、ちらりと他の令嬢たちへ視線を向けた。


マリドーナとミレーネ以外、誰も喋っていない。

下を向き、黙々と紅茶を飲んでいる。



きっと、身分の順番で席が決まっているのだろう。

だからといって、喋るなと言われているわけではないだろうに。



私が話しかけたら、もう少し場も和らぐのだろうか。



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