表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十章/残された男たち
308/401

孤独なエルフの出立

キリ視点



わずかに開いている窓から、そっと部屋の中へ足を踏み入れた。


心地のよい風が、室内に入ってきている。



「ホ~」


気付いたスノウが、こちらに目を向けた。


その脇では、少女が昏々と眠り続けている。



「……」


キリはベッドに近づき、リリアンヌを見下ろした。



今日も、白の使い手が訪れていた。


砦で倒れた時より、顔色はかなり良くなっている。



「…少し、出かけてくる」


眠るリリアンヌに向かい、静かに言葉を落とした。



精霊を探しに、各地を巡る。


まだ何の反応もないが、


彼女が目覚めるまで、じっとしていることなどできない。



――精霊を、見つけてくれ。



私にとって、精霊王のその言葉は絶対だった。


それなのに一族の長は、精霊探しを諦めた。



長に従わず、精霊探しを続けた。


何度か、人族の住む里にも足を運んだ。


そこで、精霊の加護を授かった少女の噂を聞いた。


そのことを、すぐに長へ伝えた。


長から返ってきた答えは――頑なな拒絶だった。



一族は、もう駄目だ。


あの狭い里で、ただ何百年も生きているだけだ。


長は狂ったようにひとつのことに心を奪われ、里から出ようともしない。



一族は、長の言うことしか聞かない。


私の意見など、受け入れない。



だから――


命懸けで、里を抜け出した。



一年かけて、この国を巡った。


長から聞いていた様子とは、随分違った。



どこにも、血生臭い戦争など起きていない。


ただ、欲張りで自分勝手というだけだ。


奇妙な掟や身分制度も、多く存在していた。



多くの里を巡り、王都へやってきた。


自分なりに、人族の性質を理解したつもりだったが――


リリアンヌは、誰とも違った。



彼女は、他人のことしか気にしていなかった。


彼女の涙は、いつも誰かを想って流すものだった。



今まで見てきた人族は、身分が高いというだけで居丈高だった。


だが彼女は、当然のように身分の低い者と抱き合い、喧嘩し、笑い合っていた。



初めは精霊探しのために近づいたが、単純に、彼女自身に興味が湧いた。


彼女と、行動を共にしたいと思った。



人族と、関わるな。


精霊を絶やした人族を、許すな。


お前は、人族が精霊を虐げてきた歴史を知らない。



何度も、長から呪いのように言われた言葉――



その通りだ。


だが、だから何だという。



四百年ぶりに現れた精霊を、無視していいのか。


知らないからと、加護を持つ者と関わってもいけないのか。


長も、この少女のことを何も知らない。



一族といた四百年より、


リリアンヌといた二か月の方が、よほど精霊について知ることができた。



もう、いい。


彼女を護れるなら、


彼女と精霊の、小さくも綺麗な世界を護れるなら。


一族のことなど、どうでもいい。


自分なら、何ものにも負けない。



そう思っていたが――それは、大きな勘違いだった。



精霊のなれの果て(ウァヌスプーパ)の存在など、知らなかった。


放たれた異形の存在(ゼノプーパ)が、あれほど強いとは知らなかった。



四百年以上生きてきて、一体、何を学んできた。



彼女が目覚めなかった時は…胸の奥を、何かにきつく締められた。


病気でもないのに、胸が苦しかった。


精霊王が必ず目覚めると言って、ようやくその痛みがなくなった。



私にも――こんな感情があった。



「……」


キリはそっと手を伸ばし、リリアンヌの頭に触れた。


柔らかい髪が、指をくすぐった。




『ありがとう、キリ』


『キリと出会えて、良かった』




「…ありがとう」


それは、私の方だ。



「……」


やがてキリは手を離し、窓へ向かっていった。



「ホ~」


すぐに、スノウが追いかけてきた。



「今は離れるが、必ず戻ってくる」


このままいなくなると、勘違いしたのだろうか。



「ホ~!」


スノウがもう一度鳴き――


キリの体が、強い光に包まれた。



「…!」


…これは。



「…私に、ついて来てくれるのか」



「ホ~」



「…ありがとう」


キリは、スノウを肩に乗せると、


静かに、エラドリオール邸を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ