表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十章/残された男たち
305/400

それぞれの決断②

レックス視点



「そもそも…あいつは、なんで戦えたんだ」

レックスは、思い出したように言った。



ロデオが習わせたのは、護身術だけだ。


剣の扱い方は、教えていないはずだ。



「お前が教えたのか?」



「そのことについては、一切言えない」

目を向けられたキリは、素早く答えた。



「あ?」



「リリアンヌから、秘密にしてくれと言われている」



「……」


全員の前で、ルイージにちからを使わせてやろうか。


だが、こいつならこの面子が揃っていても簡単に逃げてしまいそうだ。



「…兄上。それについては、後で私から伝えたいことがある」

ロデオが、静かに口を挟んだ。



「白のちからを隠していた件も、待ってくれ」



「…分かった。だが、加護の件は別だ」


レックスは、鋭い視線を扉の脇へ向けた。



「アランフォース。お前も加護を持っているとは、どういうことだ」



「私自身も知りませんでした」

アランフォースは、すぐに答えた。



「お前がリリアンヌの精霊を扱えたのは、加護を持っていたからなのか?」



「恐らくですが、そういうことだと思います」



「地下では、なぜ使い方を知っていた」



「リリアンヌ殿下が攫われた時、同じようにスノウがちからを貸してくれました」



「精霊王は、加護が宿っているという言い方をしていたな。リリアンヌの加護とは、また違うのか」



「そう…なのでしょう」



「……」


こいつにしては、随分曖昧な答え方だ。


本当に分からないのだろう。



大聖堂で、リリアンヌはずっと加護のちからを使い、アイラに協力していたと報告を受けていた。


だが、砦でアイラがリリアンヌへ白のちからを送った時、まるで初めてそのちからを知ったかのように驚いていた。



大聖堂では、リリアンヌ自身の白のちからを使っていたのか…?


初討伐の時も…



…アイラも、一枚噛んでいたのか。


元から、リリアンヌが白の使い手だと知っていたのか。



いつの間にか…随分と、強力な味方をつけている。



「…レックス。少し、席を外してもいいか」


黙り込んだレックスに、ルイージがそっと切り出した。



「公表文を、書記部でまとめてくる。本当に…さっきのでいいんだな?」



「いい。それで通せ」

レックスは即答した。



「分かった。…ああ、ナイジェル隊長」


ルイージは、扉に向かう途中で足を止めた。



霊拝師(オランス)の巡礼の件ですが、守衛隊への伝達は任せてもいいでしょうか」



「ええ、もちろんです。陛下、私も一度、席を外させていただきます」


ナイジェルはレックスに一礼すると、ルイージと共に執務室から出ていった。



扉が閉まると同時に、キリが窓際から離れ、まっすぐソファへ向かった。



「私も行く。一度、王都を出る」



「…あ?ああ、そうか、分かった」


近づかれたロデオは、はっと顔を上げた。



「娘が、いつ起きるかは分からないが――」



「約束を違えて、申し訳なかった」



「…は?」



「リリアンヌを、命に替えても護るとお前と約束した。私は、それを破った」

キリは、表情も変えず一気に言い切った。



「…ああ」



「死んで詫びたいが、私は精霊王と、精霊探しに協力する約束をした」



「待て、待て!」


ロデオは、すかさずキリの言葉を止めた。



「キリ殿が命を懸けて娘を護ったことは、ブライアン殿下から聞いている」


部屋の隅で、ブライアンがこくりと頷いた。



城塞の六階が、ヌシカの手により崩壊した後――


リリアンヌとブライアンとキリがいるところに、ヌシカが現れた。


俺たちが、一階まで下りてザンビア兵を相手にしていた頃だろう。



キリはリリアンヌを庇い、代わりに城塞の外まで吹き飛ばされた。


だから異形の存在(ゼノプーパ)が現れる直前に、キリはひとり見張り台の外側から現れた。



「護れなかった挙句、リリアンヌに二度も白のちからで助けてもらった」

キリは、言葉を止めなかった。



「…それは、全員同じだ。皆、リリアンヌに助けてもらった」



「本当に申し訳なかった。何か罰があるなら、甘んじて受けよう」



「いや、そもそもな…」



「死ぬべきなら、精霊王との約束が終わってからでも許してもらえるだろうか」



「だから…っ」

ロデオが、もどかしそうに眉を寄せた。



「お前は、悔しいのか」



「……」


キリの視線が、ゆっくりとレックスに移った。



「お前は、悔しいんだな。リリアンヌを護れなかったと思っている」

レックスは、まっすぐにキリを見据えた。



「私は…何もできなかった」


その瞳は、静かに怒りで燃えていた。



「強大なちからの前で、私はあまりにも無力だった」



「皆、同じ気持ちだ。お前だけじゃねぇ」


リリアンヌが異形の存在を消すところを、誰もが見ていることしかできなかった。



「悔しければ、もっと強くなれ。お前がそう言ったんだろ」



「……」


キリは何も答えなかった。



「楽な方に逃げるな。リリアンヌに助けてもらった命を、有効活用しろ」


死ねば、それで終わりだ。



悔しさも、怒りも、苦しさも。


何もかもに耐えるより、ずっと楽な道だ。



「今後、リリアンヌのために何ができるか考えろ。お前も…お前らもだな」


レックスは、同じような表情を浮かべている者たちをゆっくりと見渡した。


誰もが、口を引き結んでいた。



ふいに、キリはロデオに顔を向けた。



「それでいいのか」



「……」


ロデオはしばらくキリを見上げ、静かに口を開いた。



「…リリアンヌは、貴殿のことを好いている。これからも、傍にいてくれないか」



「…分かった。リリアンヌが目覚める頃には戻る」


キリはそれだけ言うと、扉から静かに出ていった。



「…どこへ行くかも言わないのか」

ロデオは、呆れるように呟いた。



「放っておけ。十分、協力した」


キリは、スワハマの捕縛だけでなく、聴取にも素直に応じた。


リリアンヌがいなくても、ここまで協力した。



「…それで、ブライアン。お前も話があると言ったな」


レックスは、部屋の隅で佇む息子へ目を向けた。



聴取ついでに、この場に残させていたが。


こいつから話があると言われるのは、初めてのことだった。



「…はい」



「ブライアン殿下、我々は一度退出するか」



「いいえ…全員、そのままで結構です」


ブライアンは腰を上げたロデオに手を向けると、レックスの前まで進んだ。



「父上。この遠征から戻ったら、僕は正式に騎士になるという話でしたね」



「ああ、そうだな」


従騎士の期間が終われば、継がせる仕事も決めている。



「その話、保留にしていただけないでしょうか」



「…なぜだ?」



「僕は…まだ、修行が足りない」


ブライアンの顔が、わずかに歪んだ。



「ですから、父上。僕を、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)に入れてください」



「…あ?」



「フォセ隊長には、もう了承を得ています。僕を、アランフォース副団長のもとにつけてくれませんか」



「…何言ってんだ、お前」



「アランフォース副団長」


ブライアンは振り返ると、扉側に向けて姿勢を正した。



「あなたのもとで、従騎士として働かせてください」



「……」

アランフォースは答えず、じっとブライアンを見つめていた。



「王太子という立場は、関係ありません。僕は、強くなりたい」



「おい、待て。ブライアン」



「なんでしょうか」

ブライアンは、再びレックスに体を向けた。



「王族を護る部隊に王子がいるなど、おかしな話だと思わないか」



「それなら騎士団に属さず、アランフォース副団長の従者でも構いません」



「……」


こいつは、こんな強引だったか。


…ああ、そうか。



「お前も、悔しいのか」



「…っ」

ブライアンは、強く唇を噛みしめた。



「お前は、王太子だ。騎士を目指しているわけじゃねぇ」



「…分かっています」



「それでも、強くなりたいんだな?」



「はい」


ブライアンの目には、強い決意が宿っていた。



「おい、アランフォース。面倒を頼めるか」


レックスは、まるで使いを頼むかのように言った。



「期間を区切る。リリアンヌが目覚めるまでだ」



「…私は、手加減できませんよ」

アランフォースの視線は、ずっとブライアンへ向けられていた。



「はい。手加減など、いりません」



「特別扱いは、一切しない」



「もちろんです」



「…では、明日から。それでいいか」



「はい…!よろしくお願いします、アランフォース副団長」


ブライアンは背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。



「父上、フォセ隊長に伝えてきます」


失礼します!と、勢いよく執務室から出ていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ