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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十章/残された男たち
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闇に沈んだ者の末路

スワハマ視点



「はぁっ…はぁっ…」


暗闇の中、手探りで森を進んでいった。



手持ちは、わずかな金と宝石しかない。


だが、それさえあれば、どうとでもなる。



辺りに、灯りは見えない。


巡回している守衛隊もいないようだ。



突然、ヌシカから貰ったちからが使えなくなった。


それと同時に、一気に不安が押し寄せた。



頭では、ヌシカに何かされたことは分かっていた。


だが感情をむき出しにするのは、これ以上なく心地良かった。



精霊が手に入れられる。


あのレックスを、仕留められるかもしれない。


儂が、王になれるかもしれない。


そう考えると、笑いが止まらなかった。



本体を町に隠していたのは、わずかばかり残っていた理性に従ったからだ。


正解だった。



やはり、国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)は強かった。


ザンビア兵だけでは、まったく太刀打ちできていなかった。


聖守護騎士団(サークラグラディウス)も…まあ、期待はしていなかった。



それでも、ヌシカがいる限りは負けることなどないと思っていた。


だが、ちからが使えなくなったということは――


消えたのだ。



あの、とてつもない恐ろしい存在がいなくなった。


安堵すると同時に、本当に消えたのか、不安になった。



もし死んでいなければ、


与えたちからを取り消したのなら、儂はお役御免ということだ。



消されるかもしれない。



分身だからこそ、ヌシカに近づいても平気だった。


ちからがなくなった今、対抗できる術が何もなくなってしまった。



早く、誰か状況を知らせてくれ。


そう願っても、いつまでも聖守護騎士団は帰ってこなかった。



襲撃した日から、丸二日が経った。


早馬なら、もうとっくに儂のもとへ報告が届いているはずだ。


成功したとも、失敗したとも報せがない。



レックスが生きていたら、終わりだ。


だがそれよりも、ヌシカに見つかることの方がよほど恐ろしい。



精霊など、もう懲り懲りだ。



体が震え、うまく足が動かない。


せっかく灯りを消しているのに、茂みを掻き分ける音が辺りに響いた。



王都から出て、どこに逃げればいい。


どこに行けば、ヌシカから逃げられる。


北は、絶対に駄目だ。


それなら、我が領か。



考えているうちに、ようやく目的の場所に辿り着いた。



町外れの森に、我が一族が長年かけて作った抜け道がある。


第三城壁二塔の内側から、六塔の外側まで繋がっている。


中に潜れば、軽い装備も置いてある。


あと少し――



「そこまでです、スワハマ大教主」


辺りが、一気に眩しくなった。



「…!」


スワハマは目を細め、素早く周囲を見渡した。


いつの間にか、囲まれている。


守衛隊どもだ。



「ずっと探していましたよ。…まさかあなたが、町に宿を取っているなど想像もしていませんでした」


いくつものランタンに照らされながら、二人の男がゆっくりと近づいてきた。



「…間違いなく、本体ですね?」


モノクルを押し上げる男の横には、黒い軍服の若騎士が並んでいた。


絶対に逃がすまいという顔で、こちらを睨んでいる。



国王直属騎士団がここにいるということは…レックスは、生きている。


ヌシカを…まさか、こいつらが倒したのか…?


それなら、まだ…



「…る、ルイージ宰相…!儂は、操られていたんだ!」


スワハマは、その場で勢いよく両手をついて座り込んだ。



「精霊王の側近と名乗る精霊だ…!精霊だぞ!本当だ!」



「ええ、聞いています。あなたは、そのヌシカにちからを与えられたはずだ」


答えるルイージの声は、冷たかった。



「ちからなど、与えられていない!ただ操られていただけだ!」



「それは、後ほどたっぷり伺いましょう」



「ま、待て…ルイージ!儂は、この歳だ!無理に連行しないでくれ。お前に従うと約束するから」



「…ここまで駆けてきた人が、何を言っているのでしょうか」


ルイージが、呆れたように溜息をついた。



「…立たせて差し上げろ。抵抗しないようなら、手荒な真似はするな」



「はっ」


守衛隊の兵たちが、スワハマの周りに駆け寄った。



「はぁ、はぁ…ああ、体に堪える」


スワハマはわざとらしく立ち上がりながら、口元の笑みを隠した。



こいつは、相変わらず甘い。


どうせ、行き先も監獄ではないだろう。



儂を丸裸にしなければ、決してルイージのちからは効かない。


延々と、出鱈目だけを口にしてやろう。


あとは、捕まったであろう聖守護騎士団やレオたちと、どう話を合わせるか…



「…は」


ふと上げた視線の先に――



尖る耳の男が、立っていた。



「…ぎゃあぁぁぁぁ!」


スワハマは、絶叫した。



「…!?スワハマ大教主!?」



「あっ…う、あ…」


ルイージに、答えている場合ではない。


灯りに照らされ、耳の尖った人物の姿がはっきりと見えた。


蝋人形のような顔で、こちらをじっと見つめている。



精霊だ。


まだ、精霊がいる。



「くっ、来るなぁぁっ!」


スワハマは、兵たちが掴んだ腕をがむしゃらに振り回した。



「スワハマ大教主、落ち着いてください」



「寄るな!儂に、触れるな!」


ルイージの伸ばした手を弾き、その後ろの精霊へ目を向けた。



「ひっ…」


これだけ叫んでいるのに、微動だにせず佇んでいる。


感情のない紫の瞳に、灯りが揺れた。



「い、いい加減にしろ、化け物が…!」


スワハマは、懐からナイフを取り出した。



――ダンッ…!


「ぬぅっ…!」


国王直属騎士団の若騎士に手首を強打され、ナイフが吹き飛んだ。



「…!」


影を感じ、すぐに顔を上げた。



いつの間にか、精霊が目の前まで迫っていた。



「…ぎゃあああああ!」



「もう、手遅れだ」


紫の瞳の男が、こちらを見つめたまま静かに言い放った。



「あ…ああ…」


ああ――終わった。


精霊に…



「こいつは、もう駄目だ」


――殺される。



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