序章Ⅰ(セスランディアという国について)①
リリアンヌ視点
「この世界は、精霊王オーリアによって創られました」
その言葉にリリアンヌは、はっと顔を上げた。
「この地を支配していた悪魔を、精霊王が精霊たちを率いて征伐したことが、この世界の始まりだと言われています」
語る男は、カッ、カッ、と靴音を鳴らしながら、部屋の中をゆっくりと往復した。
「精霊王は、この地に四つの種族を生み出し、それぞれに特徴を与えた。
エルフ族には、命を。
獣人族には、力を。
ドワーフ族には、技術を。
そして我々人族には、知識が与えられました」
「はい、マルコ先生」
リリアンヌは、素早く手を挙げた。
「ここでいう命とは、寿命のことですね?」
「ええ、おっしゃる通りです。リリアンヌお嬢様は、本当に理解がお早い」
マルコは、満足そうに頷いた。
「四つの種族はお互い協力し、助け合い、精霊と共生していました」
「…!」
リリアンヌは、わずかに体を強張らせた。
「精霊は喜んで人々に加護を与え、加護を授かった者は、“特別なちから”を使えるようになりました」
マルコは構わず、ゆっくりと続けた。
「特別なちから…」
ぽつりと、その言葉を繰り返した。
「そして、特別なちからを持つ者のことを、我々は“特別なちからを持つ者”と呼んでいます」
「マルコ先生、アニマソムニアとは、どういう意味なのでしょうか」
「ですから、特別なちからを持つ者を指す言葉です」
マルコは、にこりと笑って答えた。
「その者たちによって、この地は大きな発展を遂げました。
中でも約九百年前、素晴らしいちからを授かった青年が、この地――セスラ大陸を、精霊王に代わって統治するようになりました。
その人物こそが、偉大なる初代セスランディア王――アンドレー・セスランディアです」
「……」
リリアンヌは、そっと口を閉じた。
「初代セスランディア王は、後に、二十の臣下に国を分け与えました。
そのため、この地にはセスランディア王国以外にも国が存在しているのです」
マルコはリリアンヌの前まで進むと、机に広げられた地図を軽く叩いた。
「ただ残念なことに、臣下の子孫たちはその恩を忘れ、領土を巡って各地で戦争が起こるようになりました。
二十あった国は滅亡や統合を繰り返し、今では十一まで減りました」
「この中央が、セスランディア王国ですね」
「ええ、その通りです」
リリアンヌが指した場所は、十一のどの国よりも巨大だった。
「さて、精霊の話に戻しましょう。
精霊は過去に、動物や虫など、様々な姿をしていたと言われています。
その体は淡く光り、それぞれが特別なちからを持っていました」
マルコは地図から目を離すと、再び靴音を響かせた。
「ですが、現在の精霊は、目に見えることはありません」
「…目に見えないのですか?」
リリアンヌは慎重に尋ねた。
「ええ。長い年月を経て、精霊のちからが弱まってしまったのです。
形ある存在ではありませんが、様々なものに宿り、我々を見守っていると言われています。
この話については、わたくしより、オーリア教の担当教師に伺った方がよいでしょう」
「……」
「おっと、失礼。リリアンヌお嬢様のご年齢でしたら、信仰に関する授業はまだでしたね」
マルコは、大仰に自分の額を叩いた。
「お嬢様はあまりにも優秀なため、まだ六歳でいらっしゃることを忘れてしまいます」
「…ありがとうございます。とても光栄です」
リリアンヌは、小さく笑って答えた。




