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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第十章/残された男たち
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決着の裏側①

レックス視点



体に、温かいものが流れた。



「…あ?」


自分の体が、白く光っている。


潰れたはずの右手が、綺麗に治っていた。



隣でぴくりとも動かなかったブライアンが、静かに上体を起こした。


倒れていった国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)の騎士たちが、そこら中で立ち上がる気配がした。



「…ナナ!ポポ!」


聞こえた声に、はっと正面を向いた。



「ギイイイイャアアアアア…!」


異形の存在(ゼノプーパ)の体が膨らみ、棘を突き出した。


すかさず、黄緑と桃色の光が襲いくる棘を防いだ。



「スノウ…!いくよ!」


両手を前に伸ばすリリアンヌの体が、白く光った。


まるで繋がるように、黒い巨体も光に包まれた。



「ゲギャアアアアアアアアアアアアア――…ッ!!」


咆哮と同時に、足元が大きく揺れた。


無数の棘が弾け飛び、手当たり次第に城塞を貫いていく。



――バチバチッ…


バリバリィィ…ッ!



精霊たちが、猛攻からリリアンヌを護っている。


その間も、異形の存在は白い光に呑まれたままだ。



――拘束している。


いや…違う。


直接、心臓を消そうとしているのか。



胸元に渦が生まれ、揺らめく光が現れた。


露出した心臓の光が、徐々に縮んでいく。



異形の存在そのものを、消し去ろうとしているのか。


そんなことが――できるのか?



「…あぁっ!」



「!」


小さな肩を、棘の切っ先が貫いた。


その瞬間、ようやく体が動いた。



レックスが前に出るより先に、素早く人影が割り込んだ。


アランフォースが、胸壁の上でよろめくリリアンヌの体を支えた。



ふたりの頭上から、崩れた瓦礫がいくつも降り注いだ。



――ドドドドドド…ッ!


ブライアンが、すかさず光の連撃で吹き飛ばした。



撃ち落としきれなかった瓦礫が、まっすぐリリアンヌの上へ落ち――



――ゴッ…!


レックスは、咄嗟に剣で叩き落とした。



「…お前ら、リリアンヌを護れ!」


そのまま、鋭く口を開いた。



「周りを囲め!邪魔をさせるな!」



「はっ!!」


同じように固まっていた騎士たちが、一斉に動き出した。


すぐにリリアンヌを囲むように見張り台の端へ展開し、


上から降ってくる瓦礫を剣や腕で次々と弾き飛ばしていった。



城塞が、崩壊し始めている。


この足場も、まもなく崩れるだろう。


だが、今はそんなことはどうでもいい。



死ぬ覚悟で、いたはずだ。


それなのに。



――消せ!



そう、強く願っていた。



ふいに、朝陽が差し込んだ。


一気に、辺りを覆っていた雲が晴れていく。



「オ、オ、オ…リ、ア…サマ…ァァァ」


異形の存在が、か細い声を上げ――消えた。



それと同時に、リリアンヌが力なく倒れ込んだ。


後ろから、アランフォースが両手で抱きかかえた。



「リリアンヌ…!」


ブライアンがすぐに駆け寄った。


レックスは剣を収め、その横に並んだ。



リリアンヌの顔が、真っ白だ。


左肩から、血が流れ出ている。



「…マコ!」



「はいっ…!」


マコはすぐに駆け寄ると、リリアンヌに触れた指先を白く光らせた。



「リリアンヌ殿下…っ」


汗と涙をこぼしながら、懸命にちからを使っている。



左肩の血が、止まった。


それでも、顔は白いままだった。



「リリィ!」



「!」



「下に、アイラ殿がいる!」


崩れた見張り台の端から、サイラスが現れた。



「早くしろ!」


その言葉と同時に、アランフォースはリリアンヌを抱えたまま、


躊躇いなく見張り台から飛び降りていった。



「陛下。我々も今すぐ下りましょう」


エドガーが、隣に並んだ。



「……」


レックスは答えず、胸壁から下を覗き込んだ。



地面は、遥か下だ。


リリアンヌを抱えるアランフォースのもとに、アイラやロデオたちが瓦礫を越えて駆けてくるのが見えた。



――ゴゴゴゴゴッ…


足元が、大きく揺れた。



「私が抱えます。急ぎましょう」



「死んでもごめんだ」



「…では今度こそ、この手に触れてください」


エドガーが、静かに手を伸ばした。



レックスは、ようやくその手に触れた。



切り替わった視界の先に、リリアンヌを抱えて屈むアランフォースの背があった。


その横に、キリがいる。



――ドォォォンッ…!


今までいた見張り台が、崩れた。


城塞の至るところに穴が空き、内側がむき出しになっている。



サイラスが、マコを抱えて飛び降りるのが見えた。


ブライアンも騎士たちに交ざり、壁を下りてきている。



レックスは、再びリリアンヌへ視線を戻した。



「リリアンヌ殿下…!」


駆けてきたアイラが、勢いのまま両膝をついた。


両手を伸ばし、リリアンヌに触れ――



「ホ~」


その肩に、ふくろうの精霊がとまった。



「…え?」


そのまま――アイラの体が、白い光に包まれた。



「アイラ殿、頼む」

アランフォースが、急くように言った。



「…はい」


頷くと共に、白のちからを放った。


眩い光が、辺り一面を覆った。



「…すごい」


アイラが、呆然と声を漏らした。



「…起きない」


キリが呟くと同時に、光が収まっていった。



リリアンヌの顔に、赤みが戻っている。


それでも、目は閉じたままだ。



「リリィ…!」


ロデオが、震える手で娘の肩に触れた。



「お願いだ…起きてくれ!」


その後ろに、サイラスも戻ってきている。


ただ静かに、強く拳を握りしめていた。



「……」


レックスは、目を閉じたままのリリアンヌをじっと見下ろした。



なぜ――目覚めない。



見る限り、国王直属騎士団のほとんどが無事だ。


援軍も、巻き込まれなかった。



なぜ、皆を助けたお前だけが、目覚めない。



「…しばらく、眠らせてあげてくれないか」


ふいに、リリアンヌの足元付近から緑の光が溢れた。



「大丈夫…死んだりしないよ」


溢れた光が徐々に膨らみ、人の姿になっていく。



「ただ少し、時間が必要なだけだ」


現れた人物は――レックスに、まっすぐ視線を向けていた。



「……」


レックスは、険しい表情で現れた人物を見据えた。



何だ、この男は。


今まで感じたことのない、形容しがたい気配。


人とは、まったく違う。


まるで、自然の脅威そのものを前にしているような――



「人族の王よ。我は、精霊王オーリアと言う」



こいつが――精霊王。



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