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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第九章/ザンビア砦の戦い
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精霊たちの時間③

リリアンヌ視点



「…明るい話を、しようか」


オーリアは穏やかに微笑み、繋いだ手を離した。



「…はい」


今は、どうやっても教えてくれなさそうだ。


いつか伝えてくれるのなら、待つしかない。



「君のおかげで、森の一部が生き返った」


オーリアが、ゆっくりと辺りを見渡した。


つられて、周りへ目を向けた。



「デューゼの森は、ずっと死の森だった」


物語でも、森の草木は枯れ、瘴気にまみれていた。



「少し、歩こうか」


「はい」


立ち上がって隣に並び、オーリアの大きさに驚いた。


首を真上に向けないと、顔が見えない。



二人で、静かで穏やかな森をゆっくり歩いていく。


ナナたちの光が、時折視界を通り過ぎていった。


遊びながら、ついてきているようだ。



「水が湧き、北の山脈から川が繋がった」


オーリアが目を向ける方に、小川があった。



「この水を求めて、鳥たちがやってきた」


大きな鳥が、何羽も水辺で休んでいる。


また違う鳥がピィィ…と鳴き、樹々の周りを羽ばたいていた。


黄緑、紫、桃色の光が、くるくる回りながらその鳥についていく。



「精霊たちは、遊ぶのが好きなのですね」


思わず、くすっと笑った。


スノウとも、同じようなことをしていた。



「そうだね。精霊は、楽しいことが大好きだ」


オーリアは優しく微笑むと、再び小川に視線を向けた。



「鳥たちが、花を運んでくれた」


小川の周りには、鮮やかな花がたくさん咲いていた。



「綺麗…」


まるで、絵画のようだ。


ブライアンが見たら、きっと喜ぶだろう。


そう思ったら、また笑みがこぼれた。



オーリアは、小川に沿ってさらに先を進んでいった。


聖樹のように立派な大樹が出てきた。


大樹の麓には、大きな岩がある。



「ここが、我のお気に入りの場所だ」


オーリアはその岩の前で足を止め、ゆっくりと腰掛けた。



「暖かくて、気持ちいいんだ」


隣を、とんと軽く叩いた。


座れということだろう。


岩は大きくて、よじ登らないと座れそうもない。



「ああ…ごめんね」


「!」


リリアンヌの体が、ふわりと宙に浮いた。


そのまま大岩の上へ運ばれ、ゆっくりと腰掛けた。



「今のは、風のちからでしょうか?」


キリが同じように軽やかに浮かぶところを、何度も見てきた。



「そうだよ。エルフたちと、お揃いだ」



「それなら…オーリア様は、見つけるちからも持っていらっしゃるのですか?」



「もちろん。持っていないちからを、渡すことはできないからね」



「へぇぇ…」


一体、オーリアはいくつちからを持っているのだろう。



そのまま、自然と会話が途切れた。


小川のせせらぎや、草木の揺れる音が、優しく耳を通り過ぎていく。



「…暖かい」


岩の上には、ほんのりと木漏れ日が差し込み、暖かかった。


夢の中にいるのに、眠ってしまいそうだ。



「あ…そうだ」


リリアンヌは、はっとオーリアへ顔を向けた。


眠ってしまいそうで、思い出した。



「ナナたちが、私に加護をくれました。あれは、一時的なものだったのでしょうか?」


異形の存在(ゼノプーパ)を倒す間に感じていた繋がりを、今はもう感じない。



「そうだね。精霊が四匹も加護を与えたら、今の君ではもたないから」



「…もたない?」



「まだ、器が小さい。ちからが上回って、耐えられなくなる」



「ああ…まだ、子供だからですね」


まだ体が小さいから、たくさんの加護に体が耐えられないということだろう。



「器とは、体の大きさのことだけではないよ」


オーリアは、そっと首を振った。



「ちからを使えば使うほど、その器は大きくなる」



「あっ…だから、ちからも鍛えられる?」



「そうだね。君の器は、まだまだ成長するよ」


今度は頷き、優しく目を細めた。



「ナナたちは、君が望むなら、いつでも加護を渡すと言っている」



「…!本当…」


胸が、じわりと温かくなった。



「どうする?君は、望むかい?」



「……」


リリアンヌは、精霊たちに目を向けた。


今は鳥の背に乗って、一緒に小川で休んでいる。



「…いいえ」


ゆっくりと、首を振った。



「あの子たちにはここで、ゆっくり過ごしてほしいです」


ザンビア砦では、何度も戦いを無理強いしてしまった。


攻撃も、受けた。



精霊が戦う必要なんて、ない。


ナナたちに、もう悲しい思いをさせたくない。


それに。



「私には、スノウがいてくれるから」


あの愛くるしい表情を思い出して、自然と頬が緩んだ。



「…加護のちからを、使ったんだね」


オーリアの声は、優しかった。



「はい。スノウのちからで、倒すことができました」


初めて、スノウにちからを借りた。


おかげで、あれだけ強い異形の存在を消滅させることができた。



「この…能力増幅のちからで」



「ん…?スノウが持っているものは、そのちからではないよ」



「…えっ?」


リリアンヌは、きょとんと目を瞬いた。



「違うのですか?」



「スノウは、吸収のちからだ」

オーリアは、あっさりと答えた。



「…吸収?何を、吸収するのですか?」



「それはもちろん、特別なちからをだよ」



「吸収して…使うことができるのですか?」



「スノウの場合は、そうだね。そうだな…例えば」

オーリアは考えながら、ゆっくりと続けた。



「スノウが君に触れている時に、君が白のちからを使えば、スノウはそれを吸収できる。

吸収したちからは、スノウ自身も使うことができる。ここまでは、いいかな」



「…はい」


覚えが、ある。


ナナたちを見つけた時、スノウは、私の白のちからを使っていたんだ。



「君が白のちからを使う時、その吸収した分を君へ重ねて解放することもできる。

君を介して解放した方が、そのちからはより強力になる」



「……」


まだ、分かる。


異形の存在を消し去れたのは、スノウがその方法を取ったからだ。



「そしてスノウは、吸収したちからを、同じちからを持つ者を介しても解放することができる」



「へぇぇ…」


霊拝師(オランス)たちは全員、私から吸収した白のちからを使えるということだ。


それは、すごい。



「ただしスノウは、君が心から信頼している人にしかそのちからは使わない」



「あ…解放する相手は、限られているのですね」



「スノウは、君からちからを吸収しているからね。

君が望まないような形では、そのちからを決して使わない」



「…ん?」


はたと、気付いた。



「…あの、オーリア様。スノウは、剛腕のちからを持つ者の手助けをしました」



「そうだね」

オーリアは、すぐに頷いた。



「加護がなくても…スノウのちからを使うことができるのですか?」


私は、剛腕のちからを持っていない。


それならスノウは、アランフォース自身のちからを吸収して、アランフォースへ解放したはずだ。


加護を持つ私と同様に、スノウのちからが使えるのだろうか。



「いや、できないよ。他者を介して解放することはできるけど、スノウ自身が吸収するのは、加護を与えた者のちからだけだ」



「…?」


それならどうしてアランフォースは、王城の地下でスノウのちからを使うことができたのだろう。


あれは、ただ光っていただけではない。


実際に、ちからが増したように見えた。



「その者もまた、スノウの加護を宿しているから使えたということだ」



「あ…えっ!ええっ…!」


リリアンヌの驚く声が、静かな森に響いた。



アランフォースが――スノウの加護を、宿している…?


まったく知らなかった。



スノウを見つけた時、一緒にいたからだろうか。


アランフォースは、初めから気付いていたのだろうか。



「君は…よほど、その者を信頼しているんだね?」



「…!」



「スノウは、君がその者を強く信頼しているから加護を分けた」

オーリアは、穏やかに続けた。



「そしてスノウは、彼が、君を必ず助ける者だと判断した」



「…はい、その通りです」


リリアンヌは恥ずかしそうに、こくんと頷いた。



「いつでも助けてくれて…とても頼りになる、かけがえのない人です」



「…そう」


オーリアの見つめる顔は、ひどく優しかった。



「…ようやく――」



「…オーリア様、今、何か言いましたか?」


何か、呟いた気がした。



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