現れた光①
レックス視点
「…大砲、撃て!」
レックスの号令と同時に、
四か所の大砲から、砲弾が放たれた。
――ドドドドォォォンッ…!
異形の存在の胸元が、わずかばかり凹み――すぐに塞がった。
「…ちっ」
分かってはいたが…さすがに、堪える。
胸元を裂く弩砲もない。
あったところで、届くとも思えない。
倒し方が、分からない。
「ギィィヤァァァァァァ…!」
異形の存在の体が大きく膨らみ――ドンッと弾けた。
――バチバチバチィッ…!
桃色の光が広がり、その攻撃を止めた。
光は小さくなると、キリのところへ戻った。
「…大砲、用意!」
レックスは、再び号令を飛ばした。
「父上っ!」
「!」
ブライアンが、外壁を伝って下りてきた。
頭から、血を流している。
「お前――」
「僕も戦います!」
ブライアンはレックスに並ぶと、左手を正面に突き出した。
――ドドドドドドドドッ…!
何十発もの光の連撃が、異形の存在の胸元めがけて放たれた。
「ギャアアアアアアアア…!」
異形の存在が、嫌がっている。
体をよじらせ、再び棘を弾き出した。
――バチバチッ…
バチバチバチィッ…!
棘が届く前に、桃色の光が素早く防いだ。
――ドドドドドドドッ…!
隣にいるブライアンが、少しずつ前に躍り出た。
周りで、紫の光が飛んでいる。
先端の胸壁に立つキリも、前に手を伸ばしている。
風のちからか。
ず、ず、ず――と、異形の存在の胸元に穴が開き始めた。
「…大砲、撃て!」
四つの砲弾が、一斉に放たれた。
――ドォォォォンッ…!
胸元が、爆ぜた。
「弓隊、構え!」
エドガーが、後ろから号令を飛ばした。
「放て!」
――ヒュン、ヒュンッ…!
矢は高く放物線を描き――胸元に届いた。
さらに、胸元に開く穴が広がった。
さすが、聖守護騎士団が金をかけただけの矢だ。
…いける。
もう少しで、心臓の光が現れそうだ。
それさえ、貫けば――
「ギイヤァァァァァァァ――…!」
ゴゴゴゴゴ…ッと足元が大きく揺れた。
異形の存在の体から、一気に棘が弾け出た。
何本もの棘が、レックスたちのいる見張り台を襲った。
――ドゴゴゴゴゴッ…!
辺りの壁が、砕け散った。
「…!」
レックスは、咄嗟に腕で顔を庇った。
砂埃が収まるより先に、顔を上げた。
胸壁が、ごっそり抉られている。
先端にいたはずのキリが、消えていた。
「…ぐあっ…!」
ブライアンが瓦礫の下敷きになり、動けないでいる。
「…くそっ」
まだだ。
「怯むな!撃ち込め!」
「休まず放て!合図を待つな!」
レックスとエドガーは、同時に号令を飛ばした。
「砲弾がなければ、瓦礫をくれてやれ!大砲を止めるな!」
まだ、まだだ。
まだ、止めてやるものか。
「ギャアアアアアッ…!」
放たれた棘により、また地面が大きく揺れた。
もう、城塞が崩れてしまいそうだ。
――ドドドドドッ…!
再び光の連撃が、異形の存在の胸元めがけて撃ち込まれた。
その軌道を追うように、砲弾が次々と同じ箇所へ向かっていく。
「…諦めるかぁ…っ!」
ブライアンは瓦礫に潰されたまま、まだ光の連撃を繰り出していた。
体の下には、血溜まりが広がっている。
「…もっと矢を放て!」
レックスはブライアンから目を離し、正面を睨みつけた。
「陛下!」
「!」
「リリアンヌ殿下を連れてきました!」
アランフォースが、横に並んだ。
「…エドガー!」
「…はっ」
エドガーが振り返り、駆けていった。
「リョーマ!」
リョーマが顔を向け、短く頷いた。
…これでいい。
リリアンヌさえ、生きていれば。
「ゲギャギャギャァァァァァ…!」
異形の存在が、ひと際大きな棘を突き出した。
――ドォンッ…!
棘は、見張り台の一角をまっすぐ貫いた。
瓦礫が次々と崩れ、騎士たちが埋もれていく。
――ゴッ…!
アランフォースが、ブライアンを押し潰す瓦礫を蹴り飛ばした。
ブライアンはうつ伏せに倒れたまま、ぴくりとも動かない。
アランフォースはそのまま端で踏み切り、外壁を駆け登った。
その勢いのまま、異形の存在の胸元へ一気に跳んだ。
巨体から、棘が弾け出した。
アランフォースは棘を足場に駆け、胸元に大剣をねじ込んだ。
連撃するように、いくつもの矢が放たれた。
「ギャアアアアアアアアアアア――ッ…!」
――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ…!
異形の存在の繰り出した無数の棘が、辺りを破壊した。
――ボゴォォンッ…!
アランフォースが、城塞の壁に吹き飛ばされた。
力なく垂れた腕だけが、壁際に見えた。
もう、立っている者も少ない。
だが、まだ諦めるものか。
レックスは、落ちている弓を咄嗟に拾った。
――ゴッ…!
伸ばした手の上に、瓦礫が直撃した。
「…ぐっ…」
右手を、潰された。
「…くそっ!」
瓦礫の下から、強引に右腕を引き抜いた。
手袋の外れた右手から、どろりと血が垂れた。
…リリアンヌは、援軍のもとへ送られたのか。
援軍の中には、絶対にロデオがいる。
あいつが、今後のことを引き継ぐ。
「……」
レックスは重い足を前へ進め、巨大な異形の存在を見上げた。
これの正体は――
恐らく、ヌシカだろう。
瘴気が精霊の呪いなら、
異形の存在もまた、人族を呪った精霊だ。
ようやく、分かった。
精霊が、人族を呪いたくなる理由が。
化け物になってまで襲う理由が。
すべてを気付かせたのは、リリアンヌだ。
…そう、目の前にいる――
「…あ?」
崩れた胸壁の上に、
四つの光を引き連れた少女が現れた。




