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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第九章/ザンビア砦の戦い
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運命が動くとき②

リリアンヌ視点



アランフォースは、城塞の中腹にある足場に着地した。



「怯むな!撃ち込め!」



「休まず放て!合図を待つな!」



「…!」


リリアンヌは、はっと顔を上げた。


国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)の騎士たちが、目の前で異形の存在(ゼノプーパ)と戦っていた。



「ギャアアアアアッ…!」


ドンッ、ドンッと異形の存在の体から棘が突き出て、辺りの壁を貫いた。


見渡す限りの外壁が、大きく崩れている。



「そんなっ…」



「殿下、落ち着いて」


反射的に前に出た体を、アランフォースが腕を引いて止めた。



「あなたが行く必要はありません」



「!?…で、でも、あの異形の存在を、早く」



「リリアンヌ殿下」


アランフォースは腕を掴んだまま、そっと跪いた。



「あなたは、ここからお逃げください」



「…え?」



「エドガー団長が、あなたを門の向こうにいる援軍のところへ送ります。そのまま、王都へお戻りください」



「な、何を、言っているの…?」


言葉が、飲み込めない。



「あなたはもう、戦わなくていい」

アランフォースは、まっすぐに言い切った。



「…嫌です。私も、戦います」

リリアンヌは、ゆっくりと首を振った。



こうしている間も、足元は大きく揺れている。


壁の崩れる音が、すぐ後ろから聞こえた。



「駄目です。もう、自分を傷つけなくていい」



「嫌です…っ!」



「リリアンヌ殿下」


優しく、手を握られた。



「あなたは、この国に必要な人です」



「アランフォース副団長こそ、必要な人です!」


じわりと、涙が滲んだ。



「違います」

アランフォースは、ふっと笑みを浮かべた。



「あなたのその優しいちからで、世界を変えてください」



「…!」


優しい…ちから。



「…どうか、ご無事で」


アランフォースは、リリアンヌの手を離し――


戦場へ駆けていった。



「…ま、待って!」



「駄目です!」



「えっ…!」


がくんと、体が止まった。



「い、行っては、駄目です…!」


マコは、リリアンヌの体を後ろから抱き留めた。



「マコ…!離して!」



「ここでっ…エドガー団長を待ちましょう!」



「だって…!あそこに、伯父上も」


戦場の前線で、国王が先陣を切って戦っている。



「陛下の、命令なんです!」



「…え」


ふわりと、二人の体が白い光で包まれた。


知らずに付けた手の切り傷が、ゆっくりと消えた。



「リリアンヌ殿下を、王都へ無事に返す…っ!それが、陛下の願いなんです…!」


マコの抱きしめる手は、がたがたと震えていた。



「リリアンヌ殿下の代わりは、いないんですから!」



「…っ…」


何を…しているのだろう。


マコにまで、全力で白のちからを使わせて。



悔しくて、涙が止まらない。



アランフォースが、レックスのいる前線へ辿り着いた。


それに気付いたレックスが、エドガーに合図を送った。



エドガーが、こちらに振り向いた。


私を、送るつもりだ。



「ゲギャギャギャァァァァァ…!」


異形の存在が放った棘が前線の足場を襲い、辺りに砂埃が舞った。


巻き込まれた騎士たちが、瓦礫に埋もれていく。



アランフォースが外壁を駆け登り、異形の存在の胸元に向かって高く跳んだ。


異形の存在の体中から、無数の棘が弾け出した。



あっという間に、アランフォースの姿が見えなくなった。



…嫌だ。



嫌だ。



みんなが…



大切な、人たちが。



誰か、



誰か…



お願い、



みんなを――



「…!」


目の前に、四つの光が現れた。


精霊たちが、静かに飛んでいる。


その目は、まっすぐリリアンヌを見つめていた。



そうだ。


誰か、じゃない。



私が、やらなきゃ。


私なら、できる。



「…そうだね」


リリアンヌの目に――力が宿った。



「…スノウ、ナナ、ルル、ポポ」


精霊たちを、順に見渡した。



「私に、ちからを貸して」


その願いに応えるように、精霊たちが光を膨らませた。


リリアンヌの体が、強い光に包まれた。



「えっ…わぁ!?」


マコが驚き、抱き留める手を離した。



「…あ」


温かいものが、体に流れてくる。


ナナたちも、加護をくれたんだ。



胸の奥まで、じんわりと満たされていく。


この温もりに、溶けてしまいそうだ。



「…消えたりしないでね」


リリアンヌは、周りを飛ぶ精霊たちに囁いた。



「絶対に、消えないで。…でも、あれを倒そう」


ゆっくりと、顔を上げた。



「ギャアアアアアアアアアアア――ッ…!」


まるで、勝利の雄叫びを上げているようだ。


だけど――



もう、好きにはさせてやらない。



「リリアンヌ殿下!」


エドガーが、目の前まで駆けてきた。


右手を伸ばしている。



「…ごめんなさいっ!」


リリアンヌはその手が届く前に――



前線へ、一気に跳んだ。



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