運命が動くとき②
リリアンヌ視点
アランフォースは、城塞の中腹にある足場に着地した。
「怯むな!撃ち込め!」
「休まず放て!合図を待つな!」
「…!」
リリアンヌは、はっと顔を上げた。
国王直属騎士団の騎士たちが、目の前で異形の存在と戦っていた。
「ギャアアアアアッ…!」
ドンッ、ドンッと異形の存在の体から棘が突き出て、辺りの壁を貫いた。
見渡す限りの外壁が、大きく崩れている。
「そんなっ…」
「殿下、落ち着いて」
反射的に前に出た体を、アランフォースが腕を引いて止めた。
「あなたが行く必要はありません」
「!?…で、でも、あの異形の存在を、早く」
「リリアンヌ殿下」
アランフォースは腕を掴んだまま、そっと跪いた。
「あなたは、ここからお逃げください」
「…え?」
「エドガー団長が、あなたを門の向こうにいる援軍のところへ送ります。そのまま、王都へお戻りください」
「な、何を、言っているの…?」
言葉が、飲み込めない。
「あなたはもう、戦わなくていい」
アランフォースは、まっすぐに言い切った。
「…嫌です。私も、戦います」
リリアンヌは、ゆっくりと首を振った。
こうしている間も、足元は大きく揺れている。
壁の崩れる音が、すぐ後ろから聞こえた。
「駄目です。もう、自分を傷つけなくていい」
「嫌です…っ!」
「リリアンヌ殿下」
優しく、手を握られた。
「あなたは、この国に必要な人です」
「アランフォース副団長こそ、必要な人です!」
じわりと、涙が滲んだ。
「違います」
アランフォースは、ふっと笑みを浮かべた。
「あなたのその優しいちからで、世界を変えてください」
「…!」
優しい…ちから。
「…どうか、ご無事で」
アランフォースは、リリアンヌの手を離し――
戦場へ駆けていった。
「…ま、待って!」
「駄目です!」
「えっ…!」
がくんと、体が止まった。
「い、行っては、駄目です…!」
マコは、リリアンヌの体を後ろから抱き留めた。
「マコ…!離して!」
「ここでっ…エドガー団長を待ちましょう!」
「だって…!あそこに、伯父上も」
戦場の前線で、国王が先陣を切って戦っている。
「陛下の、命令なんです!」
「…え」
ふわりと、二人の体が白い光で包まれた。
知らずに付けた手の切り傷が、ゆっくりと消えた。
「リリアンヌ殿下を、王都へ無事に返す…っ!それが、陛下の願いなんです…!」
マコの抱きしめる手は、がたがたと震えていた。
「リリアンヌ殿下の代わりは、いないんですから!」
「…っ…」
何を…しているのだろう。
マコにまで、全力で白のちからを使わせて。
悔しくて、涙が止まらない。
アランフォースが、レックスのいる前線へ辿り着いた。
それに気付いたレックスが、エドガーに合図を送った。
エドガーが、こちらに振り向いた。
私を、送るつもりだ。
「ゲギャギャギャァァァァァ…!」
異形の存在が放った棘が前線の足場を襲い、辺りに砂埃が舞った。
巻き込まれた騎士たちが、瓦礫に埋もれていく。
アランフォースが外壁を駆け登り、異形の存在の胸元に向かって高く跳んだ。
異形の存在の体中から、無数の棘が弾け出した。
あっという間に、アランフォースの姿が見えなくなった。
…嫌だ。
嫌だ。
みんなが…
大切な、人たちが。
誰か、
誰か…
お願い、
みんなを――
「…!」
目の前に、四つの光が現れた。
精霊たちが、静かに飛んでいる。
その目は、まっすぐリリアンヌを見つめていた。
そうだ。
誰か、じゃない。
私が、やらなきゃ。
私なら、できる。
「…そうだね」
リリアンヌの目に――力が宿った。
「…スノウ、ナナ、ルル、ポポ」
精霊たちを、順に見渡した。
「私に、ちからを貸して」
その願いに応えるように、精霊たちが光を膨らませた。
リリアンヌの体が、強い光に包まれた。
「えっ…わぁ!?」
マコが驚き、抱き留める手を離した。
「…あ」
温かいものが、体に流れてくる。
ナナたちも、加護をくれたんだ。
胸の奥まで、じんわりと満たされていく。
この温もりに、溶けてしまいそうだ。
「…消えたりしないでね」
リリアンヌは、周りを飛ぶ精霊たちに囁いた。
「絶対に、消えないで。…でも、あれを倒そう」
ゆっくりと、顔を上げた。
「ギャアアアアアアアアアアア――ッ…!」
まるで、勝利の雄叫びを上げているようだ。
だけど――
もう、好きにはさせてやらない。
「リリアンヌ殿下!」
エドガーが、目の前まで駆けてきた。
右手を伸ばしている。
「…ごめんなさいっ!」
リリアンヌはその手が届く前に――
前線へ、一気に跳んだ。




