表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/48

第一章Ⅴ(役目と役割)①

リリアンヌ視点



「お嬢様~?あれ…お嬢様ぁ~?」



「はいっ…はい!」


リリアンヌは、自室に繋がる扉を慌ててくぐった。



「んん?浴室の方で、何をしてたんです?まさか、ひとりで入浴されたのですか?」

廊下の方の扉から、ニアが訝しげに入ってきた。



「ええ、そう。お庭で遊んでいたら、汗をかいてしまったから…」

リリアンヌは、誤魔化すように上気した頬に手をやった。



「もう、お嬢様は勝手に何でもしてしまうんですから」

ニアはテーブルに食事の載った盆を置くと、リリアンヌの方へ近づいた。


「ちゃんと下着の場所とかは分かりましたか?もう一度入り直します?」



「えっ…ううん!大丈夫…!」

リリアンヌは、扉の前で首を強く振った。



「でも、髪も梳いてあげたいですし――」



「それより、私、お腹すいちゃった…!」



「ええ?」



「お昼ご飯を、食べます…!」

リリアンヌはニアの背を押して、テーブルの方へと戻した。



今、浴室に入られるわけにはいかない。

兄の服がなぜ洗って干されているのか、すぐにいい言い訳は思い浮かばない。



「…お嬢様は子供らしいのか子供らしくないのか、本当によく分かりませんね」

ニアは諦めの溜息をつくと、テーブルの椅子をそっと引いた。


「ここに来て二年になりますが、いまだに分からない、三大不思議のうちのひとつですよ」



「なあに、それ。あと二つは、どんなこと?」

リリアンヌは、くすっと笑いながらニアの引いた椅子に腰掛けた。



「ひとつは、奥様の美しさについてです」

ニアは内緒話するように、手を口に添えて囁いた。


「もうとっくに三十歳を超えられているはずなのに、ずっとお綺麗なままじゃないですか」



「う~ん…そうだね」


三十代は若いと思うけれど、


確かに、母アヴェリーンの美しさは異常だ。



「それからもうひとつは、使用人の少なさですね」



「えっ…少ない?」

リリアンヌは、きょとんと目を丸くした。




「ここは、王族のお屋敷ですよ?それが、全部で五十人ほどしかいないなんて、少なすぎます」



「充分だと思うけれど…」


そうは思うけれど、実際に家事をするのは使用人たちだ。


エラドリオール邸は、とても広い。

毎日お手入れするだけでも大変なのだろう。



「その代わり、衛兵さんたちはずっと多いですけど…でもそれは、仕方ないんでしょうねぇ」

ニアが苦笑を浮かべて言った。



「そういえば…エラドリオール邸の周りを巡回している衛兵は、お父様が雇っているの?」

リリアンヌは、ふと思い出したように尋ねた。


「それとも、城壁を護っている兵士と同じで、国で雇っている人たちなのかな?」



「そんな難しいこと、私に聞かないでくださいよ」

ニアが困ったように眉を下げた。



「後で、マルコ先生に尋ねてみてはどうですか?」



「んん…そうだね」


また、それ以上聞くなという笑顔を向けられそうだ。




「失礼します、お嬢様」


コンコンと扉がノックされた。



「お食事中、申し訳ありません」



「!ステファン、どうしたの?」


入ってきたのは、家令だった。



「明日のご予定の変更をお伝えに参りました」

ステファンはまっすぐに部屋を進むと、リリアンヌの座る横で足を止めた。



「…予定の変更?」



「明日の午後の授業は、すべて延期です」



「えっ…そうなの?」



「ええ。その代わり、エレメア王妃主催の茶会に、奥様とご一緒に参加していただきます」



「…あ」



「わっ、久しぶりの登城ですねぇ~!」

壁際に下がっていたニアが、嬉しそうな声を上げた。




「茶会には、お嬢様と同年代のご令嬢方も参加されますよ」



「ええと…ステファン、従兄弟たちは参加しないのかな?」



「今回は、残念ながら参加しないようです」



「…そう」



「お嬢様の行儀作法は、完璧です」

ステファンは優しく微笑み、諭すように言った。


「王族の一員として、もっと胸を張ってお務めに励んでください」



「…はい」

リリアンヌは困ったように頷いた。




「今日の授業では、マルコ先生に、王族としての心得を教えてもらうといいでしょう」



「分かったわ」



「ニア、明日の準備は頼みますよ」



「もちろん、お任せください!」



「それではお嬢様、また後ほど」

ステファンはまっすぐ扉まで戻り、一礼して出ていった。



「お嬢様、登城ですってよぉ!腕が鳴りますね~」

扉が閉まるなり、ニアが歌うように言った。



「…うん、そうだね」


これで、明日は薬療院に行くことができなくなってしまった。


また明日、と言ったのに。

シルヴィアに、不真面目な生徒と思われたらどうしよう。



「お嬢様は、本当にお茶会が苦手ですねぇ。人とお話しすることは好きなのに、何が嫌なのです?」

ニアは不思議そうに首を傾げた。



「…嫌というわけではないけれど」


ただ――薬療院に行けないと思ったら、気分が沈んだ。




「それにしても、エレメア王妃はもうすぐお子様がお生まれになるのに、随分と間際までお茶会を開かれるんですね」



「え…あ、そうなの?」



「ありゃ、お嬢様は知りませんでしたか」



「エレメア様、妊娠されていたのね」



「そうですよぉ。もうすぐ、お嬢様のいとこが生まれるんです」

ニアが再び歌うように言った。



「ニア、嬉しそうだね」



「それはもう!王子様か王女様がご誕生されるのですから、国の一大事です」



「そうだね」



「お生まれになったらまた、盛大に祭りも開かれるでしょうね」



「へぇ…!城下町で?」

リリアンヌの目がわずかに輝いた。



「ええ、そうです。今までも王子様が生まれるたびに、大きな祭りが開かれましたから」



「そうなんだね」


祭りは、好きだ。



「あ、ほら、お嬢様。手が止まっていますよ」

ニアが、はっとしたように窘めた。


「授業の前に、明日着ていくドレスも決めてしまいますから、急いで召し上がってください」



「はい」


リリアンヌは素直に返事をすると、目の前の食事に意識を戻した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ