激動する戦局①
レックス視点
四階は、すでに戦場と化していた。
見える先に、見張り台が広がっている。
その上で、多くの白の騎士が黒の騎士に斬りかかっていた。
「反逆者どもを粛清しろ!」
考えるより先に、叫んだ。
「はっ!」
レックスと共に来た国王直属騎士団が、一気に戦場へ繰り出した。
「……」
その間に、素早く視線を巡らせた。
眠っていたはずのマコが起き、隅で避難している。
味方が二人、戦闘に巻き込まれないよう護っている。
まだ、リリアンヌはいない。
キリもブライアンもいない。
「…アランフォース。さっさと、リリアンヌを探しに行け」
「……」
返事は、なかった。
「これは、命令だ」
レックスは振り向き、黙ったままのアランフォースを睨みつけた。
「最優先は、俺じゃねぇ。リリアンヌだ」
「…!」
アランフォースは、わずかに目を見開いた。
「俺のもとに、連れてこい」
「……」
それでも、まだ動かなかった。
――ドンッ…!
「!」
二人の足元へ、人影が叩きつけられた。
「がっ…!」
「…!おい、フーリン!」
落ちてきたのは、味方の騎士だった。
「…陛下っ!」
フーリンは、息絶え絶えに上体を起こした。
右肩が、深く抉れている。
「お前、どこから――」
「陛下!リリアンヌ殿下が襲われています!」
言い切る前に、鋭い声が遮った。
「…あ?」
「あそこです!」
フーリンが指したのは、上にある崩れかかった見張り塔だった。
暗くて、何も見えない。
だが…
何だ、あの気配は。
何だ――あの、禍々しい黒い光は。
「化け物に…!早く!」
フーリンの顔は、アランフォースに向いていた。
アランフォースの目つきが――一瞬で変わった。
「…エドガー!」
「はっ!」
レックスが呼ぶと同時に、エドガーが右手を差し出した。
アランフォースがすぐその手に触れ、消えた。
「…そこに、霊拝師がいる。血を止めてもらえ」
「これくらい、平気です」
フーリンは、血が滴る肩を押さえながら立ち上がった。
「それで、化け物とはどういうことだ」
「ブルックが、ヌシカと呼んでいました。すぐに、他の者たちも向かうべきです」
「……」
レックスは辺りに目を向け、素早く思考を巡らせた。
国王直属騎士団により、聖守護騎士団とザンビア兵が倒されていく。
それでも、立っている人数はまだ同じくらいだ。
「…まずは、ここからだ」
リリアンヌのもとへは今、アランフォースが向かった。
門の外にも、まだ大勢のザンビア兵がいる。
やがて人力で門を開け、ここまで上がってくるかもしれない。
今、分散すれば、すべてが中途半端になる。
「国王直属騎士団!お前らの力は、こんなものか!」
レックスは剣を抜き、まっすぐ戦場に足を踏み入れた。
「さっさと片付けろ!」
「おおっ!!」
黒の騎士たちが、力強く答えた。
一気に、敵陣を見張り台の端まで押し込んでいく。
「よぉ、ジュバル」
「ぎゃ…っ!」
レックスは、名を呼んだ騎士を斬り込んだ。
「イクロン。気弱なお前が、こんなところまでどうした」
「がっ…」
今度は、別の騎士の首を斬り裂いた。
聖守護騎士団は、愚かだ。
だが、決して謀反を起こすような奴らではない。
自分の命が、何よりも大切な奴らだ。
それが、こんな無謀な手を打った。
それもすべて、ヌシカの仕業だというのか。
レックスは、そのまま前線を突き進んだ。
塀を越えて逃げようとしたザンビア兵を、背中から斬り裂いた。
――ブォォォォォォ……
「!」
微かに聞こえた音に、レックスは、胸壁に手をついて身を乗り出した。
いつの間にか、雨が止んでいる。
それに、夜が明けている。
雲が重く、気付かなかった。
ザンビア砦の門に続く一本道に、いくつもの灯りが見えた。
今の音は、援軍を知らせるものだ。
灯りの数からして…千ほどはいるか。
これで、門の外にいるザンビア兵のことは気にしなくていい。
ここを片付ければ、リリアンヌのいる見張り塔へ向かえる。
「…よし」
レックスは、くるっと振り向き――
致命的な油断をしたことに、気が付いた。
「死ねぇ…!」
目の前に、レオがいた。
振り抜かれた剣が、首めがけて真横から迫っている。
避けられない。
その剣が――
レックスの喉元で静止した。
「…!?」
「あ…がぁっ…」
レオが、大きく目を見開いた。
よろりと後ずさり――ドシャッと崩れ落ちた。
その後ろから、別の人影が現れた。




