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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第九章/ザンビア砦の戦い
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混迷の戦場③

レオ視点



「…国王直(フィデリス)属騎士団(グラディウス)が、起きているな」


目を閉じていたスワハマが、ふいに口を開いた。



「話が違うではありませんか…っ」


レオは、焦れるように身を乗り出した。



「いや、儂は言ったはずだぞ。毒を盛るなら、即死するものでないと意味がないとな」



「そんな薬、百人分も手に入りませんよ」


もう、何度も慌ただしい足音が響いている。


てっきり兵どもが、国王直属騎士団を始末しているのだと思っていた。


それに。



「まあ、まだ焦るな。レックスは精霊を持っていなかった。それなら、上階にいるロデオの娘の方だ」


スワハマは、悠長にワインを飲んでいる。



「精霊さえ手に入れば、問題ない」



「なにを…その上階が、崩壊したではありませんかっ…!」


城塞を崩壊させるなど――聞いていなかった。



「精霊も巻き込まれたのではないですか!?」



「馬鹿言え。精霊はそんな簡単に死なんだろ」

スワハマが、がははっと笑った。



「安心しろ。潰れたのは、六階だけだ。まあ、階段は使えなくなったかもしれないがな」



「……」


六階にも…多く兵を配置していたはずだ。



頑丈さが取り柄の城塞が、


なぜ、こんなあっさり崩れた。


一体、どうやって――



「…っ…聖守護騎士団(サークラグラディウス)の多くは、この階に配置しているでしょう?」


レオは、広い食堂をうろうろと行き来した。



「早くしないと、精霊に逃げられてしまうぞ…!」


そうなったら、すべてが水の泡だ。


もう、後戻りなどできない。



「ブルックらが、上に潜んでいたはずだ。最上階には、リリアンヌ殿下とブライアン殿下しかおらん。すぐに捕まえられるだろ」



「何を呑気なっ――」



「…許せぬ」


ぞくりと冷える声が、室内に響いた。


部屋の温度が、一気に下がった。



「…あ」


レオは、ゆっくりと中央の席へ目を向けた。



目を閉じていた精霊が――起きている。



「オーリア様のちからを使うなど…許せぬ」


黒々しい靄が広がり、食堂が暗くなっていく。


ミシ、ミシッ…と壁が軋み、灯りがふっと消えた。



「…っ!」


思わず、部屋の隅まで後ずさった。



スワハマが連れてきた精霊――


精霊王オーリアの側近、ヌシカ。


書物や像でしか見かけない、伝説の名だ。



実際のヌシカは、恐怖以外の何ものでもなかった。



こいつが…六階を崩壊させたのか。


それくらい、容易くやってのけそうだ。



「ヌシカ様、どうなさいました?」



「やはり、分身ではちからが出ぬか…」


ヌシカは、スワハマを一切無視した。



「…直接、私が手を下しにいこう」



「どちらへ向かわれるおつもりで?」


スワハマは気にせず、もう一度尋ねた。



「黙れ」



――ドンッ…!



突然、壁がスワハマに向かって突き出した。


座っていたスワハマの姿が、パァンッと弾けた。


血かワインか分からない染みが、レオの足元にまで跳ねた。



「…ひぃぃぃ!」


どさりと尻餅をつき、そのまま這うように後ずさった。



「どう…懲らしめてやろうか」


ヌシカが、音もなく立ち上がった。


体を覆う黒い靄が、再びぶわりと広がった。



「あれは――最後だ」


靄の中にかろうじて見える瞳が、妖しく光った。



「はっ…はぁっ…く…っ」


逃げろ。


逃げなくては、殺される。



「っ…」


レオは這いつくばりながら、扉の外へ飛び出した。



聖守護騎士団がいるところへ――


四階で待機しているなら、門の上の見張り台か。


あそこには、武器も大量に置いてある。



「…た、立てっ…」


震える足を押さえて立ち上がり、ふらふらと廊下を進んでいった。



あそこを曲がれば、見張り台へ出られる。


曲がった瞬間――



「…!」


はっと、足を止めた。



見張り台では、すでに戦いが始まっていた。


降りしきる雨の中、剣を交わしている。



うぉぉっ…と唸るような声が響き渡っていた。



「がぁっ…」


すぐ目の前で、血だらけのザンビア兵が崩れ落ちた。



「…ひぃっ」


レオは体を屈め、端へと逃げた。



見張り台に設置されている大砲の陰に、素早く隠れた。


雨粒が眼鏡を激しく叩き、あっという間に視界がぼやけた。



まるで、戦場だ。


あちこちで、人が斬られていく。



「く、くそっ…」


戦いの経験など、ない。


訓練など、ほとんど受けてこなかった。


それでも、騎士になれた。


簡単に、砦の長になれた。



なぜ、こうなった。


ただ私は、精霊を手に入れたかっただけだ。


ただ、ちからが欲しかっただけなのに。



「反逆者どもを粛清しろ!」


廊下側から、さらに黒い軍服の男たちが現れた。


聖守護騎士団を、数で上回った。


ザンビア兵はもう、ほとんど残っていない。



終わりだ。


たったこれだけで、最強部隊に勝てるわけがない。


もう、終わりだ。



「…!」


黒の騎士たちの中に、やけに目立つ金髪の男を見つけた。


ぼやけていても分かる。


あれは、レックスだ。



…あいつが。


レックスが王になってから、コールテッド家の流れは変わった。



領土を減らされ、法務長官だった伯父を、王都からごみのように追放した。


領に帰ってきた伯父は、父と一緒になって私を罵倒するようになった。


役立たずと罵られ、こんな場所へ追いやられた。


こうなったのも、すべてレックスのせいだ。



あいつさえ、いなければ。


国王さえ、仕留めれば。



国王直属騎士団も、剣を置くだろう。


そうしたら精霊はもう、自分のものだ。



もう少しだ。


あと少しで、精霊が手に入る。



…まだ、隠れていよう。



隙を見て、


あの首を――



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