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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第九章/ザンビア砦の戦い
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動き出した闇②

リリアンヌ視点



この階は、最上階の大きな傾きよりはましだった。


斜めになった廊下を歩いても、滑り落ちるようなことはない。



左側には潰れて変形した扉が、右側には、大きな窓が並んでいる。


窓はひび割れ、そこから雨が入り込んできている。


雨粒が肌に当たり、一気に体が冷えた。



廊下の微かな灯りに照らされ、窓の外が見えた。


見張り塔だろうか。


広い足場があり、外に出られるようになっている。



「…ブライアン様。窓の外へ出るのはどうでしょうか」


リリアンヌは前を行くブライアンに近づき、そっと尋ねた。



「駄目だ。逃げ道がなくなる」



「……」


確かに…


私は飛び降りることができても、ブライアンは無理だ。



「!いたぞ…!」


廊下を半分進んだところで、前方から兵たちが現れた。


先ほどより、もっと数が多い。



すでに、剣を抜いている。


じり、じり…と間合いを詰めた。



「…どうして」


建物が、これだけ崩れている。


ここから出る方が、先ではないのか。



どうして当たり前のように、自分たちを襲ってくるのだろう。



「どうして…?理由など、関係ない」


ブライアンが静かに剣を抜き、構えた。



「…やるしかない」



「……」


どうして――ブライアンは、当たり前のように構えられるのだろう。



「…君は、後ろに」



「…!」


庇うように出したブライアンの左手が、微かに震えている。



違う。当たり前じゃない。


ブライアンだって、実戦は初めてのはずだ。



心を、決めているんだ。


やらなきゃ、殺されるから。



「…私も、戦います」


リリアンヌは、ゆっくりと剣を抜いた。



「大丈夫だ」


ブライアンはそっと囁くと、ひとり、足を踏み出した。



「かかれ!!」


兵たちが、一斉に迫った。


ブライアンは、まっすぐに左手を伸ばした。



――ドドドドドドドッ…!



光の連撃が、兵たちを次々と撃ち抜いた。



「いてぇっ!」


「ぎゃっ…」


「ぐぅっ…!」


前列の兵たちが、まとめて吹き飛んでいく。



「くそっ!」


攻撃を避けた兵士が、再び迫ってきた。


ブライアンは剣を振り抜き、躊躇いなくその兵士を斬った。



「かかってこい…!」


また、左手から光の連撃を放った。



「……」


リリアンヌは剣を握ったまま、何もできないでいた。



…強い。


暗いと、光のちからは半減するはずなのに。



狭い廊下が、功を奏している。


兵たちは、一気に攻めあぐねている。



「…!リリアンヌ、後ろだ!」



「えっ…!」


ブライアンの声に、急いで振り返った。



「いたぞ!」


兵たちが、後ろからも現れた。


最上階から、回り込まれた。



「殺せっ…殺せ!」


「俺がやる!」


兵たちは転げ落ちそうになるのも構わず、勢いのまま突っ込んできた。


その目は、誰もが血走っていた。



「…っ」


リリアンヌは両手で、剣を強く握りしめた。


足を踏み込み――



――バリーーーン…ッ



真横の大きな窓が、突然弾け飛んだ。



「…え!?」


咄嗟に、頭を左腕で覆った。



「うっ!」


「ぎゃああ!」


「がぁっ…」


迫っていた兵たちの体が、腹から切れた。


血が飛び散り、服に、びしゃっと跳ねた。



「…っ、あ…」


兵たちが、目の前でゆっくりと崩れ落ちていく。



急に、何かに視界を遮られた。



「すまない。遅くなった」



「あ…き、キリ…」



「大丈夫か」


キリが覗き込むように、じっと顔を近づけた。



「…うん」


リリアンヌはキリから目を逸らし、後ろに振り向いた。


ブライアンは、兵たちをすべて倒していた。



「…はぁ、はぁっ…」


肩で息をして、苦しそうだ。


相当ちからも使っていた。



「…リリアンヌ。大丈夫か」


汗を拭いながら、こちらに顔を向けた。



「…はい」


しっかりしろ。


震えている場合じゃない。



何のために、鍛えたの。


何のために、覚悟を決めたの。



「この砦を抜け出す」



「…えっ?」


キリはリリアンヌの手から剣を取り上げると、腰の鞘に戻した。



「この城塞の上から反対側に回って、先に進む。今すぐだ」



「ちょっ、ちょっと待って、キリ!」


リリアンヌは、担ごうとするキリの手を慌てて止めた。



「行くなら、ブライアン様も…!ここに置いていけない」



「時間がない」



「…そんなに、襲ってきた兵たちがいたの?」



「人族など、相手にもならない」



「じゃあ、どうしたの!」



「説明している暇はない」



「リリアンヌ、僕なら平気だ」



「ブライアン様…わっ…待って、キリ…!」


このままだと、本当にブライアンを置いていってしまう。


こんな焦るキリなんて、初めてだ。




「――どこへ行く気だ?」


ぞくりと冷たい声が、辺りに響いた。



「…っ」


キリはリリアンヌを下ろすと、庇うように後ろへ隠した。



「何者だ…!」


ブライアンが振り向き、再び構えた。



「お前が、リリアンヌだな。…会いたかった」


声の主は、ブライアンに答えなかった。



「……」


リリアンヌは横へずれ、キリの後ろから覗き込んだ。


ブライアンの奥に、誰かいる。



「…え?」


あれは…何?


――誰?



「加護を持っているくせに、護られてばかりか。お前は、愚かだな」


あの、黒い光に囲まれたものは――


人じゃない。


…精霊?


かろうじて見える顔は、どこか見覚えがあった。



そうだ。


大聖堂に置かれる、もう一体の像に似ている。



「精霊よ。なぜ、こんな非力な者に加護を与えた。今すぐ、取り消せ」


まさか――



「…ヌシカ?」


呆然と、その名が口を衝いて出た。



「私の名を、気安く呼ぶな」


ヌシカは、リリアンヌにすっと指を向けた。



――バチバチバチッ…!



間髪入れず、桃色の光が目の前を覆った。



「…ポポ!」


ポポが前に躍り出て、大きな盾を作っている。



「…お前、何をしている」


バチバチと激しい音の隙間に、ヌシカの低い声が響き渡った。



「愚かな…」



――パァァンッ…!



桃色の光が弾け、ポポが吹き飛ばされた。



「ポポ!!」


吹き飛ばされた精霊を、リリアンヌは両手で抱き止めた。


ぐったりしている。


すぐに、ポポへ白のちからを送った。



「…なんてことを!」


リリアンヌの瞳が――怒りで燃えた。



あれは、敵だ。


ヌシカは――敵だ。



精霊が精霊を傷つけるなんて。


絶対に、許さない。



「人族の味方をするなど、誠に愚か」


ヌシカが、再び指を伸ばした。



「目を、瞑って!」


リリアンヌは叫ぶと同時に、オーリアのちからを解き放った。



カッ――と緑の閃光が走った。



「これは…」


ヌシカは、眩しそうに目を細めている。



「ナナ、手伝って!」


リリアンヌの声に、黄緑の光が前に出た。



ナナは、くるりと空中に大きな円を描いた。


その中心に――大きな雷の槍が現れた。



雷の槍が、まっすぐに飛んでいき――



――バリバリィ…ッ!



雷鳴と共に、ヌシカの首を貫いた。



「…お前が、なぜオーリア様のちからを使える」


吹き飛ぶ首が、ぎょろりと動いた。



「…許さぬ」


頭のなくなった体が動き、まっすぐにリリアンヌを指さした。



「…!」


キリが、リリアンヌを強く突き飛ばした。



「あっ…!」


後ろへ倒れ込んだ、その瞬間――



――ゴッ…!



目の前の壁が、突然せり出した。


せり出た壁は、キリの体に激しくぶつかり、窓の外へ吹き飛ばした。



「キリ!」


リリアンヌは咄嗟に右手を伸ばし、白のちからを放った。


キリの体は一瞬だけ白く光り、見張り塔を越えて暗闇の中へ落ちていった。



「…ポポ!キリを、護って!」


桃色の光が、一瞬にして飛んでいった。



「…!」


リリアンヌは素早く立ち上がり、ヌシカがいた方を睨みつけた。



ヌシカは、消えていた。



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