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セスランディア王国物語  作者: あきよし りん
第九章/ザンビア砦の戦い
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始まりの合図

アランフォース視点



「…キリ殿、どうした」


アランフォースは、もう一度尋ねた。



「……」


キリは、まだ城塞を凝視している。


その口が、ゆっくりと開いた。



「…何だ、この禍々しい存在は」



「…禍々しい存在?」


砦に入った時から感じた、得体の知れない気配か。



「何だ…?精霊と、また違う――」



「――ほう。私は、精霊ではないと言うのか」



「…!」


二人は同時に振り向き、素早く構えた。



屋根の上で――黒い光が、蠢いている。



「…キリ。久しいな」


黒い光から、再び声が聞こえた。



「……」


隣にいるキリが、尋常ではない緊張感を放っている。



「まさか…私のことを忘れたのか?四百年ぶりに会うというのに、冷たいな」


うねる黒い光が近づき――その中から、人影が現れた。



「このヌシカのことを、忘れたのか?」



「……」


アランフォースは大剣の柄に手を掛けたまま、人影から目を離さなかった。



ヌシカ――


精霊王オーリアの、側近と同じ名だ。



全身が、禍々しい黒い光に包まれている。


その光に照らされ、かろうじて顔だけが浮かび上がっていた。



「…なぜ、ここに現れた」

キリが、慎重に返した。



「エルフが、加護持ちの人族に協力していると聞いてな。どの馬鹿だと、確認に来た」

ヌシカは、ふっと嘲笑を浮かべた。



「お前がいて、納得した。お前は、精霊狩りを経験していないからな」



「…何が言いたい」


キリの手が、静かに剣の柄に伸びた。



「我々精霊を苦しめた人族に、なぜ協力する」


ヌシカは、ゆっくりと二人に指を向けた。



「この――裏切り者め」


その言葉と同時に――



「…!?」


「…ぐ…っ!」


アランフォースとキリは、がくんっとその場で膝をついた。


思わず大剣から手を離し、両手で体を支えた。



立っていられない。


何か、重たいものが圧し掛かったようだ。



「お前だけではないな。エルフ全員、裏切り者だ。オーリア様を、見捨てた」


体が押し込まれ、足元がひび割れた。



「人族もエルフ族も、滅べばいい」


ヌシカをまとう禍々しい光が、めらりと膨れ上がった。



「…っ」


これくらいで、止められはしない。


以前、山賊に使われたちからと同じだ。



アランフォースは、強引に片膝を持ち上げた。



「…くっ…!」


全身が、軋む。


力んだ瞬間、あばらが折れる音がした。



剛腕のちからを一気に解放し、大剣を引き抜いた。



「…ほう。人族にしては、やるな」



「お前は、精霊王の味方ではないのか!」


キリは膝をつけたまま、ヌシカに向かって叫んだ。



「精霊王の意思を、無視するのか!」



「オーリア様の、何が分かる」


冷たい殺気が、鋭く走った。



「お前が、語るな」


ヌシカが、再びキリに指を向けた。



「…っ!」


キリの体が、さらに沈んだ。



その隙に、


アランフォースは、一息でヌシカのもとまで踏み込んだ。



「ぐっ…!」


軋む腕を、無理やり振り抜いた。



――ドッ…!



大剣が、ヌシカを真っ二つに斬り裂いた。



「…私もまた、本調子ではないな」


斬られたヌシカは、ゆらりと揺れ――



「…さて、始めるか」


消えた。



その瞬間、体が一気に軽くなった。



――ドガガガガガガガガガッ…!



足元が大きく揺れた。



「…!」


アランフォースとキリは、反射的に振り返った。



城塞の中腹が、無数の砲弾でも撃ち込まれたかのように弾け飛んだ。



――ゴゴゴゴゴゴ…ッ!



崩壊した中腹が沈み込み、上階が大きく傾いた。



「リリアンヌ…っ!」


キリは、即座に屋根から飛び降りた。


アランフォースもすぐに続き、駆けるキリを追いかけた。



「キリ殿…!ヌシカのちからは、何だ!」



「何も分からない…!」


キリは、前を見たまま首を振った。



「私は、ヌシカなど知らない…!」



「…!?どういうことだ!?」


ヌシカは、明らかに知り合いのように話していた。



「分からないが…あれは、もう精霊ではない!」


キリの顔は、見たことないほど焦燥していた。



「それなら、あれは何者だ!」


まだ、あれは生きている。


まだ、大きな気配は消えていない。



「今は、ゆっくり考えている場合ではない…!」


キリが体を浮かせ、城塞の外壁に足をつけた。



「お前たちも、気を付けろ!」


そのまま壁を駆け登り、あっという間に見えなくなった。



「…っ」


アランフォースは、さっと城塞の入り口へ目を向けた。


剣や槍を構えた兵たちが、門の中へ入っていくところだった。



確かに、キリの言う通りだ。


考えている暇は、ない。



大剣を握り直し――進行する兵たちに、突っ込んだ。



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