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第一章Ⅲ(広がっていく知識)③

リリアンヌ視点



「じゃあ、リリィ。まずは挽いてみてくれるかしら」



「うん」

リリアンヌは乳棒を持ち上げ、慎重に挽いていった。



ゴリ…ゴリ…と擦る音が、静かに響く。

乳鉢の中の薬草が、ぱらぱらと細かく崩れた。



「上手よ。そのまま、今度は白のちからを使って」



「分かった」



「あ、待って、リリィ」



「なあに?」



「息苦しさを感じたら、すぐにやめること。自分の限界を知ることも大切な勉強よ」



「うん、分かった」


息苦しさを感じたら、やめる。


リリアンヌは心の中で繰り返すと、指先に白のちからを送った。



乳鉢の中が、眩い光で溢れた。




――飲む人が元気になる姿を、想像する。



昨日、会った子たちが、


サムと呼ばれていた子が。


これを飲んだら、どうか元気になりますように。




「――…リリィ!」



「は…えっ、なに…?」

リリアンヌは、はっと手を止めた。


「ごめんなさいっ…何か間違えた…?」



「いいえ、違うわ」

シルヴィアはリリアンヌの肩に手を置くと、じっと瞳を覗き込んだ。


「そんなにちからを送って、何ともない?無理は…していないのね?」



「うん…大丈夫…」


少なくとも、昨日のような息切れは起きていない。



「…リリィ、これを見て」



「え…あっ!」



乳鉢の中は――


草や花が、たった今摘んできたかのように、元に戻っていた。



「な、なんで…?」


ちからを送る前は、乾燥した薬草を挽いていたはずだ。



「こんな現象は、初めて見るわ…」

シルヴィアは、乳鉢を見つめながら小さく呟いた。



「ごめんなさい…薬草を無駄にしちゃった」

リリアンヌは、泣きそうな顔で謝った。


何でこうなってしまったのか、さっぱり分からない。

だけど確実なのは、銀貨一枚分の薬を駄目にしてしまったことだ。




「いいえ、無駄になることはないわ。また乾燥させればいいのだから」



「でも…乾燥させるのには、時間がかかるでしょう…?」



「そうね…今回は、煎じてみようかしら」

シルヴィアは立ち上がり、草花が溢れた乳鉢を持ち上げた。



「お茶にしてあの子たちに飲ませるから、大丈夫よ」

そう言うと、調理場の方へ運んでいった。




「私…薬を作れないのかな」


ちゃんと、飲む人を想像してちからを送ったつもりだったのに。

それとも、何か願い方を間違えてしまったのだろうか。



「…リリィ。もう一度試しましょう。今度は、私も一緒にやるわ」

シルヴィアは戻ってくると、リリアンヌの方へ椅子を寄せて腰掛けた。




「…うん」



「そうね…次は、静痛薬を作ってみましょうか」



「せいつうやく?」



「痛みを静めるための薬のことよ」



「へぇ…」



「私が挽いてみるから、リリィは私の手元に向けて、白のちからを送ってくれるかしら」

シルヴィアは別の瓶を引き寄せ、乾燥した薬草を少しずつ皿に取り分けた。




「できるかな…」



「失敗しても大丈夫よ。だけど、痛みが和らぐようにと祈りを込めてね」



「痛みが和らぎますように、だね…」



「それから、頭の中で出来上がった粉末の薬を思い浮かべてみて」



「うん、分かった」


すぐに、先ほどシルヴィアが作った薬を頭に思い浮かべた。



「私の腕に触れて…そう。同時にちからを送りましょう」

シルヴィアは並べた薬草からひとつを選び取ると、乳棒で手際よく挽いた。



「…リリィ、今よ」


合図と同時に――目を閉じ、白のちからを放った。


乳鉢の中が、光で溢れた。




――飲んだ人の痛みが、和らぎますように。

それから、ちゃんと薬として届きますように。



「…あ」


自分のちからが、シルヴィアの体を通っていくのを感じる。


ちからは白い光となってシルヴィアの中へと流れ込み、

胸の奥――心臓の辺りの光と、ぐるりと混ざり合った。


とても不思議な感覚だった。




「…大丈夫そうね」


シルヴィアの言葉に合わせて、リリアンヌは、ふっとちからを解いた。


一瞬で繋がりが切れた。



「今度は、ちゃんと白のちからが込められたわ」



「白のちからが込められているかどうか、見分けられるの?」



「ええ。ほら、よく見てみて」

シルヴィアは乳鉢を持ち上げると、リリアンヌの前で小さく揺すってみせた。



「あっ」


粉末の中に、光が混じっている。




「白い光の粒が分かったかしら?これが、白のちからが込められた薬という証なの」



「さっき私が元に戻した草花は、光っていなかったね…」



「ええ、そうだったわね。だけどあれには、何かしらのちからが込められている」

シルヴィアは出来上がったばかりの粉を瓶に入れながら、小さく首を傾げた。


「白のちから以外で薬草にちからを送れるものって、一体何かしら…」



「あの…シルヴィア。私がちからを送ったものを飲んでも、本当に大丈夫かな…?」



「え?どうして?」



「例えばだけれど…望んでないのに、私が毒を作ってしまったってことはないかな…?」

リリアンヌは、不安そうに尋ねた。



もともと、自分が白のちからを持っていることは想定外だった。


確かに、傷を治すことはできた。

子供たちの病気を治すこともできた。


だけど、本当にこれは白のちからなのだろうか。

あんな不思議な現象が起きた薬草を、煎じて飲ませて大丈夫なのだろうか。



「ああ…それは、誰でも一度は通る道ね」

シルヴィアは、ふっと優しい笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。もともと薬草が持っている効き目以外のものが加わることはないから」




「…そうなの?」



「ええ。それに、あなたの白のちからを私はしっかり感じたわ」



「あ…多分、シルヴィアのちからを私も感じた」



「この辺りで、混ざり合ったわね」

シルヴィアは、自分の胸をそっと指差した。



「うん…すごく不思議な感覚だった」


白のちからが混ざり合うなんて、初めて知った。




「白のちからはね、まだ分かっていないこともいっぱいあるの」



「そうなの?」



「ええ。だから、あなたの白のちからが私と違っても、何も心配しなくて大丈夫よ」



「…薬草が育ったこと?」



「それと、感覚も違ったわね」



「え…?そうだった?」

リリアンヌはきょとんと目を丸くした。



「リリィの白のちからは――温かくて、優しい」

シルヴィアは、今度はリリアンヌの胸元をそっと指した。



「きっとあなたは、精霊王オーリアの祝福を多く貰っているのね」



「…祝福」


昨日から、何度もシルヴィアが使っている言葉だ。



「さ…リリィ。残りの薬草も挽いてしまいましょう」



「あ…うん」



「今度は、あなたひとりで試してみなさい」



「だ、大丈夫かな」



「一度感覚を掴めば、大丈夫よ。それに、失敗を怖がっていては成長できないわ」



「うん…そうだね」



「今度は、この薬草を挽いてみて」



「分かった」



「…あら、挽き方がうまくなったわ」



「えへ…少しだけこつを掴んだかも」



「そう、上手よ…」


静かな部屋に、ゴリ…ゴリ…と乳棒を挽く音が響いた。



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