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第一章Ⅲ(広がっていく知識)②

リリアンヌ視点



「あのね…私は、怒っているわけではないのよ」

シルヴィアは、くすっと困ったように笑った。



「そうではなくて…霊拝師(オランス)にならないのなら、あなたのそのちからは知られてはいけないことを分かってほしいの」



「うん、分かった」

リリアンヌは、素直に頷いた。




「昨日のようなことは、絶対にしないこと。約束できるかしら?」



「…えっ」

思わず声を漏らした。


昨日のようなこととは、子供たちに白のちからを送った件だろうか。




「あの子たちには、私が白のちからを使ったということにしたわ。だから、話を合わせて頂戴」



「…うん、ありがとう」



「あなたのことは、近所の子と紹介しているの。あとで、孤児院の方へ行ってみてあげてね」

シルヴィアはそう言うと、再び手元へ視線を落とした。


細かく挽いた薬草を小瓶へ移し、木の匙と小さな包み紙を引き寄せた。

三つの小瓶から、それぞれ粉を匙ですくい取り、包み紙の上へ少しずつ重ねていった。



「はい。これで薬の出来上がり」


混ぜ合わせた粉を包み紙ごと器用に折り込み、小さくまとめた。



「…この繋ぎ薬ひとつで、いくらするの?」

リリアンヌは、恐る恐る尋ねた。



「大銀貨一枚。一万ラークよ」

シルヴィアはすぐに答えた。



「……」


まだ、この国の通貨の価値がよく分かっていない。




「そうね…城下町で働く人たちが、月に大銀貨五枚から八枚ほど稼ぐと言えば、想像しやすいかしら」



「!」


それはとても分かりやすい。



「え…薬ひとつで、そんなにするの…?」


分かった途端、その高さに息を呑んだ。


月の稼ぎの五分の一が消えてしまう。




「それも、初級(フォリア)霊拝師の作った薬ね」



「シルヴィアは、初級なんだね」



「ええ、そうよ。がっかりした?」



「えっ?なんで…!?」

リリアンヌは、きょとんと目を丸くした。


どうして、がっかりするのだろう。



「…中級(ペタルム)の薬は、だいたい初級の十倍。上級(フロース)が作った薬は、市場に出回ることはないの」

シルヴィアは優しい笑みを浮かべ、説明を続けた。


「ちなみに薬師(メイディ)の作った薬は、初級霊拝師の作った薬の十分の一ほどよ」




「ひとつ、千ラークということだね」



「そう、銀貨一枚。治療院でも薬療院でも、薬を頼むと、まず薬師の作ったものが出されるわ」



「なるほど…」


それでも、高いと思った。



「それじゃあ、リリィ。作ってみる?」

シルヴィアは、空にした乳鉢と乳棒をリリアンヌの前に寄せた。



「うん…!」

リリアンヌは元気よく頷いた。




「でも、白のちからは使ってはいけないわ」



「えっ」



「こんなところに繋ぎ薬があったら、大変なことになってしまうから」



「…でもさっき、シルヴィアは」



「あれはだから、秘密。私は、元薬師。ここに白の使い手はいないの」



「…あ、そっか」

リリアンヌは、しゅんと目を伏せた。


シルヴィアは、ここの人たち以外には元霊拝師ということを隠している。



「ふふっ…じゃあ、ここの子たちのために、白のちからを込めて作ってくれる?」

シルヴィアはそっと提案した。




「…いいの?」



「ただし、ここ以外では薬を勝手に作らないこと」



「うん、もちろん」



「それから、絶対に無理だけはしないこと。分かった?」



「…分かった」

リリアンヌは、小さく頷いた。




「あの子たちはしばらく寝たきりだったから、まだうまく体が本来の通りに動いていないの」



「栄養が足りていないってことだよね?」



「ええ、そう。でも、栄養の失調はどんな白の使い手でも癒すことはできない。たくさん食べてよく寝て、時間をかけて戻すしかないの」

シルヴィアはテーブルの奥に手を伸ばすと、並ぶ瓶のうちから三つを手前に引いた。


「これからあなたには、体の弱りを戻すものと、胃腸の働きを助ける薬を作ってもらうわ」




「…うん」



「あら…ごめんなさい。子供に使うような言葉ではなかったわね」

シルヴィアは、ふふっと苦笑をこぼした。


「あなたが賢いから、思わず大聖堂で教えていた時の口調になってしまったわ」



「…大丈夫。それくらいなら分かる」

リリアンヌは真剣な表情で呟いた。



「難しいことは、何もないわ。選ぶ薬草は、ゆっくり覚えればいいのだから」

シルヴィアは手前に引いた瓶から、それぞれ薬草や花を取り出して乳鉢の中に入れた。



「最初から混ぜて挽いてもいいの?」


先ほど作ったものは、粉にしてから混ぜ合わせていたはずだ。




「これは、今日中に飲むものだから。正確に調合しなくても大丈夫よ」



「正確に調合した方が、日持ちするということ?」



「その通りよ。あなたが今やることは、ひとつ。これを飲む人が元気になる姿を想像しながら、白のちからを使って頂戴」



「…それだけでいいの?」

リリアンヌは、小さく目を瞬いた。


もっと、具体的なことを願わなくていいのだろうか。




「人に直接ちからを送る時は、具体的な祈りが必要ね。でも、薬草に送る時はその必要がないの」



「あ…シルヴィアの選んだ薬草自体に、さっき言った効き目があるから?」



「正解よ。薬草に白のちからを込めると、その薬草の持っている効能を高めることができるの」



「へぇぇ…」


初めて知ることだらけだ。


すごく勉強になる。



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